2026年度ケースプロジェクト発表会 教員レポート

神戸大学MBAのプログラムにおける中核的な学びの一つである、ケースプロジェクト研究の成果発表会が、8月1日(土)に開催されました。

2026年度のテーマは、「企業はどのように地域創生の担い手になりえるのか?」です。人口減少や少子高齢化、地域産業の縮小、担い手不足など、日本の多くの地域がさまざまな課題に直面しています。一方で企業にも、利益を生み出すだけではなく、社会課題の解決に貢献することが求められるようになっています。しかし、地域創生は従来、行政や地域住民が主体となって取り組んできた公共性の高い課題であったため、利益の創出や持続的な競争優位を求められる企業が、そうした地域の課題にどのように関わることができるのかについては、まだ明確な答えが存在しません。12のチームが4カ月間を通じて、この問いに答えるために取り組みました。

具体的には、各チームには、対象となる一つの事例を選定・分析することを通じて、以下の2つの問いに答えることが要請されました。

  1. 持続可能な地域の実現のために、企業には何ができるでしょうか。事例における地域課題と企業の取り組み、その成果を踏まえて説明してください。
  2. 企業が担い手となる地域創生の成功条件とは何でしょうか。事例分析を踏まえ、最も重要な成功条件を特定してください。

さらに、地域創生という問題を単なる規範論や「いい話」として論じるのではなく、地域、行政、住民、企業それぞれの制約と可能性を踏まえ、ロジックとエビデンスに基づいて説得力のある仮説を提示することが求められました。

2026年度ケースプロジェクト研究発表会の様子

対象事例の探索から始まったケースプロジェクト

今年度の課題には、過年度とは少し異なる特徴がありました。ここ数年のケースプロジェクト研究では、分析対象となる企業や業界を担当教員側であらかじめ設定してきましたが、今年度は、上記の問いへの答えを出すために、どのような事例を選定すべきかも、各チームに委ねられたのです。つまり実質的には、同じリサーチクエスチョンに対して、12チームがそれぞれに単一事例研究を実施して、その成果を競う形となりました。

一見すると魅力的な地域活性化の事例であっても、それだけで良い研究対象になるとは限りません。その地域が直面していた課題や、そこで企業が果たした役割だけでなく、その分析を通じて、従来の地域創生と企業との関係性についての理解に、どのように新たな理解を可能にするのか、が重要となります。さらに、「その企業だからできたことなのか」「他の要因でも説明できるのではないか」「成功と呼んでいるものを、そもそも何によって測るのか」といった問いにも向き合わなくてはなりません。重要なのは単に面白い事例を選ぶことではなく、なぜその事例が問いに答える上で適切なのかを説明すること、そして、事例から言えることの限界を見極めることです。

まず各チームは4月から複数の候補についてライブラリーリサーチを行い、中間報告までに対象事例を絞り込みました。その後は、企業、行政、地域住民、関係者へのインタビューや現地調査、アンケート調査などを通じて、一次データを収集しながら分析を深めていきました。

12チーム、12通りの「企業と地域」の関係

最終的に12チームが取り上げたケースは、驚くほど多様なものになりました。アイシンによる地域MaaS、キリングループと上田市によるワイン産業形成、サントリーの「天然水の森」、北海道十勝地域における農産物商社、西粟倉村のローカルベンチャー、淡路島とパソナグループ、会津若松市とアクセンチュア、ローソンの地域共生型店舗、地域創生を事業そのものとする企業、地域資源を市場につなぐ企業などです。対象となる企業も、大企業から地域に根ざした中小企業、地域創生そのものを事業とする企業まで大きく異なりました。

そのため発表会を一日通して聞いていると、次第に、「企業による地域創生」という一つの言葉では括れない、さまざまな企業の役割が見えてきました。地域には、行政や住民だけでは不足するものがあります。企業は、資金や人材、技術を持ち込むことができます。地域資源を商品やサービスに変換し、域外の市場につなぐこともできます。自社のブランドやネットワークを使って、新たな顧客や人材、企業を地域へ呼び込むこともできます。さらに、多くの発表が示していたのは、企業は単に「資源を持っている主体」なのではなく、異なる主体や論理をつなぐ存在になりうるということでした。

2025年度ケースプロジェクト研究発表会の様子

企業と行政では、意思決定の方法も時間感覚も異なります。地域住民と投資家が求める成果も同じではありません。地域内部にある資源の価値が、そのまま市場で評価されるとも限りません。企業が地域創生の担い手になるということは、そうした違いの間に立ち、地域の資源や課題を市場や事業へと接続し、新たな関係を組み立てていくことなのかもしれません。

