田中 敬洋さん

株式会社NTTデータ関西勤務 2018年度入学生 藤原賢哉ゼミ

1.はじめに

「田中さんから欲しいのは御社の商品ではない。当金庫を、ひいてはこの地域を発展させる方法の提案なのだ。どうか私達を助けてほしい。」

システムインテグレーターを営む企業の営業として5年目を向かえた頃、とある地域の信用金庫の理事長から駆け出しの営業マンに向かって投げかけられた言葉は非常に重いものでした。それまでの私は他社に先んじていかに多くの自社製品を販売できるかということに集中し、自社製品を使っていただくお客様の成長を考えることはあっても、お客様の経営が所在している地域の命運を握っていると考えたことは微塵もありませんでした。当然その時の私はその理事長に対して何も応えられなかったのですが、経営トップに座している者の責任の重さと私には見えていない広い視点で物事を考えられている理事長の姿は私の企業経営に対する考え方を大きく変えさせたのです。

この記事を読んでおられる方は私の様に自身の社会人人生の中で何かしらの壁に直面し「このままではいけない」ということを少なからず感じられている「感度」の高い方々だと推察します。神戸大学MBAは願書を出せば必ず入学できるMBAではありません。選考で厳選されたレベルの高い人達が揃っているMBAです。この環境で自分を研鑽したいと検討されている方々に私の合格体験記が少しでも参考になれば幸いです。

2.神戸大学MBAを志望した理由

関西には様々な大学のMBAが存在します。私は情報収集のため関西の全ての大学院の入試説明会に参加し比較検討をしました。他校からの神戸大学MBAの評価は「大企業からしか合格できない」「経営スキルではなく論文作法を指導される」「指導教員の教えたいことを学ばされる」というものでしたが、実際に神戸大学MBAの教授、学生、OB/OGと話して確認してみると全ては噂に過ぎませんでした。入学される方はベンチャー企業や士業の方も多数おられ、学ぶことは古典的なフレームワークから最新の経営学など広範囲であり、講義では教授と学生の間でインターラクティブに学びを深めていくのです。2017年から刷新された学修カリキュラムも絶妙で一年半の期間で最大の効果を上げるように設計されています。一学年70名という学生数も多すぎず少なすぎず、プロジェクト方式など学生全体が万遍なく交流できる仕掛けもあります。それらの効果はお話する学生の方々がおしなべて「真摯であること」「思慮深いこと」「協調性があること」から計り知ることができました。

神戸大学MBAへのチャレンジを最終的に決意したのは、あるシンポジウムで本学の三品教授がおっしゃられた「世界は絶えず移ろうから、神戸大学MBAでは『知識』ではなく『手法』を学ぶ」という言葉でした。私はこの言葉から社会構造が急速に変革する今の時代を生き抜くために最適な学び舎は神戸大学MBAなのだと確信し、その年の募集要項を取り寄せるに至ったのです。

3.試験対策

私は2度目の受験で神戸大学MBAに入学することを許されました。1度目の失敗を乗り越え2度目で無事合格できた要因を振り返ってみると、テクニック的な小手先の試験対策を改め、自分自身の社会人キャリアを深く省みて問題意識を明確にし、研究計画書と入学試験でその内容を正しく表現できたことが最大の要因だと思います。神戸大学の修了には自社の経営層に向けた「建白書」に相当する修士論文執筆が必要ですが、その修士論文を書き上げるベースとなるのは自身が積み重ねてきたキャリアから出てくる問題意識です。そして神戸大学MBAはその問題意識を解決するための能力を鍛錬する場所です。MBA取得が目的であると考える人とMBAが問題解決能力向上の手段であると考える人の間では自ずと研究計画書や入学試験の記述や口述のアウトプットに差が出てきます。ですから時間の許す限り自分と向き合い、浮かんできた想いを書き出し何度も見返して問題意識を深掘りし磨き上げていってください。

研究計画書、及び経歴詳細説明書

他の方が「合格への道」で書かれている通り研究計画書は非常に重要です。学生募集要項にも書かれている通り選考方法の対象ともなっています。一旦提出してしまうと書き直しがききませんので経歴詳細説明書(キャリアハイライト)と併せて内容に一貫性があるかどうかに注意してしっかりと書き上げましょう。

