比較優位と絶対優位
「日本はどのような財を輸入し、どのような財を輸出しているのですか。」
この質問に対して、「日本は車や高度な技術を持つ機械などの財を輸出し、服や日用品などの財を輸入している」と経済学者ではない多くの方は答えるでしょう。貿易データをみると、日本は車や精密な機械などの財を世界の多くの国に輸出していますが、それと同時に、多くの国からいろいろな財を輸入しています。たとえば、中国から服や靴を、アメリカから飛行機を輸入しています。
一国にとって、どの財が輸出財となり、どの財が輸入財となるのでしょうか。国際貿易理論は、各国はその国が比較優位を持つ財を輸出し、そうではない財(比較劣位を持つ財)を輸入するという答えを提供しています。したがって、他の国と比べると、日本は車や高度な技術をもつ機械に比較優位を持っていると考えることができるのです。
比較優位という言葉は一般の人々に馴染みのある言葉ではありません。日本が車に比較優位を持っていると聞くと、人びとは日本が車の生産に単なる優位性を持っていると理解します。しかし、優位性には絶対優位と比較優位の2種類があるのです。
絶対優位は、同じ仕事について生産性を国の間で比べます。車の生産において日本が外国よりも生産性が高ければ、日本は車の生産に絶対優位を持っていると言います。すなわち、絶対優位はわれわれが普段優位性と呼ぶものです。
これに対して比較優位は、仕事の相対的な得意さを計算し、比べます。日本が外国に比べて車の生産が10倍得意であり、服の生産が2倍得意であるとき、日本は車の生産に比較優位を持っているが服の生産には比較劣位を持っていると言います。
ここで注意してほしいのは、一国は他国と比べると、絶対優位を持つ財がないかもしれませんが、必ず何らかの財については比較優位を持っているということです。たとえば、ベトナムと日本を比べると、日本はほとんどの財に絶対優位を持っていますが、ベトナムは服などの労働集約的な財に比較優位を持っています。
比較優位という考え方は貿易のパターンを決めるのに重要な役割を果たすだけではありません。企業の人事管理などの分野についても参考になると考えられます。
野球の歴史上では、アメリカの野球選手ベーブ・ルース(Babe Ruth)について有名な話があります。ベーブ・ルースは卓越したスラッガーとして世界中に知られていますが、実は、ピッチャーとして大活躍したこともあります。ベーブ・ルースはボストン・レッドソックス(Boston Red Sox)に所属した時代に、6シーズンで89ゲームに勝った記録でアメリカ競技連盟のもっとも有名な左腕投手となりました。ベーブ・ルースはピッチャーとして絶対優位を持っていましたが、どうして1919年からスラッガーに専念したのでしょうか。それは、ベーブ・ルースがチームメートと比べると、スラッガーに比較優位を持っていたことがボストン・レッドソックスにより発見されたからです。1920年にヤンキース(Yankees)に移ってからもスラッガーに専念しました。ベーブ・ルースがスラッガーに専念したことの見返りは大きかったのです。1919年に1シーズンで29本ホームランを打って、1シーズンのホームラン数が最も多い選手となりました。1920年には54本ホームランを打ったことが記録されました。1927年に記録したシーズン60ホームランの記録は、1961年にロジャー・マリスによって破られるまで34年間、また生涯通算ホームラン714本は、1974年にハンク・アーロンに破られるまでの39年間、メジャーリーグの頂点でした。ベーブ・ルースはヤンキースが第1期黄金時代(1921年から1928年まで)を迎えることに大きな貢献を果たしました。
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