森田 紗貴子さん

ファイザー株式会社勤務 2023年度入学生 鈴木竜太ゼミ

1. はじめに

「なんで “今”  MBA!?!?」家族にも、同僚にも、入学後神戸大学MBA の同期にも驚きをもってかけられた言葉です。理由は、私が5歳、2歳、1歳(受験当時)の子どもを育てる母親であるからです。子育てに限らず、仕事+αの何かの事情で「MBAに興味はあるけど、今じゃないかも?」と迷っておられる方は少なくないのではないでしょうか。実は、私は胸を張れるような受験準備をする時間のないまま、「先延ばしにしても仕方がないから、挑戦してみよう!」と飛び込んでみてしまったので、具体的な受験対策を詳しくお知りになりたい方にとっては、物足りない内容となるかもしれません。そんな私でも、「合格への道」への寄稿を通してできることがあるとすれば、迷っている皆様の背中を受験に向けてほんの少し押すことではないかと考えています。何かご参考になる部分がありましたら幸いです。

2. MBAを志した経緯

私が出願したのは2022年ですが、その時の状況はというと、同年の8月に第三子の育休から復職したばかりで、フルタイムで働いていました。夫は私より激務であり、実家は遠方で、実際かなり綱渡りの生活をしていました。そんな中でMBAとは…。もう少し諸々落ち着いてからでいいんじゃないの?と考えなかったわけではありません。しかし、いつかMBAに挑戦したいとかねてから思っていた私にとって、2022年は受験に向けて強く背中を押された年でもありました。勤務している製薬会社が、その年大きな変革の時を迎え、多くの同僚が自身のキャリアについて考えていました。私は入社以来営業職でしたが、このタイミングで他のポストに移ることは自身のブランクやスキル、家庭の状況を考えると現実的ではありませんでした。しかし、現状維持のまま立ち止まっているのももどかしく思えました。そこで、「ある程度やり方のわかっている仕事をしている今のうちに、MBAに挑戦するのがいいかもしれない」と発想するに至りました。

何故もともとMBAに興味があったかというと、今の自分の視野やスキルのままでは、将来の展望が描けなさそうだと、なんとなく危機感を感じていたためです。製薬会社では以前にも増してエビデンスの質が求められるようになり、必然的に理系へのニーズが高まっています。そんな中で生粋の文系生まれ、営業育ちである私が社内で他の仕事に挑戦してみたいと思っても、何も武器がない状態でした(少なくとも当時はそのように考えていました)。将来を見据えて理系の大学院か、もしくはMBAで学んでみたいと考え、圧倒的に経営のほうに興味があったので、いつかはMBAに挑戦したいと漠然と考えていました。とはいえ具体的な行動を起こさないまま最初の出産をし、育休・復職を繰り返すうちに、あっという間に5年の時が流れました。最後の育休から復職し、よし、今から頑張って働こう、と思っていた矢先に、上述の会社の大改革があったのです。

このような環境変化に加え、出願の直接の引き金となったのは、ちょうどその時メンタリングをしてくださっていた尊敬する上司でした。ライフプランに「3年後くらいにMBA」と書いていた私に、「大賛成。むしろ何故今年受けないの?」と問いかけてくださったのです。「確かに、何故今年ではだめなのだろう」と思い至ったのが10月末です。時間がありませんでした。11月の出願に向け、大急ぎで準備をしたことを覚えています。具体的な準備の内容に関しては後述しますが、その時に考えていたこととしては、「落ちても失うものはない。経験が増えるだけ」であるということです。何もせずにいることによる機会損失のほうが、もったいないように思えました。一番大きな負担をかけることになる夫ともよく話し合い、「落ち着くのを待っていたらいつになるかわからないから、やってみたら。万が一合格したらそれに合わせて何とかしよう。」と背中を押してもらいました。

こうして受験した結果、入学許可をいただくことができ、素晴らしい先生方や同期の皆さんと出会うことができたので、あの時一歩踏み出して本当に良かったと心から感じています。入学してみれば、特段自分だけが大変な環境なのではなく、みんなそれぞれの条件下で時間を捻出しながら通学していることがよく分かります。仕事と学業の両立には大きな労力がかかるため、心が折れそうになることもありますが、そんな時に最も大切なのは「“今”挑戦したい!」という気持ちの鮮度ではないかと思います。それがあれば、後のことは不思議なくらい何とかなります。

3. 神戸大学MBAを志した理由

私は初めから神戸大学MBA以外は検討しませんでした。理由は3つあります。まず、自宅から近いことです。1日は24時間しかないと決まっている以上、仕事、子育てと並行して学業の時間を確保するために、移動時間は極力短くしたいと考えました。オンライン受講のみで修了できるMBAもありますが、人生でそう何度もない機会だと思うと、自然と選択肢から外れました。