ただし、それだけでは十分ではありません。成果発表会では審査する先生方から、「その結果、地域は本当にどう変わったのか」「企業自身にはどのようなメリットがあるのか」「なぜその企業だからできたのか」「企業がいなくなっても続くのか」といった質問も、繰り返し投げかけられました。地域創生について語ると、ともすれば企業の善意や地域への思いを強調したくなります。しかし、企業活動として継続するためには、その取り組みが企業自身の事業や戦略とも何らかのかたちで接続している必要があります。反対に、企業が利益を上げているからといって、それだけで地域創生に成功したとは言えません。

この「企業にとっての価値」と「地域にとっての価値」をどう両立させ、さらに持続可能な仕組みに変えていくのか、という問題が、今年度の12チームに共通する重要な論点になったように思います。成果発表会では、2つの問いに対する回答の独自性、それを導くロジックの緻密さ、そしてエビデンスの的確さを基準として審査が行われました。

その結果、金賞にはチーム「MASAYA」、銀賞には「Magnum6」「Fantastic4」「ごはんですよ。」の3チームが選ばれました。

金賞受賞チーム「MASAYA」

金賞を受賞した「MASAYA」が取り上げたのは、株式会社アイシンが展開するデマンド型交通サービス「チョイソコ」です。チョイソコは、免許返納後の高齢者などの移動を支援するオンデマンド型の乗合交通です。民間企業が主体となりながら、地域スポンサーからの協賛を組み込んで採算性を高め、実際の運行は地域の交通事業者が担う仕組みになっています。2026年度には全国97自治体にまで展開し、事業としても単年度黒字化を実現しています。

MASAYAの研究で印象的だったのは、アイシンが持つAIや自動車技術そのものを、成功の理由として説明しなかった点です。むしろ同チームが注目したのは、技術を地域へ持ち込んだ後の、非常に泥臭いプロセスでした。企業と自治体の双方に、組織や制度の壁を越えて行動する熱意ある担当者が存在したこと。地域の交通事業者や自治体との役割分担を組み立てたこと。そして、導入して終わりではなく、地域の業務プロセスにまで入り込み、実証と改善を繰り返したことです。

MASAYAは、そこから企業の役割を、「地域課題を事業へ変換するオーケストレーター」と表現しました。企業の提供価値は、技術そのもの以上に、初期投資や事業化のリスクを引き受け、行政、既存事業者、地域企業など異なる論理を持つ主体を調整し、地域の資源を一つの事業構造に組み直すことにある、という主張です。さらに成功条件として、事業を動かす「越境型人材」、社会的便益を収益へと変換する「価値変換型ビジネスモデル」、そして地域とともに実証と改善を続ける「伴走型PDCA」の3つを提示しました。

「地域のために良いサービスをつくる」という話ではなく、個人の熱量を、収益を生み出す仕組みと、学習を続ける組織能力へと変換することによって、一過性の実証実験を持続可能な事業へ変えたという説明にまで踏み込んだところに、この研究の面白さがありました。地域創生における企業の強みは、あらかじめ正解を持っていることではなく、現場の中で関係者とともに試行錯誤しながら、課題を持続可能な事業のかたちへ組み立て直していく能力にある。今年度のテーマに対する、説得力のある一つの答えだったと思います。

2026年度ケースプロジェクト研究発表会の様子

※金賞チームインタビュー記事はこちらをご覧ください。

銀賞受賞チーム

「Magnum6」

銀賞は同点であった3つのチームに授与されました。一つ目は、「Magnum6」です。同チームが取り上げたのは、キリングループと長野県上田市におけるワイン産業形成の事例でした。上田市では、農業従事者の高齢化や遊休荒廃地の増加といった課題がありました。そこにメルシャンがブドウ栽培の可能性を見出し、ヴィンヤードやワイナリーへの事業投資を行います。その後、キリングループと上田市の連携は、ワイン事業だけではなく、若手農家の支援、人材交流、観光、環境保全などへと広がっていきました。結果として、遊休荒廃地の活用だけでなく、農家や醸造者の増加、観光・飲食・交通への波及、農家団体の形成、人材育成など、多面的な成果が生まれています。

Magnum6が特徴的だったのは、最初から「企業がいなくなっても続く状態」を地域創生の成功として定義したことでした。その上で企業の役割を二つに分けています。第一に、企業自身の事業活動を通じて、地域に眠る資源を見出し、経営資源を投入して、それを地域課題の解決と持続的な価値創出につなげること。第二に、官民連携の場面では、企業が持つプロジェクトマネジメントの実践知や事業経営の視点を地域に移転し、行政や地域の人材を育てることです。そして、最も重要な成功条件として提示したのが、「企業・行政・地域の多様な関係者を巻き込み、目指す姿を共有し、熱意を実行につなげる連携枠組みを構築したうえで、そこで生まれた取り組みを、それぞれの本業へ接続して定着させること」でした。企業による地域創生の持続性を正面から考えた研究でした。

