バランスト・スコアカード

谷 武幸

バランスト・スコアカード(balanced scorecard, 以下BSCと略称する)は、いろんな側面からとらえることができる。それは、BSCのコンセプト自体が不断に拡充しているためであるが、最近では、戦略BSCということで、戦略経営の有望なツールと位置づけることができる。つまり、戦略策定からその落とし込みのプロセスにおけるマネジメントシステムになった。

アメリカ発のマネジメントシステムがなかなか定着しないなかで、BSCがことさら注目されているのは以下の理由による。第1は、戦略として大事な要因が網羅されていることである。BSCでは、「財務の視点」、「顧客の視点」、「社内プロセスの視点」と「学習と成長の視点」という4つの視点をカバーしていて、組織のステークスホルダーたる顧客の視点から戦略目標を立案するとともに、他のステークスホルダーである株主の視点とのバランスを図るシステムである。しかも、「顧客の視点」による戦略目標を実現するには、「社内プロセスの視点」から社内プロセスをどのように変えるべきなのか、さらには「顧客の視点」や「社内プロセスの視点」での戦略目標の実現には「学習と成長の視点」から人的資源をどのように蓄積すべきなのかを戦略目標として設定することになる。つまり、「学習と成長の視点」や「社内プロセスの視点」での戦略目標が「顧客の視点」での戦略目標にどのように繋がり、またこれらが「財務の視点」の戦略目標にどのように繋がるのかを因果関係として構想し、戦略マップに描くのである。

BSCの第2のメリットは、戦略目標を立案するだけでなく、各戦略目標について成果指標を設定して、plan-do-check-actionのマイルストーン管理を行うことである。筆者が最近関わった市役所への導入事例では、老人グラブへの補助事業について、戦略目標は「ふれあいで築く生きがいのあるまち」であり、成果指標は「老人クラブ加入者数」である。このように、BSCは戦略策定のシステムだけでなく、確実な落とし込みを狙っている。このため、戦略目標自体も「絵に描いた餅」ではなく、中期に実現可能な目標となっている。

BSCの第3の特徴は具体的なアクションプランに直結していることである。戦略目標を成果指標に展開することに加えて、成果目標実現のための施策をパフォーマンスドライバーに設定するのである。市役所の例では、成果指標「加入者数」に対してパフォーマンスドライバー「催物回数×参加者数」を設定した。催物の企画を通じて老人クラブへの加入者を増やして、戦略目標「ふれあいで築く生きがいのあるまち」の実現に結びつけようとするのである。もちろん、マイルストーン管理のなかで、パフォーマンスドライバーや成果指標のcheck-actionを行うとともに、構想通りにパフォーマンスドライバーの実現が成果や戦略目標の実現に繋がっているのか、さらには上記4つの視点の戦略目標が構想した因果関係通りなのかの検証が行われる。BSCは仮説検証型のマネジメントツールといえよう。

BSCの参考文献としては、キャプラン・ノートン、櫻井通晴監訳『戦略バランスト・スコアカード』(東洋経済新報社)と伊藤嘉博・清水孝・長谷川恵一『バランスト・スコアカード』(ダイヤモンド社)をあげておく。

Copyright©, 2003 谷 武幸
この「ビジネス・キーワード」は2002年9月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。

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