藤井 安子さん
弁護士 2025年度入学生 梶原武久ゼミ
はじめに
このページをご覧になっている皆さまは、神戸大学MBAへの挑戦を考え、情報を集めていらっしゃるのだと思います。私自身、受験を決めてから出願までの間、この「合格への道」を読み、先輩方の言葉に多くを学び、また励まされました。今度は私の体験が、どなたかの背中をそっと押す一助となればと願い、筆を執っています。
私は、弁護士として法律実務に携わる傍ら、2025年4月より神戸大学MBAで経営学を学び始めました。法律の世界から一歩踏み出しての挑戦であり、仕事と学業、さらに家庭との両立を考えると、不安がなかったわけではありません。しかし、いざ学び始めてみると、久しぶりに学生という立場に身を置く日々は、新鮮な発見と刺激に満ちています。
自分の専門とは異なる分野へ踏み出すには、それなりの理由がありました。まずは、その動機からお話しさせてください。
なぜ「今」、経営学なのか
きっかけは、数年前、ご縁を頂いて、ある上場企業の社外取締役に就任したことでした。もともとは社外監査役として関与していたのですが、その後、社外取締役に立場が変わり、経営判断そのものに参画することが求められるようになりました。そこで、私は大きな戸惑いを覚えました。
監査役のときは、主に法令や定款への違反がないかという観点から経営を監督する立場でしたが、取締役として求められるのは経営の意思決定への直接的な関与です。実際の取締役会で付議される議案には、法的な問題とは直接関係のない、純粋な経営判断に関わるものが数多くありました。その意思決定の場に直面したとき、法律の知識だけでは十分に貢献しきれないのではないか、と痛感しました。
取締役としての責務を全うし、企業価値の向上に真に貢献するためには、経営者の方々と同じ言語で議論し、事業の根幹を深く理解する必要がある。そう考えたとき、経営を体系的に学び直すことが不可欠だと思い至りました。日々の実務の中で芽生えた「このままではいけない」という焦りと問題意識が、神戸大学MBA受験という具体的な一歩につながりました。
なぜ「神戸大学」なのか
経営学を学ぶと決意したとき、私の選択肢は最初から「神戸大学」一択でした。
率直に申し上げると、まず「経営学を学ぶなら神戸大学」という強い思いがありました。日本の経営学を長く牽引してきた歴史と実績、そして「経営といえば神戸大学」という確固たるブランドへの憧れ。せっかくMBA(経営学修士号)を取得するのであれば、やはり神戸大学のタイトルが欲しいと考えました。国内最高峰の環境で体系的に学び直すなら、ここしかないと考え、他のビジネススクールは一切検討しませんでした。
もう一つは、ごく現実的な事情ですが、自宅から最も近い大学だったことです。弁護士業務を継続しながら大学院へ通う日々を乗り切るためには、移動の負担を最小限に抑えることも重要な条件でした。
学びたいと思える大学であり、かつ実際に通い続けられる環境でもある。その両方が揃っていたことが、神戸大学MBAを志望する大きな決め手となりました。
合格までの道のり(受験対策)
ここからは、私自身が取り組んだ受験対策について具体的にお伝えします。
私にとって、経営学は未知の領域であり、ゼロからのスタートでした。もっとも、日々の仕事に追われ、正直なところ、受験に向けて十分な準備はできませんでした。それでも、そんな私の経験が、これから挑戦される方の一助になればと思います。
①研究計画書の作成 ―― 経歴とのリンクに集中する
研究計画書は合否を分ける最重要書類だと多くの先輩方が書かれていますが、私自身は、書類そのものの作成に長い時間をかけたわけではありません。
私が意識したのはただ一点、「研究テーマと自分のこれまでの経歴を、しっかりとリンクさせること」でした。今の私だからこそ取り組めること、これまでの経歴やバックグラウンドがあるからこそ見えてくること。自分の歩みの延長線上にこそ、「自分だからできる研究」があると考えました。
②筆記試験(小論文)対策 ―― 先輩方の知恵を借り、実際に過去問を解く
それまで経営学を一度も体系的に学んだことのなかった私は、受験を決意した当初、何から手をつければよいのか、いわゆる定番の教科書がどれなのかすら、分からない状態でした。そこで、まず頼りにしたのが、この「合格への道」です。ここで多くの先輩方が参考にしたと紹介されている定番のテキストを買い求め、経営学の基本的な考え方や用語に親しむことから始めました。
その上で、大学生協のコピーサービスを利用して過去問を入手し、実際に時間を計って「手を動かして書く」練習を行いました。考えてみれば、手書きでまとまった文章を書くテストは、司法試験や司法修習以来のことだったため、まずはその感覚を取り戻しておきたいと考えました。普段の弁護士業務でも文章を書く機会は多いのですが、それはパソコンを使い、時間制限もなく、分からないことがあればその都度調べることができる環境でのことです。何も見ずに頭の中の知識だけで、実際の問いに対してどのように構成を立て、制限時間内に書き切るか——その感覚を、過去問の練習を通じて身体に染み込ませました。本番で慌てないためにも、一度は時間を計って実際に「手書きで」書いてみることを強くお勧めいたします。
