野口豊嗣  さん

株式会社日経広告勤務  2005年度入学生 國部ゼミ

【なぜ、MBAを志望したのか】

私は、日本経済新聞社グループの広告会社でクライアント企業のコミュニケーション活動の立案から実施のお手伝いをする仕事をしています。近年、企業が自らを取り巻く環境の変化に対してより高度な対応を求められる中で、そのコミュニケーション活動に携わる私たちも業務の遂行のためにより高度な知識や技術を求められるようになってきています。

特に、この何年かの間に非常に重要性を増してきているのが企業価値と無形資産の概念です。企業のコミュニケーション活動を考える上で、企業価値と無形資産がこれからの企業経営にどのような影響を及ぼすのかをより詳しく確かな形で知る必要があると感じたことが、私がMBAを志望する直接的な契機となりました。

【受験に向けて】

本格的に準備をはじめたのは、2004年のGWくらいなので研究計画書の提出の8ヶ月程度前ということになります。

前述したとおり、企業価値と無形資産とコミュニケーション活動の関係について考えるということが、私の研究テーマの方向性でした。研究テーマについて研究計画書を作成するためには、まずは一定の専門知識が求められると考えました。一方、私の大学時代の専攻は政治学で経営学の分野については系統立った学習をしたことはありませんでした。

そこで、私は、まず受験準備の大きな柱として(社)日本証券アナリスト協会の通信教育講座を受講することにしました。本講座は証券アナリストを目指す人のためのカリキュラムです。「財務分析」「証券分析とポートフォリオマネジメント」「経済」の3科目について毎月送られてくる教材について学習して、課題の答案を返送して添削を受けるシステムとなっています。MBAの科目に置き換えると、アカウンティングが「財務分析」で、ファイナンスと統計が「証券分析とポートフォリオマネジメント」で学べるはずであり、企業価値の概念の理解に役立つであろうと見込みをつけました。あわよくば証券アナリストの資格試験の合格も目指そうかとも思いましたが、実際に取り組んでみると予想通りレベルが高く、一方でMBAの受験に向けて他にも勉強する必要があったので、MBAの受験、そして研究に役立つと思われるパートに絞って学習することにしました。

アナリスト協会の通信教育講座の受講については、私の特殊な事情もありましたので補足します。私は、この3月から所属企業の大阪のオフィスに勤務していますが、それまでは名古屋に勤務していました。つまり、受験準備からMBAの1年目のほとんどの期間は名古屋に住んでいたわけです。神戸大学大学院MBAプログラムは、いくつかの講義が平日夜間に開講されます。受験を決めたときに、HPで時間割を確認したところ、アカウンティング、ファイナンス、統計といった科目が平日に割り振られているようでした。入学できたら、毎週土曜日は名古屋から通学するつもりでしたが(実際そうしていました)、平日夜間の受講はさすがに不可能です。自分の研究テーマに決定的に重要な科目が受講できないとなると大変なことになるという危惧があったわけです。

果たして、入学後、発表された2005年度の時間割を確認すると、アカウンティング、ファイナンス、統計(リサーチメソッド)は3科目とも平日夜間の開講となっていました。結局、アナリスト協会の資格試験は、アカウンティングの知識が得られてMBAでの研究活動に役立つと判断して全パートについて学習した「財務会計」のみ合格するにとどまりましたが、ファイナンス、統計についても、イメージしていた目標レベルの知識は得ることができ、研究計画書の作成にも役立ちました。そして、何よりも重要なことは、これら3科目の講義は受講できませんでしたが、他の講義でその知識が求められる場面でハンディキャップを感じることはなく過ごせているということです。私にとって、この選択は非常に有意義であったと思います。

研究計画書の作成に必要な他の分野の知識は、主に書籍を読むというノーマルな方法で対処しました。

以下、研究計画書の作成と入試の各科目について、私の感じたことをお話します。

【研究計画書】

他の多くの受験者の方と同様、私も研究計画書の作成には相当悩みました。ただ、研究計画書の作成一般については、参考図書の項で挙げさせてもらっているものをはじめとして参考になる本が市販されていますので、まずはそれを読まれることをお勧めします。