まず経歴詳細説明書ですが、私は問題意識を解決しようとするモチベーションの源泉を表現するところだと考えました。自身が進んできたキャリアを明確に記述するとともに、その中で芽生えた解決したい問題意識とそれに対し今まで自分がどのように行動してきたかを記述することが肝要です。キャリアハイライトですので欲張って沢山の事を羅列するのではなく一つのエピソードを深掘りしてリアリティを追求するのが良いと思います。

次に研究計画書ですが、これは入学した後のプランを表現するところです。未来のことを説明するところなので、いきなり書き始めても発散してなかなか進みません。手始めに研究計画書とはどういうものか、実際執筆するであろう論文とはどのようなものかを理解することから始められると良いと思います。私の場合は研究計画書の立て付けや意味を定番となっている妹尾堅一郎先生の書籍『研究計画書の考え方−大学院を目指す人のために』を通読して理解しました。また論文については論文検索のウェブサイトであるGoogle ScholarやCiNiiで自分が研究しようと考えている分野の論文を検索し、自分の問題意識の深さや広さはどのようなレベルなのか認識することに努めました。それらをベースにしてそもそも自分はどのような事を明らかにしたいのか、それにはどのような研究方法が実現に適しているのか、その問題が解決したら自分はどうなるのかを明確にしていき「研究テーマの概要」から「将来のキャリア設計」までを一本の筋になるように書き上げました。

また非常に重要な事なのですが、自分が述べたいことを研究計画書で表現できているかどうかは必ず第三者に見てもらって正しく伝わるかどうかを確認してください。私の場合は残念ながら社内に神戸大学MBA修了の先輩がおられなかったので、社内の役員や神戸大学公開セミナーで登壇される先輩方にお願いして確認していただきました。礼を失せず、熱意を持ってお願いすれば必ず応援していただけるはずです。

第一次選考(筆記試験と書類審査)

第一次選考は筆記試験と書類審査による選考です。書類審査を含みますので上述しましたとおり願書提出時に必要な書類を抜かりなく仕上げておくことが前提になります。

その上で具体的な試験対策をするのですが、私はまず教務係から過去問を取り寄せて傾向を分析することから始めました。当たり前ですが試験は記述式ですので時間内に自分の考えをまとめ、肉筆で記述する事に慣れておく必要があります。英語、小論文に共通して言えることは普段から時間を作り回数を重ねて練習することです。過去問の傾向を理解して時間内に回答できる自信がつくまで繰り返し鍛錬しましょう。

  • 英語:
    私の場合2回目の受験の際はTOEICの点数が規定に達していたため免除になったのですが1度目は受験しました。その時の所感を述べますと英語の試験では経営に関する英文トピックの論点を時間内に読解する能力が試されていると感じました。読む分量は時間に対して相応です。よく時間が足りないということを聞くのですが、それは自分の中で与えられたトピックに関する知識がないからに他なりません。トピックの知識の習得は必ずしも英字新聞・英語雑誌等から始める必要はないです。日本語のビジネス関連の雑誌を読むことから取り組めば良いと思います。日本語で理解できていないトピックは英語でも理解ができないからです。しかし日本語でトピックの知識があるにもかかわらず英文読解で時間がかかってしまうというのであれば、そもそもの英語力が足りていません。私の場合はまさにこのケースだったのですが、対策としてTOEICの公式問題集を通じて英語に慣れてTOEICの受験を繰り返し英語力の向上を図りました。幸い夏のTOEIC試験で規定上の試験免除の点数に達したため英語試験は免除となりましたが、本試験では辞書の持ち込みも可能ですのでTOEICで630点程度の英語力があれば十分通用すると思います。
  • 小論文: 
    小論文は時事問題について自分の考えを述べていくことが求められます。小論文の記述のパターンは様々あると思いますが、事前に何度か規定の文字数で書いてみて自分の得意な記述パターンを作っておくと良いでしょう。出題されるトピックは旬な時事問題であると感じています。ですので普段から新聞やビジネス関連の雑誌等で話題になっていることに注意を向け、それに対する自分なりの考えや意見を持つ癖付けをしていきましょう。ただし、人はいままで経験してきたことを「正」とする傾向があります。いきなり練習を始めても自身の経験からの論述では内容が偏って根拠のない極論になってしまう恐れもありますので、まずは世の中の一つのニュースに対して様々な視点があることを認識するところから始められると良いと思います。私は情報ソースとして主にNewsPicksを活用しました。NewsPicksでは日々のニュースに対して様々な方が多角的な考えや意見を投稿されています。その方々の意見を一読して自分の考えに近いもの、正反対なものなどを整理して自分の中で咀嚼し、弁証法的に自分の新たな考えを紡ぎ出すという練習を続けました。慣れてきたころにビジネス関連の雑誌のコラムを1日1件抜き出し規定の文字数内、時間内で小論文を書き上げる練習に変更しました。自分の考えを論述するときは奇を衒う必要はありません。練習で積み上げてきた自分の知見と問題文から推察される事柄を論拠として自分の考えを紡ぎあげ、理路整然と論理の飛躍なく記述すれば問題ないと考えます。
第二次選考(口述試験)