次に、授業の質が高いにも関わらず、授業料が良心的であることです。面接で声高にこの理由を述べることはしませんでしたが、実際には非常に重要であると思います。また、この授業料の設定は、1年半での修了を想定しているからでもあり、家族にかける負担を考えると修学期間は短いほうが良いと考えていた私にとって、大きなポイントとなりました。

最後に、最も大きな理由として、論文の提出が必須であることです。ただし、私の場合は特段どうしても論文が書きたかったというわけではありません。どちらかというと、「論文を書く」という行為自体をこの大学でやってみたい、という気持ちが強かったように思います。論文を書くということは、自身の問題意識について腰を据えて考えるということであり、授業を受けたりレポートを書いたりするだけでは経験することのできない深い学びがあるであろうことが想像できました。社会人になり、親になると、日々の雑事に流されて、なかなか自身が感じている問題・課題について熟考する機会を持つことが難しいと感じます。先生方のご指導を受け、同期と意見交換をしながら思考を深めることは、またとない贅沢な機会であると考えました。また、単位以外に学業の成果物があるというのも、マラソンにはゴールテープがあるのと同じくらい、重要であるというイメージを持っていました。

実際にやってみると、もちろん大変です。現在も四苦八苦しているところです。しかし、予想通りの(もしくは予想を上回る)充足感を得られているということを申し添えたいと思います。

もちろん、志望理由は千差万別です。例えば、同期の中には、どうしても神戸大学に通いたいと、遠方から毎週通っている方も多くおられます。何故どうしても神戸大学が良かったのか、それぞれの理由を伺うと、自分にはない視点があり、それだけでとても勉強になります。受験校の選定にあたっては、MBAに自分自身が求めるものを洗い出し、リストアップしてみることをおすすめします。神戸大学MBAはその多くに応えてくれるのではないでしょうか。

4. 試験対策

このような経緯で受験を決意したのですが、上述の通り、準備の時間を十分にとることができませんでした。唯一の情報源である「合格への道」を読むと、「神戸大学MBA公開セミナーに参加した」「自身の問題意識に関する先行研究を読んでいた」という先輩もおられ、焦りは募るばかりです。しかし、過ぎてしまった時間はどうしようもないので、腹をくくりました。あまり参考にならないかもしれないのですが、私の行った受験対策を記します。

4-1 研究計画書・経歴詳細説明書

先輩方の「合格の道」に共通している点は、研究計画書が最も重要であるということです。私も強くこれに同意します。フォーマットを見ると、長文が求められるわけではないため、すぐに書けそうな気がしたのですが、それは大きな間違いでした。短い文章の中で、相手にわかるように、研究の内容・目的・意義をまとめる必要があります。普段から問題意識を持っていることであるとしても、言語化するのは非常に難しいものです。可能であれば早くから、少しずつ取り組み始めるのが理想であると思います。神戸大学MBAのOBの方が周りにおられるのであれば、研究計画書を見てもらうのもおすすめです。文章の伝わりやすさや構成など、意外と自分自身では気づかない点がブラッシュアップされると思います。

私の場合はとにかく時間がなかったため、短期間で集中して考えをまとめるしかありませんでした。ものすごく間違った方向性にはならないように、★の本は一読し、自分の問題意識を経営学の目線で探求するにはどうすればよいのかを考えながら書きました。また、多くの研究計画書に目を通さなければいけない読み手のことを考え、文章は簡潔にすることを心がけました。今読み直してもあまり褒められた出来のものではないですし、研究内容はゼミでの指導を受け大きく変更することになりました。しかし、研究計画書の作成を通して、何故自分は神戸大学MBA を目指すのかを明確にすることは非常に重要なステップだったと思います。

参考図書:★神戸大学専門職大学院 (MBA)『プレMBAの知識武装』2021,中央経済社

4-2 小論文

書類を揃え、研究計画書を添えた願書を提出すると、年明けに小論文の試験がありました。「合格への道」を参考に、生協から3年分の過去問を取り寄せ、愕然としました。前年の試験は、ある経営学用語の意味を答えるものだったからです。経営学の素養のなかった私は、本番でこの問題に出くわさなくてよかったと思いなおし、大変遅ればせながら日経新聞を読みはじめました。また、文字を書く練習をしておいたほうが良いという先輩の「合格への道」のアドバイスを読んで、社説を書き写すなどしました。言い換えればその程度の準備で当日を迎えてしまいました。当日は思っていたより時間が早く過ぎるような気がして少し焦りました。書き直す時間はほぼなかったように思います。可能であれば、時間を測って過去問を解いてみるのがベストな対策かと思います。

