2012年度ケースプロジェクト発表会
2012年8月11日(土)
去る8月11日に、2012年度のケースプロジェクト最終発表会を行いました。今年度は韓国企業との競争に敗退する日本企業が目立つなかで、むしろ韓国と組むことで発展を遂げている日本企業に注目してみようという趣旨から、PRO-KOREAというテーマを立てました。例年になく難しいテーマという指摘もありましたが、蓋を開けてみると興味深いケースが続出したと言ってよいかと思います。審査の結果は以下のとおりです。
金賞:ワコム(梅田チーム)
銀賞:大阪ガスケミカル(西国チーム)
銅賞:エイベックス(西宮チーム)
金賞のチームは、他を圧倒する高得点で優勝を飾りました。これほど点差がつくことは珍しく、まさに別格の観がありました。彼らが取り上げたのは、サムスンのギャラクシーノートなどに採用されている電子ペンを供給するワコムです。ワコム自身が主にイラストレーターに向けた電子タブレットを古くから手がけていたのですが、そこに使うペンなどの部品を外販する戦略に転換し、韓国勢のスマートフォンという勝ち馬に乗ることができたというストーリーに、それだけ説得力があったのでしょう。確かに、アップル社の向こうを張るサムスンにはアイフォーンにない特徴を打ち出すニーズがあり、そこにレディーメイドのソリューションを持っていたのがワコムでした。そのワコムが、自らセット商品を持つにもかかわらず、サムソン製品に組み込まれる道を選択した英断は、戦略の視点から見て汎用性に富む教訓に満ちており、順当な審査結果と言えそうです。
銀賞のチームは、携帯電話の内蔵カメラに使用されるフレオンレンズを供給する大阪ガスケミカルをケースに選びました。大阪ガスは、かつて石炭を蒸し焼きにして、そこから発生するコークスガスを都市ガスとしていましたが、廃物であるタール分を有効利用する研究に手を染め、そこからフレオンという樹脂を手に入れました。これでレンズを作ると屈折率が高くなるため、薄くなる一方の携帯電話にはもってこいに見えたのですが、既に量産されていたポリカーボネート製のレンズに満足していた国産勢は振り向いてくれなかったと言います。しかし、捨てる神あれば拾う神ありで、ノウハウの蓄積に乏しいサムスンがフレオン製のレンズに目をつけて、あとはシンデレラ物語というわけです。ここでも興味深いことに、材料ビジネスを展開しようとしていた大阪ガスケミカルが、加工品を要求するサムスンの意向に応えて戦略を転換したからこそ、この物語が生まれたという事情があります。
以上の二ケースには、大躍進を遂げている韓国製スマートフォンを影で支えるキーデバイスを実は日本企業が供給しているという点や、そういう日本企業が伝統的な大企業とは一線を画している点が共通しており、興味をそそります。さらに、いずれのケースも日本企業側の戦略転換を経て成功に結びついた経緯があり、我々にとっては考えさせられるところが多々あると言ってよいでしょう。テーマを設定した私としては、我が意を得たりと叫びたくなるところです。
ただし、銀賞以下は団子状態になっており、一点差で隣接する圏内に何と9チームがひしめく結果になりました。とりもなおさず、これがテーマの難しさを物語っています。時代の転換点で、タイミング良く戦略転換ができている企業がそれだけ少ないということなのかもしれません。だとすると、気になるところです。
なお、金賞チームは秀逸なケース選択によって勝利の栄冠を手中にしたと言っても過言ではないと思います。当初は、電子ペンという汎用性の高いデバイスをたまたまサムソンが大量に買い付けただけのケースという印象があったので、私自身は自信を持てませんでしたが、リサーチが進むにつれ、ワコムサイドの戦略性が見えてくるに至り、尻上がりに評価を上げることになりました。手探りでリサーチを進めたメンバーの力量をたたえたいと思います。
(文責:三品和広)
◆金賞チーム
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