第一次選考を通過すれば次は第二次選考です。例年第一次選考では100人程度に絞られると認識しています。第二次選考で不合格となるのは三分の一くらいです。二次試験を二回受けた経験から述べますと、口述試験は研究計画書に書いた自分の問題意識を自身の中でどれだけ深く考え抜いたかを確認する場であると言えます。そのため研究計画書の内容が充実しているほど面接官からされる質問の内容は簡単になると感じました。こう感じた要因は研究計画書の内容がきちんと自分の中で腹落ちしているかどうかに他なりません。知識豊富な教授との対面での面接では浅い考えから来る自分の論理の綻びなどはすぐに見抜かれてしまいますので、第一次選考終了後から第二次選考試験日までの時間を有効に使い、研究計画書を丹念に見返して納得感が不足している点などを補っておきましょう。

口述試験では5つのグループに分けられ二人の面接官との面接になります。私の時は研究計画の概要と志望動機を3分程度で口述した後、面接官から主に研究計画書の内容について質問されました。研究計画の概要と志望動機は澱みなく説明できるようになるまで事前に準備しておき、質問には想定問答を予め作成して練習しておきました。友人などに協力してもらい模擬面接をして相手が返答内容を理解できるかどうかを確認しながら練習するのがよいと思います。むろん本番では想定外の質問があり一瞬パニックになることもありますが、入学してから分かることも多々ありますので虚勢を張らず正直に「今はこう考えていますが、入学後の課題として認識しておきます。」と落ち着いた姿勢で対応されることも有効であると思います。

4.さいごに

無事入学した暁には多士済々な面々と時には協力し、時にはライバルとして競い合い切磋琢磨する日々が待ち受けています。神戸大学MBAではスタートからゴールまでトップスピードで走り続けるため体力的にも精神的にも大変であることは間違いありませんが、自らをストレッチすることによって得られる人脈や知見は計りしれず多くあります。

神戸大学MBAに入学されると社会人大学院生という身分になりますので、仕事と学業、あるいは家庭も含めてバランスが取れるのかという不安を感じておられる方も多いかもしれません。しかし私自身の実感ではそれらはバランスを取るものではなく相互に共鳴して向上していくものだと感じています。自分自身がキャリアを積み上げられる時間は限られていますので「このままではいけない」と感じられておられるならまずはチャレンジしてみてください。

“And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.”

心配は全く要りません。Steve Jobsが言っている通り、皆様の心と直感は皆様が真に何になりたいかを既に知っています。自信を持って前に進んでください。

末筆ではございますが、志ある皆様が無事選考試験を通過され、この経営学の殿堂で良き学びを得られる日々が来ることを心より祈念しております。

5.参考文献

  • 妹尾堅一郎(1999)『研究計画書の考え方 – 大学院を目指す人のために』ダイヤモンド社
  • Henry Mintzberg(2006)『MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方』日経BP社
  • 神戸大学専門職大学院(MBA)編(2015)『人生を変えるMBA』有斐閣
  • Lynda Gratton/Andrew Scott(2016)『LIFE SHIFT』東洋経済新報社

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