2024年度ケースプロジェクト発表会

2024年8月3日(土)

2024年のケースプロジェクト研究の成果発表会が8月3日に行われました。今年度のテーマは、「How do you achieve your healthy growth? フィットネス業界における戦略立案」です。

本研究では、フィットネス事業を「フィットネスクラブを中心としたスポーツ・ヘルスケア関連事業」と定義し、運動施設の提供だけでなく、スポーツ教室やパーソナルトレーニングなどサービスの提供、ウェアやサプリメントなどの物販等も含むものと捉えます。各チームは、フィットネス事業の責任者の立場から、フィットネス事業が健全な成長(healthy growth)をもたらすにはどのような手を打つべきか、という課題に取り組みました。

ステークホルダーに中期的な戦略を説明するという位置づけで行われた、ケースプロジェクトの成果発表会では、「中期的に見て、フィットネス業界はどのようになっていくか」、「それを踏まえ、あなたが責任を担うフィットネス事業は、どのような手を打つべきか」という2つの問いに、根拠を示しながら答えることが求められました。

2024年度ケースプロジェクト研究発表会の様子

過年度のケースプロジェクト研究では、基本的に全てのチームが同じ条件で、共通の課題に取り組む形式でしたが、今年度は初回授業時に、各チームが異なる6社(株式会社ルネサンス、セントラルスポーツ株式会社、コナミグループ株式会社/スポーツ事業、RIZAPグループ株式会社、株式会社Fast Fitness Japan、株式会社カーブスジャパン)のいずれかのフィットネス事業の責任者に割り当てました。こうして、神戸大学MBAの学生たち全12チームが、同じ企業に配置された2チーム×6社に分かれ、他社と比較した自らの組織の特徴をより意識した戦略提案に取り組むことになります。

8月3日の終日をかけて行われた成果発表会では、各チームが4か月間をかけて調査と分析を行い、発表会の直前まで議論を重ねた成果のプレゼンテーションが行われました。

各プレゼンの前半では、それぞれのチームが独自の調査から導いた、中期的なフィットネス業界の見通しが示されました。2019年に約5,000億円の規模まで成長していたフィットネス市場は、2020年のコロナ禍により3,000億円近くまで縮小しましたが、2022年には4,500億円まで回復しています。また、スポーツ庁の調査等によれば、健康への関心の高まりを背景に、週1回以上運動をする人の比率は、過去30年の間に27.8%から53.2%へ倍増しています。また第3回の授業では、株式会社クラブビジネスジャパンの古屋武範社長にゲスト講師としてお越しいただき、フィットネス業界の現状とトレンドについても詳しい講義をいただきました。

当日のプレゼンテーションで興味深かったのは、こうした共通のデータやインプットを踏まえているにもかかわらず、企業毎に、また同じ企業でもチーム毎に、フィットネス業界の将来の見通しが大きく異なっていたことです。市場に対して悲観的な見通しを前提とするチームもあれば、新たな成長可能性に着目するチームもあり、それが続いて提示される戦略の多様性にも繋がっていきました。

2024年度ケースプロジェクト研究発表会の様子

戦略提案では、事業の盛衰を左右する様々な要因を解きほぐし、新たな事業提案を含む戦略的な打ち手を構想することが求められます。それぞれのプレゼンテーションに対しては、審査にあたる教員たちから、「独自性の高い尖った提案になっているか」、「エビデンスを示しながら説得力のある主張がなされているか」などを問う、厳しい質問も多く投げかけられました。また、事前に時間をかけて準備をした内容であっても、それを初めて聞かれる審査員にはうまく伝わらないケースもあり、20分という限られた持ち時間の中で、自分たちの提案のどういう点を伝えるべきかの戦略も問われる場となりました。

金賞 セントラルのせんとくん

銅賞受賞のチーム

全体として、同じ企業をテーマとするチームでも二つとして同じ内容はなく、それぞれに独自性も実現可能性も高い、優れた戦略提案のプレゼンが次々となされました。そうした非常にレベルの高い成果発表会で、審査の教員からもっとも評点を獲得し、金賞となったチームは、セントラルスポーツ株式会社を担当したチーム「セントラルのせんとくん」でした。フィットネス業界の見通しとして、市場規模は伸びる一方で価格競争が激化するという予測に基づき、ターゲットとして“バブル最後の世代を経験したシニア”というコホートに着目。ターゲットに対して健康以上にWellbeingを提供することを主眼に、セントラルスポーツの既存のアセット(ジム・プール・スパ)をシームレスに繋ぐことで、良質な睡眠を提供する「アクアリトリート」という価値提案を行う具体的な施策が説明されました。収益・財務状況、二次情報の分析に基づいて同社の強み・弱みを把握することに加え、異なるエリアに立地する複数店舗のフィールドワークから得た気づきをもとに、戦略の4つの方向性を明確に定義したことや、十分に活用されていなかった資産(プールやトレーナー)を生かし、サービス価値をリフレーミングするアイデアが高く評価されました。

銅賞 ディンプリング

銅賞受賞のチーム

銀賞は、株式会社Fast Fitness Japanの戦略提案を行った「ディンプリング」でした。これまでの店舗拡大戦略による成長の限界を見据えた上で、複数のフランチャイズ(FC)店舗オーナーやユーザーへのインタビューに基づき、本部主導で早期退会の防止と継続会員のエンゲージメント強化を目指す取り組みを提案しました。独自の調査に基づいて二次情報だけではわからない同社の課題を明らかにしたこと、オンラインサービスやファンマーケティングを通じて本部とFC店舗の両方に意義のある施策が具体的に提案され、実現可能性も高いこと、またプレゼンテーションの表現力も高く評価されました。

銅賞 マグナム・Team北摂

銅賞は、いずれもRIZAPグループ株式会社を担当した2つのチーム、「マグナム」と「Team北摂」が同点で受賞しました。

マグナム

銅賞受賞のチーム

「マグナム」は、現役世代の運動習慣づけを社会課題と捉え、ナッジ理論により未顧客を捉えたchozoZAP事業の成長を評価しつつ、さらなる多店舗展開とテナント化の有効性を打ち出しました。同社の現状の方向性を維持する提案でしたが、財務シミュレーションに基づき戦略の妥当性が説得的に示されたことが高く評価されました。

Team北摂

銅賞受賞のチーム

「Team北摂」は、BtoB(法人向け)に市場機会を見出し、RIZAPの現役トレーナーや他者の経営者へのインタビュー調査や財務分析に基づき、短期的にはパートナーシップによる店舗展開で基盤を強化、中長期的には健康経営の推進を含む法人向けサービスを拡張する事業戦略が提案されました。審査の教員からは、ロジカルで腹に落ちる説明であったこと、短期/長期の提案が具体的で実現性も高い、といった評価がなされました。


入学直後から全受講生が参加するケースプロジェクト研究をはじめ、経営課題に対してチームで知恵を出し合いながら解決策を探る「プロジェクト方式」による学びは、神戸大学MBAの醍醐味の一つです。成果発表会では、審査の教員からも「自分が経営者だったら、提案された戦略を採用するか」という視点で、真剣な評価とフィードバックがなされました。専門知識を身に着けるだけでなく、それを論理的に伝えるプレゼンテーション(アカデミック・ライティング)や、優れたチームワークを形成する人間性、企業が直面する困難な現実に新たな機会を見出す創造性などが要求されるプロジェクト研究は、まさに一人では身に着けることのできない学びが、学生と教員が相互にコミットし合うことで実現される場だと実感されました。

(文責:吉田 満梨