「Fantastic4」

続いて銀賞の「Fantastic4」です。Fantastic4が取り上げたのは、京都を拠点として、小規模農家や新規就農者の農産物を販売する株式会社坂ノ途中でした。同チームは、地域創生について考える上で、「企業は、速く稼ぐ市場と、ゆっくり育つ地域をどう両立させるのか」という独自の問題設定を行いました。企業には、売上や利益を上げ、投資家や市場から求められる成果を比較的短い時間の中で生み出すことが求められます。ところが、地域の農業はそうはいきません。土地が育つにも、人が育つにも、地域との信頼関係を形成するにも時間がかかります。特に新規就農者や小規模農家は、生産量も品質も安定しない段階から成長していきます。坂ノ途中は、こうした小規模な生産者を束ね、供給量の変動を企業側で吸収しながら、農産物の背景や生産者のストーリーを顧客価値として市場へつないできました。また、長期間の成果をそのまま待つのではなく、途中経過やインパクトを可視化し、顧客や投資家へ説明する役割も担っています。
Fantastic4がそこから導いたのは、企業の役割は「地域が市場に参加できる取引と学習の基盤をつくること」であり、地域創生の成功条件は、「市場で稼ぎながら、地域が育つ速度を守れること」だという結論でした。同チームの表現によれば、「地域を急がせず、事業を止めない」ということです。企業が地域に市場の時間を一方的に押しつければ、地域の資源や担い手を消耗させてしまうかもしれません。しかし、地域が自然に育つまでただ待っていれば、企業の事業そのものが持続しません。だからこそ企業は、地域の「遅さ」を尊重しながら、市場との接続や情報共有、販路形成など、速めることのできる部分は速める。Fantastic4は、地域創生における企業の役割を、資源や能力ではなく、異なる時間軸を調整する主体として捉えました。

「ごはんですよ。」

3つ目の銀賞は、「ごはんですよ。」です。同チームは、滋賀県高島市の総合建設会社・澤村を取り上げ、企業による地域創生がどのように本業と結びつき、持続可能な活動になっていくのかを分析しました。特徴的だったのは、地域貢献を単に「社会的価値と経済的価値の両立」という結果から捉えるのではなく、両者が結びつくまでのプロセスに着目した点です。

澤村では、地域への貢献意識そのものは以前から存在していましたが、かつての活動は本業とのつながりが見えず、負担感から継続しませんでした。一方、現在では、マルシェや地域拠点づくりなどの活動が、採用、人材育成、企業への評価、営業・受注といった本業への波及を生み、継続的な活動へと変わっています。チームはこの違いを、「組織が、地域創生活動を事業に接続する試みを容認すること」という言葉で捉えました。

成果がまだ不明確な段階でも、「本業につながるかもしれない試み」を組織が一定期間許容する。その間に、地域や企業への「愛着」が形成され、採用や顧客関係、ブランド、地域とのネットワークといった形で、後から本業との接続が見えてくる。このプロセスを明らかにしたことが、本研究の独自性でした。また、社長だけではなく、社員、顧客、高島市、商工会、まちづくり協議会、地域事業者など21名にヒアリングを行い、企業側の認識だけでなく、顧客や地域側の声など複数の立場から事例を捉えようとした点にも、ケース研究としての説得力がありました。

プロジェクト方式の授業における学び

発表会では、審査の先生方から「なぜうまくいったのかがまだ説明できていない」「成果を示す指標が不足している」「地域住民自身の変化をもっと見たい」「理論的な概念を貼り付けただけになっていないか」など、厳しい指摘も数多くありました。ケース研究では、インタビュー相手が語った「成功理由」をそのまま結論にすることはできません。データを集め、並べ、比較し、時系列で整理し、そこから競合する説明可能性を一つひとつ検討する。そのプロセスを通じて初めて、この事例を実際に調べなければ言えなかったことが見えてきます。

神戸大学MBAに入学した学生たちが最初に経験する「プロジェクト方式」の授業であるケースプロジェクト研究は、アプローチから論証の方法まで自分たちで考え、権限関係のない混成チームの中で一つの答えをつくり上げることが中心の授業です。そして、どのチームも、多忙なスケジュールの中で、北海道から九州まで対象事例の地域に足を運んで調査を行い、精力的に研究活動を行っていました。自ら問いを立て、調査し、考え、議論し、何度も仮説をつくり直すプロセスの経験は、学術研究を行うための基礎を形作ります。そのため、金賞・銀賞を受賞したチームでも、そうでないチームでも、ケースプロジェクト研究における試行錯誤を通じた学習が、これから後期のテーマプロジェクト研究、そして専門職学位論文へとつながっていくことを、心から期待しています。

2026年度ケースプロジェクト研究発表会の様子

(文責:吉田 満梨