ここでは、私が入学後に感じている神戸大学大学院MBAプログラムの特色から、本学受験時に提出を求められる研究計画書を作成する際に力点を置いた方が良いと思うことについて簡単に述べておきたいと思います。

HPでも触れられていますが、神戸大学大学院MBAプログラムでは、「論文重視」と「働きながらだからこそ実現できる学びの貴重さ」(「働きながらでも取得できるMBA」ではないことが重要です)が入学後もたびたび強調されます。

ここで、まず、「論文重視」とは、修了用件としての論文の重要性を指しているので、これはそのまま、受験時の研究計画書の重要性を示していると判断してよいかと思います。

もうひとつの「働きながらだからこそ実現できる学びの貴重さ」については、研究計画書の作成にあたって、その研究の必要性が自らの仕事における経験に基づいていることと、その研究に取り組むのが自分であることの好ましさが語られているかという点は重要なポイントになると理解するとよいのではないかと思います。

神戸大学大学院MBAプログラムの出願時の研究計画書の様式は他校に比べて文字数は少ないといえます。しかし、実際に書いてみるとわかるのですが、文字数が少ないだけに自分が「これだ」と思うものがイメージできていないと全く中身のないものしか書けません。やはり、自分の研究したいことについては、非常に深く考えることが求められているといえます。

【英語】

まずは、過去問題をコピーサービスで手に入れて、辞書持ち込み可という本番の条件で答案を書いてみました。まったく歯が立たないということはなく、むしろ、研究計画書や小論文の方に力をかけたかったので特にそれ以上の準備はしませんでした。

しかし、いざ本番となると、まず、時間配分において2問中1問目に時間をかけ過ぎるという失敗をし、あせりも手伝ってか2問目のキーとなる表現がどうしても判らず、満足できる回答ができませんでした。過去の問題を見ても、内容は経営学のトピックスです。やはり、経営学に関する基本的な用語の英訳は押えておく必要はあったと反省しました。また、問題文で論じられていることの概念について知識がなければ回答は困難なものになります。英語のテストではありますが、経営学で扱われるテーマ全般について知識を持っていることは必ず役立つはずです。

神戸大学大学院MBAプログラムで求められている英語のレベルがどの程度なのかがわかると効率よく準備もできるはずなのですが、過去の合格体験記を見ても、難しいという人から比較的簡単だという人までさまざまです。つまり、受験時のレベルが受験者の間でばらつきがあるようで判断の難しいところです。ちなみに私の場合は、過去10年ほどの間、何年かおきに思い出したように勉強して計3回TOEICのテストを受けましたが、入試直前の秋に受けたテストのスコアは、745でかろうじてBランクに引っかかっているというレベルでした。

【小論文】

試験で小論文といわれるものを書いた経験がなかったので、試験直前のお正月休みを利用して「一夜漬け」ならぬ「一週間漬け」で準備をしました。ただし、後述するとおり、「一週間漬け」は付け焼刃を意味するものではありません。

具体的に説明すると、まず、『イミダス』(『現代用語の基礎知識』など、類書ならどれでも可)の「経営」の項目に一通り目を通します。その後、新聞、雑誌などで話題になっている企業経営に関するトピックスも参考に想定問題を作成し、本番の試験と同じ1時間の制限時間で答案を書いてみるというものです。12月15日の入学願書と研究計画書の提出後に想定問題の作成に取り掛かり、お正月休みの7日間に毎日3本から最も多い日で5本の小論文を書きました。

これはやって良かったと思います。制限時間内で制限字数の小論文を書くということは、実際にやってみると私にとっては思いのほか難しく、この準備なくして本番は乗り切れなかったと思っています。神戸大学大学院MBAプログラムの入試の小論文は他校に比べて字数が少なく、書き始める前に自分の中で起承転結を明確にしておかなければ途中で修正することは非常に困難です。私の場合、上記の準備のおかげで、様々なテーマに対応するための基礎となる「持論」を文章化できていたことで、本番時の対応力がついたと思っています。冒頭、付け焼刃ではないと言ったのは、この「持論」のまとめを最大限効果のあるものにするには、研究計画書を書き上げた後に行うのが適切であるとの判断に基づいたものであったからです。

