事業創造人材について考える

 宮尾 学

この文章を書いている2026年9月26日は、私がゼミを担当したMBA生たちの学位授与式でした。彼らが取り組んだテーマは多岐にわたりますが、中でも際立っていたのが新規事業の開発に関するテーマです。

企業が取り組む事業には寿命があり、永続するものはありません。そのため企業は常に新事業の創出を目指しますが、既存組織は既存事業に最適化しているため、新規の試みには拒否反応を示しがちです。では、その壁を乗り越えて新事業を生み出すにはどうすべきか。アプローチは様々ですが、その一つが「事業創造人材の特徴を明らかにし、育成方法を考える」ことです。

この発想に基づき、国内の事業創造人材を大規模調査したのが、田中聡・中原淳(2018)『事業を創る人の大研究』です。同書は新規事業経験者1500人への調査から、事業を創る人、支える人、育てる組織の特徴を明らかにしています。例えば、事業創造人材は学生時代からリーダーシップ体験があることや、適度な既存事業の経験が必要だが在籍が長すぎると逆効果になること、そして「周りを巻き込む交渉人」であることなどが示されています。

一方、海外に目を転じると、米国での調査がグリフィンA.・プライスR.L.・ボジャックB.A.(2014)『シリアル・イノベーター―「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』にまとめられています。著者らは一企業内で何度もイノベーションを起こす人を「シリアル・イノベーター」と定義し、10年近くにわたり彼ら・彼女らにインタビュー調査を行いました。そこで明らかになったのは、シリアル・イノベーターが独自のパーソナリティだけでなく、業務の進め方や社内政治の知識、学び続ける姿勢を併せ持つ点です。特に「技術だけではイノベーションを完遂できない」と気づき、社内政治へ踏み出す姿勢は興味深く、田中・中原のいう「周りを巻き込む交渉人」とも通じるものがあります。

このように、事業創造人材には政治的スキルが不可欠です。この政治的スキルに焦点を当てたのが、木村琢磨(2025)『社内政治の科学—経営学の研究成果』です。同書は、社内政治に関する膨大な研究に加え、著者自身の研究成果を踏まえて、社内政治の役割を多角的に検討しています。一般的に社内政治は疎まれがちですが、経営学においては重要トピックであり、組織にポジティブな成果をもたらす側面も明らかにされています。つまり、社内政治とは「組織を動かすための実践的リーダーシップ」に他なりません。事業開発において社内政治が不可欠であることにも、大いに頷けます。(なお、同書には私たちが行った日本のイノベーターによる社内政治の研究も引用されていますので、併せてお読みいただければ幸いです。)

ここまで紹介してきた書籍は、「事業創造人材とはどのような人物か」という問いに対して多くの示唆を与えてくれます。事業創造の課題に直面している方は、ぜひ手にとっていただければと思います。

推薦図書
田中聡・中原淳(2018)『事業を創る人の大研究』クロスメディア・パブリッシング.
グリフィンA.・プライスR.L.・ボジャックB.A.(2014)『シリアル・イノベーター―「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』プレジデント社.
木村琢磨(2025)『社内政治の科学—経営学の研究成果』日本経済新聞出版.

Copyright © 2026, 宮尾 学

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