③面接(口述試験)
面接については、特別な対策をしたわけではありません。ただ、研究計画書の内容については必ず聞かれるだろうと考え、提出した計画書を改めて読み返し、口頭で簡潔に説明できるように準備をして臨みました。
ところが、実際の面接は、私の予想とは少し違いました。面接官の先生方は研究計画書を読み込んでくださっていて、記載内容そのものを問われることはありませんでした。むしろ、計画書の内容は理解しているという前提の上で、そこから一歩踏み込んだ質問が投げかけられました。
研究計画書は、提出して終わりの書類ではなく、面接における「対話の出発点」でした。面接の場では、背伸びをした立派な回答を用意するよりも、自分の経験に根差した言葉で、誠実に語ることが何より大切なのではないかと思います。
入学後に待っているもの
無事に合格し、学び始めた今、毎日が知的な刺激に満ちています。もっとも、現実は想像以上にハードでした。授業の膨大なレポート課題や予習に加え、グループワークのための連日深夜にわたるミーティングに追われ、入学当初は「覚悟が足りなかったのではないか」と、半ば途方に暮れていました。それでも、必死に食らいついていくうちに、やがて視界が開けてきました。いずれの授業も実務と直結しており、これまで法律の枠組みだけでは見えていなかった景色を見せてくれます。実務の中で何となく使っていた言葉や考え方が、理論として整理されていく。漠然と感じていた違和感やアイデアが、自分なりに言語化され、人に説明できるようになる。しかもそれが、すぐに経営の実務に活かせるのです。神戸大学MBAでの学びは、単に知識を増やすだけのものではありませんでした。
何より大きかったのは、物事を見る視野が広がったことです。私は弁護士として、法律の専門家であることを当然の前提に仕事をしてきました。しかし、経営学を学ぶ中で、自分が良くも悪くも「専門家」であったことに気づかされました。専門性は強みです。しかし同時に、専門性は物事の見方を狭めることもあります。私はこれまで、企業の課題を主に法的リスクやガバナンスの観点から捉えていました。けれども、実際の企業経営において問われるのは、「法的に問題がないか」だけではありません。その先にある、「では、何をなすべきか」という経営判断です。不確実性の中に機会を見いだし、限られた経営資源をどこに配分するかを意思決定し、顧客に価値を届け、組織を動かし、企業価値を高めていく。そうしたダイナミックな経営の営みに触れ、いかに自分がこれまで「法律家の視点」からしか物事を見ていなかったかを痛感させられました。
視野を広げてくれたのは、授業だけではありません。同期から得るものも、非常に大きいものでした。弁護士として企業法務に関わることはあっても、その企業の中で実際に会社を動かしている人たちの「生の声」を直に聞く機会はめったにありません。MBAでは、まさに会社を動かしている当事者たちと机を並べ、その生の声に触れることができます。異なる業界の第一線で活躍するクラスメートたちと議論を交わす中で、自分の業界の当たり前が社会の当たり前ではないと気づかされる。その一つひとつが刺激に満ちています。
法務とビジネスの双方の視点を往復し、物事を複眼的に捉える。その姿勢を身につけられたことは、これからの私にとってかけがえのない財産です。こうした圧倒的な視野の広がりと、最高の仲間たちとの学びが、神戸大学MBAにはありました。
これから受験される皆さまへ
「経営学を学んだことがない」「準備に多くの時間を割けない」——そうした理由で挑戦を躊躇している方がいれば、ぜひ一歩を踏み出してみてください。私自身がまさにそうでした。このホームページに載っている先輩方の勉強法を参考にし、過去問で実戦感覚を磨けば、初学者でも十分に道は開けます。
もっとも、正直に言えば、私は受験勉強に十分な時間をかけられず、経営についてほとんど知識のないまま入学してしまいました。そのため、凄まじいスピードと課題の量についていくのにずいぶん苦労しました。今思えば、「合格」だけをゴールにするのではなく、その先の学びを見据えて、もう少し基礎を勉強しておけばよかった、というのが率直な反省です。これから挑戦される方には、ぜひ受験勉強のプロセスそのものを、MBAでの学びを豊かにするための有意義な助走期間として活用されることをお勧めします。
「なぜ今、自分が経営を学ぶのか」という強い目的意識があれば、神戸大学MBAは、きっとそれに応えてくれる場所だと思います。ここには、実務と結びついた学びがあり、志を同じくする素晴らしい仲間との出会いがあります。そして、自分の殻を破る、かけがえのない経験が待っています。
皆さまも、ご自身の問題意識を信じて、ぜひ飛び込んでみてください。皆さまの挑戦を、心より応援しております。