小論文の点数は、受験全体からすると比重は大きくないように思いますが、入学してから山のようなレポートを書いたり、筆記試験をこなしたりする中で、「論理的に(しかも短時間で)考えをまとめる」ことがどれだけ重要かを日々実感します。普段から文章を書いたり 、誰かに何かを説明したりする際に論理性を意識するだけでも、小論文の対策になりえるのではないでしょうか。

4-3 面接

1次試験の合格通知が届くと、面接に進みます。研究計画書を急ピッチで書いてしまった分、粗の目立つ部分に関して本を読んで思考を深めたり、補強したりしながらその日を待ちました。当日、私の面接開始時間は16時と、最後の時間帯であったため、午前中は自宅で落ち着かない気持ちで過ごしていました。その時間を使って、夫に面接官の役割を担ってもらい、口述試験の練習をしました。家族でも同僚でも、MBAの先輩が身近にいればその人でもよいので、口述試験の練習を行うことは有益だと思います。練習だとわかっていても緊張しますし、答えられない部分が明らかになります。私の場合は、ここで緊張しつくして疲れたからか、面接室に入室した時は自分でも驚くほどに肩の力が抜けていました。自分を大きく見せようとはせず、質問に対して真摯に応えることだけに集中しました。質問は、研究計画書のことがほとんどでした。面接官は鈴木先生と森先生だったと記憶していますが、私の返答に対するお二人の反応からはポジティブな要素をあまり感じ取ることができず、これは受かったな!という感覚は全くありませんでした。それでも、2月中旬、無事合格通知を受け取ることができました。

4. 入学後について

私は決して出来のよい学生ではありません。同期の皆が発言している内容が理解できなかったり、レポートの終わりが見えず絶望したりしたこともしばしばありました。しかし、それでも何とか1年頑張ってみた結果として、以前の自分に比べてかなりキャパシティが広がったのは確かであると感じています。以前よりも忙しいはずなのに、何故か仕事の質が上がり、かねてから希望していた業務を任せてもらえるようになりました。「慣れた仕事をしている今だからこそ」という当初の甘い目論見は外れたわけですが、神戸大学MBA に入学したからこそ引き寄せることができた機会なのではないかと思います。同様の事象は同期にも複数観察されており、在学中に昇進したり、希望の部署に配置転換になったり、新たな事業を展開したりと、皆それぞれ確実に前進しているようで、その姿にまた刺激をもらっています。

家庭に関しては、家事代行などの外部サービスを多用し、「必ずしも自分がやらなくてもよいことは手放す」ことを実践しています。手放す、任せる、頼る、ということは、他にどうしてもやりたいことがある時には必須のスキルであると考えています。私の場合は子育て、仕事、学業がどうしてもやりたいことだったので、家事や送り迎えといったルーチン作業(=必ずしも私がやらなくてもよいこと)を手放すことにしました。一時的にお金はかかるものの、広義の学費であると捉えています。手放すことで得た時間を子ども達との夕食やお風呂、学業、睡眠に充てることで、バランスをとるように努めています。

とはいえ、勿論3足の草鞋を履く生活は目まぐるしく、体力的にも精神的にも厳しいと感じることもあります。コア科目の最終試験直前に三男が救急車で運ばれる事態となり、急遽下山したこともありました。一方で、仕事が苦しい時は学業が、学業が苦しい時は子どもが、子育てが苦しい時は同期や学業や仕事が、互いに良いバランサーとなって、結局のところうまく回っている気がします。勿論ひとりだけでなし得ることではなく、多大な負担を背負いながらも応援してくれている、夫をはじめとする家族に心から感謝しています。多くの人の力を借りてここまでやってくることができた神戸大学MBA での生活ですので、最後の仕上げとしての論文を納得のいくものに仕上げることができるよう、ラストスパートを駆け抜けたいと思います。

5. おわりに

長い文章を最後までお読みいただきありがとうございました。私のメッセージを要約すると、「やってみたいと感じた“今”がベストタイミング」であるということです。動き出さなければ何も変わらず、動き出せば何かが変わります。完全に私見ですが、神戸大学MBAの授業は問題解決のための道具を与えてくれるというよりは、必要な道具を特定する力や、どのようにその道具を使うか考える力を鍛えてくれる場であるような気がします。ここで得た力はビジネスの場にとどまらず、今後の人生で繰り返し活きることでしょう。是非、挑戦してみてください。

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