【面接】

面接では研究計画書の内容について問われます。当然、研究計画書に書いたことについてより深く突っ込んだ質問がされるものかと思っていましたが、意外にも、記載した内容の確認といった印象を受けました。ただ、終わりに近づいたときに自分の考察があいまいであることに気づいていなかった箇所について質問が飛んできました。一瞬ひるんでしまったのですが、自分でも驚いたことにひとりでに答えが出ていました。試験官の方が、私の答えに本当にご納得いただいたのか否かは定かではありませんが、先に触れた、直前の小論文トレーニングで「持論」を整理できていたことが、このときも助けになってくれたように思っています。

【最後に】

以上、事後的には改善点であると思ったことも含めて私の体験をお話させていただきました。今、こうして、自分でも準備の過程を振り返ってみて改めて思ったことは、いかにして合格するかを考える最もよい方法は、いかにして良い研究を進めるかのイメージを自分なりに持ち、それに基づいて計画を立て実行していくことではないかということです。

私も多くのクラスメイト同様、実際、なぜ合格したのかは今もってわかりません。しかし、合否を決める側からみれば、よい研究をしてめでたく修了する人に入学してほしいと考えるはずです。となれば、やはり受験のための準備というより、良い研究を進めるための準備という考え方で取り組むほうが好ましいといえるのではないかと思います。

このつたない合格体験記が読者の皆様のお役に立つのか不安もありますが、神戸大学大学院MBAプログラム受験に向けての皆様のご健闘をお祈りして筆を置きたいと思います。

受験生へのオススメ本

1. 研究計画書を書くに当たって
  • 妹尾堅一郎(1999)『研究計画書の考え方ー大学院を目指す人のために』ダイヤモンド社

大学院受験対策としての研究計画書の書き方のノウハウとにとどまらず、大学院での研究というもののイメージがつかめて有益でした。 

  • 飯野一・佐々木信吾(2003)『国内 MBA 研究計画書の書き方』中央経済社

国内の様々な大学院のMBAプログラムの合格実例が掲載されており、他校と比較したときの神戸大学大学院MBAの特徴をつかむのに役立ちました。

2. 経営学の知識を得るために
  • グロービス・マネジメント・インスティテュート(2002)『MBAマネジメントブック』ダイヤモンド社

経営学がどのような分野をカバーしているかの「メニュー」的な役割を果たしてくれます。ただし経営学全般についての基礎的な知識を得るためには十分とはいえないと思います。英語の試験の所でも触れたように、もう少し詳しい入門書を読んでおいたほうが良かったと思います。(他の合格体験記の執筆者の方のお勧めをご参照ください。)

  • グロービス・マネジメント・インスティテュート(1999)『MBAファイナンス』ダイヤモンド社

ファイナンスの概念についての考え方から実務における応用例まで、基本的な知識を得るのに役に立ちました。    

  • グロービス・マネジメント・インスティテュート(2004)『MBAアカウンティング』ダイヤモンド社
3. 自分の研究テーマに関連して

上記のような経営学の基礎知識を得るための本と平行して、自分の問題意識は何なのか、その問題を自分はどのように解決するのかについて考えていくわけですが、私の場合は次のような本を読みました。

  • デービッド・A.アーカー(1994)『ブランド・エクイティ戦略ー競争優位をつくりだす名前、シンボル、スローガン』ダイヤモンド社
  • 広瀬義州ほか(2003)『ブランドの考え方』知的財産総合研究所
  • 遠藤彰郎・岡田依里・北川哲雄・田中襄一編著(2004)『企業価値向上のためのIR経営戦略』東洋経済新報社
  • 岡田依里(2003)『企業評価と知的資産(改訂版)』税務経理協会
  • 谷本寛治(2003)『SRI社会的責任投資入門ー市場が企業に迫る新たな規律』日本経済新聞社
  • 石井淳蔵(1993)『マーケティングの神話』日本経済新聞社

この他にも、多くの著作に目を通しましたが、これらが私の研究の方向性を決定付けるのに重要な影響を与えてくれました。

4. 小論文対策として
  • 吉岡友治(2002)『大学院 大学編入学 社会人入試の小論文』実務教育出版

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