加護野忠男論文賞について
神戸大学のMBAプログラムは、2009年3月をもって20周年を迎えました。これを機に、これまで外部に開放していたMBA論文賞を衣替えして、新たに神戸大学内部で加護野忠男論文賞として再出発を図ることになりました。今年はその2年目ということになります。
この論文賞の意義は、神戸大学のMBAプログラムの成り立ちと深くつながっています。欧米のMBAプログラムが20代半ばの学生を主たる対象として、経営リテラシーの向上を企図するカリキュラムを組んでいるのに対して、入学生の平均年齢が37歳に達している神戸大学のMBAプログラムでは、プロジェクト方式という独自の理念を掲げています。これは、教員が学生に一方通行で講義をするのではなく、学生が自らの手を汚して研究課題に取り組むことを重視するという姿勢を現しています。その中心を占めるのが、二科目のプロジェクト研究と、修士論文の執筆で、仕事に従事する学生が仕事を離れることなく、仕事を進める中で抱いた問題意識を取り上げて、とことん究めてみる場をそこで提供しようと考えています。
加護野忠男論文賞は、そのような位置づけを持つ修士論文に学生が意欲をもって取り組むよう後押しする目的を持つと同時に、どういう論文が高い評価を受けるのか例をもって明示するという役割を果たします。それゆえ、選考には慎重を要します。
この要請に応えるべく、選考は三段階で行います。第一段階ではゼミの指導教員が、自ら指導した約14名分の論文のなかから上位2本を選びます。これは論文に取り組むプロセスも見たうえでの評価になることから、誠実な論文しか、このステージを通過することはないと思います。この段階で、およそ70本の論文が10本にまで絞られます。第二段階では、次年度のゼミ担当教員4名とMBA教務委員が提出された論文を読み、第一段階を通過した10本のなかから上位3本を選びます。この段階では専門外の教員が審査に加わるため、主張を導く手続きの信頼性に重きが置かれることになると思います。最後に第三段階では、経済界の代表者、出版界の代表者、学界の代表者で、上位3本のなかの順位付けを行います。この段階では、実業的な視点から見て面白いか否かが問われることになると見ています。全体を通しては、1)現実に対して意味のある含意を提供する論文か、2)その含意を導くプロセスが信頼に足るものか、を審査の基準に掲げます。
論文賞に加護野忠男教授の名前を冠したのは、神戸大学のMBAプログラムの創立メンバーの中心人物として、加護野教授が By the Job Learning というコンセプトを編み出し、プロジェクト方式を定着させるうえで残した多大なる貢献に敬意を払うためです。ここから世界に向けて、関西発の経営教育の発想を発信していければと考えております。
文責:2009年度MBA教務委員 小川進
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