2013年度加護野論文賞 第一次・第二次選考結果
加護野忠男論文賞・第一次審査と第二次審査について
加護野忠男論文賞とは、神戸大学のMBA論文のうち、優秀作品を表彰する賞です。神戸大学のMBAプログラムの創立メンバーの中心人物として、Research-based Educationを根幹とする日本型のMBA教育を構築、推進されてきた加護野忠男教授(甲南大学教授・神戸大学名誉教授)の多大なる貢献に敬意を表し、そのお名前を冠した賞です。
MBA教育について先行した欧米諸国のプログラムが、20代半ばのMBA生をターゲットとし、経営学の知識やスキル向上をめざした教育内容を持つのに対し、神戸大学のMBAプログラムは、平均年齢30歳代後半という管理職または管理職候補の企業勤務者であるMBA生に対し、受講生自らが、経営課題を識別し、問題解決を図るための能力を養成するという教育目標を掲げています。その目標を達成するために、MBA生にはプロジェクト方式の科目への取り組みと修士論文執筆を課し、仕事を通じて抱いた問題意識を、研究活動によって自ら課題解決をはかっていくというプロセスを経験させるという教育内容となっています。
加護野忠男論文賞は、神戸大学のMBA教育プログラムの中で重要な位置づけを占める修士論文に対して、MBA生が意欲的に論文執筆に取り組むよう動機づけると同時に、どのような論文が高い評価を得るのか、例をもって明示するという役割を担っています。
選考プロセスは、3段階に分かれ、まず修士論文指導をゼミ形式で指導してきた5名の指導教官の推薦よりそれぞれ2本が選ばれ、70本近い提出論文のうち、10本が審査対象へと絞りこまれることになります。第2次選考では、選ばれた10本の論文について、学内選考委員により上位3本が選出されます。この選考委員会は、次年度のゼミ担当教官5名とMBA教務委員とで構成されます。最終選考では、2次選考委員会で推薦された3本の論文に対して、経済界、出版会から選出された学外審査委員と、加護野教授が、上位3本のうちの順位づけを審査の上、決定します。つまり対象となる論文は、様々な専門性を有する研究者と外部審査委員によって、論文の手続き的な信頼性への評価と、産業界に対する貢献における評価との両面から審査され、選考されることになります。
2013年度第一次選考通過論文
各ゼミ担当教授は以下の優れた論文を推薦しました(敬称略・順不同)。
金井 壽宏 | |
金田 悠一郎 | エンジン開発現場のネットワーク構造特性と研究開発パフォーマンス |
山本 りえ | 仕事と家庭の両立における個別配慮(I-deals)の役割に関する研究ー子を持つ女性管理職に注目してー |
高嶋 克義 | |
釜平 雅史 | 環境配慮型製品の開発プロセスに関する研究?国内自動車産業の事例に基づいて? |
南 公男 | 戦略の策定と実行における齟齬 -企業改革の事例に基づいて- |
藤原 賢哉 | |
中正 成則 | 経営者交代と利益調整?単体財務諸表の特別損失に着目した分析? |
山本 桂司 | Jリーグにおけるゼネラル・マネジャーの役割に関する考察 |
原 拓志 | |
飯尾 憲一 | なぜ新しい市場を創造する商品が作れなくなったか ‐古野電気の事例研究‐ |
中根 哲 | 医薬品の探索研究段階におけるプロジェクトマネジャーの役割に関する研究 |
南 知惠子 | |
松田 年史 | 日本製造業におけるサービタイゼーションの導入プロセスの促進要因 |
皆川 達也 | 自動車業界における新興国での部品サプライヤーのマーケティング戦略 |
一本ずつの論評は控えますが、本年の特徴として、我々のような研究者では到底アクセスできないような貴重なデータにアクセスした分厚いケース記述が多かった、必ずしも先行研究や主流のパースペクティブに縛られない独自の視点からの分析が幾つも見られたということがあげられます。
このようなことができているのも、上記の通り、本MBAのプロジェクト方式によるトレーニングを経て、各自が日頃の仕事の中で生まれた問題を深く突き詰めて考察できるようになっているからではないかと思います。指導教員やゼミの同級生たちとのディスカッションがさらに視野を広げたり、長年の仕事の中でいつの間にか疑うことのなかった業界特有の固定観念に揺さぶりをかけたりできたのではないかとも推測します。彼らの素晴らしい研究成果に対して敬意を表します。
2013年度第二次選考通過論文
2014年3月3日、次年度のMBAゼミ担当教員5名(高橋潔教授、栗木契教授、梶原武久教授、畠田敬准教授、松嶋登准教授)を審査員として、加護野忠男論文賞の第二次選考を実施しました。2時間に渡る熱のこもった討議の末、ゼミ担当教授が推薦した論文のうち、次の3本が第二次選考通過となりました。
釜平 雅史 | 環境配慮型製品の開発プロセスに関する研究ー国内自動車産業の事例に基づいてー |
南 公男 | 戦略の策定と実行における齟齬ー企業改革の事例に基づいてー |
中根 哲 | 医薬品の探索研究段階におけるプロジェクトマネジャーの役割に関する研究 |
優れた10本から3本だけを選ぶという作業は困難です。5名の審査員は研究領域も日頃利用する研究方法も違い、均一の基準でそれらを評価できるわけではありません。
まずは各自の評価を持ち寄った上で、その評価できる点と問題点とについてフリーにディスカッションしました。そこでは、どうしても各審査員は自身の研究に近い論文には厳し目の評価となってしまうこと、逆に日頃は扱うことのないテーマについて好奇心が掻き立てられ、驚きを感じやすいという傾向がありました。審査員同士は各自の専門性をリスペクトしつつも、もしその専門家が慣れによって論文の面白みに鈍感になってしまっていると感じた場合には遠慮無く指摘しあっていました。
第二次選考通過の3本は、ロジカルで論文としての出来栄えが素晴らしいだけで なく、未来を志向し、今日の日本企業が抱える問題の解決のための示唆に富む力作です。 釜平さん、南さん、中根さん、おめでとうございます。
文責:2013年度MBA教務委員 三矢 裕