2025年度テーマプロジェクト発表会 教員レポート

2025年度の神戸大学大学院経営学研究科現代経営学専攻(MBA)テーマプロジェクト研究の最終報告会が、2025年1月10日(土曜)に開催されました。今年度のテーマプロジェクト研究は、梶原・服部という新体制での実施となりました。教員2人体制で11チームをマネジメントするために、今年は、前半(8月から10月)は服部が、後半(10月から12月)は梶原が全体のメンター役として対応しつつ、(1)中間報告に対するスプレッドシート上でのフィードバック、(2)セッション時間外でオンライン相談会、などを行いました。学生さんたちの期待にどこまで応えられたのかわかりませんが、少なくとも最終成果から判断するに、それなりの密度で指導/ディスカッションを行うことができたのではないかと思います。
最終報告会においては、次年度に演習を担当される上林先生、松嶋先生、西村先生、栗木先生に加えて、8名のシニアフェローの皆様(盛岡さん、福永さん、横山さん、溝手さん、前田さん、鈴木さん、船本さん、吉川さん)を審査員にお迎えし、厳正な審査が行われました。ご参加いただきましたフェローの皆様には、改めて感謝申し上げます。
例年感じることですが、最終報告会の当日は、会場全体にピリッとした空気が漂っていたように思います。8月のキックオフから4ヶ月以上にかけて、かなりの時間と労力をかけて進めてきたプロジェクトの報告会ですから、当然と言えば当然かもしれません。驚くことに今年度は、3チームが同点数で1位となり、3つのチームが金賞に輝く結果となりました。そこから少し離れて2位と3位が続き、これらがそれぞれ銀賞、銅賞ということになりました。本来、3つの賞は1チームずつに与えられるものなのですが、全体としてレベルが高いものであったこと、また皆さんの頑張りを讃えるという意味で、今年度は5つのチームに賞を与えることにしました。終了後にある審査員から、「全体として興味深い報告が多く、楽しく時間を過ごすことができた」という声をかけていただきましたが、私たちもまた、同様の感想を持っております。
金賞受賞チーム「魁!!男塾」
研究タイトル「日本企業におけるAIの導入から顧客価値創出までのメカニズムはなにか~伝統企業のAI導入・顧客価値創出事例を踏まえた考察~」

金賞に輝いたのは1つ目のチームは、魁!!男塾の皆さんです。男性オンリーのメンバーということで、昭和世代にとっては懐かしい有名アニメからチーム名をとったようです。「日本企業におけるAIの導入から顧客価値創出までのメカニズムはなにか」と題する同チームの研究は、染め物や織物といったいわゆる伝統産業に属する企業において、どのようにAIが活用され、それが価値創造に繋がっているのかを探究するものであり、着想からしてすでにユニークさを感じさせるものでした。このチームは、日本企業におけるDX化の実態やIT implementation(IT実装プロセス)研究を丁寧にレビューした上で、(1)AI導入の課題とその乗り越え方はどのようなものであるか、(2)AIが組織内に浸透するにあたっての課題は何か、(3)それが顧客価値創出につながるメカニズムはどういうものか、という大きく分けて3つの研究課題を設定し、5つの伝統産業企業に対する丁寧なインタビュー調査を実施しました。いくつかの重要な発見があったように思いますが、個人的に興味深く感じたのは、AIの導入にあたってプロジェクトリーダーが、一方で、現場部門とAIベンダーとの利害や期待を調整するカタリストとして立ち回りつつ、同時に、AI導入に関わる種々の不確実性を引き受け、導入プロセスを半ば強引に進める独裁的なタイプのリーダーとして振る舞っている、という発見です(研究課題の1に対応)。一見相反する2種のリーダーシップが伝統産業におけるAIという文脈においては、個人の中で併存している点に経営学的な面白さを感じました。この点も含めてこのチームの報告においては、良い意味での既存の議論に対するアンチテーゼが含まれていたように思います。
※「魁!!男塾」のインタビュー記事はこちらからご覧ください。
金賞受賞チーム「吸い込み!」
研究タイトル「新規事業部門のミドルの行動変化ー新規事業ミドルは表舞台から引退した!?ー」

2つ目の金賞受賞チームは、吸い込み!です。酒造業界においては、お酒を飲む早さと量を表す言葉として「吸い込み」ということが一種の俗語として使われるようです。このチームの名称は、「(お酒ももちろんだが、それだけでなく)新しい知識や経験をどんどん吸収しよう」という意味をこの言葉に込めて、チーム名に採用したとのことです。このチームが取り組んだテーマは「新規事業部門のミドルの行動変化」です。1990年頃、野中先生の『知識創造企業』や金井先生の『変革型ミドルの探求』などの研究を受けて、日本の経営学において、組織の中のミドルに注目する研究が群発しました。端的にいえばそれらは、「(当時、まだまだ元気だった)日本企業の強さの鍵は、現場のミドルにある」といった問題意識に基づくものでした。それから30年ほど経って、経営環境に人々の価値観に情報技術にと、さまざまな変化を経験した現在、日本企業のミドル(とりわけ新規事業の文脈におけるミドル)は何を考え、どのように行動しているのか。この点を明らかにすることが、このチームの目的です。日本を代表する企業内で活躍するミドルへのインタビューに基づき、メンバーが導き出したのは、すぐれたミドルたちが、(1)「説得力のあるコミュニケーション」や「ぶれない自分自身の軸を持つ」といった90年代と変わらぬ振る舞いを保ちつつも、(2)「存在感の引き算」(必ずしも自身が前面に出るのではなく、部下や周囲のメンバーのために舞台演出を行うような行動)や「余白の創出」(効率化の追求を徹底するのではなく、あえて余白を作り出すことで、メンバーが思考する契機を提供する行動)などを、同時に取っているということでした。90年代の日本の経営学を継承しつつ、それを見事に乗り越える試みであったと思います。
※「吸い込み!」のインタビュー記事はこちらからご覧ください。
金賞受賞チーム「虹友レンジャーズ」
研究タイトル「元管理職シニアが輝く組織の方程式~ポストオフシニアと共に、日本の底力を解き放て!~」

金賞に輝いた3つ目のチームは、虹友レンジャーズです。チーム名の詳細は未確認ですが、個性あふれる7名のメンバーが、それぞれの持ち味を発揮してワイワイとプロジェクトに挑むといった意味合いが込められていると勝手に解釈していますし、実際にその通りのチームだったと思います(笑)。報告タイトルは「元管理職シニアが輝く組織方程式: ポストオフシニアと共に、日本の底力を解き放て!」というものであり、読んで字の如くこのチームは、ポストオフシニアが輝き続ける条件とメカニズムを探求しました。高寿命化+高齢化+人材不足といった理由によって、管理職を離れた後にプレーヤーとして働く「ポストオフ」の仕組みを導入している企業は多いが、残念ながら、ポストオフ後にも輝き続けるシニアが多いとはいえない現状にあります。そんな中で、少数ながらも活躍しているシニアがいるとすれば、そこには単に「あの人はいつまでも元気」という個人差では説明できない何かがあるのだろう。そうした問題意識から、活躍しているシニアが多い先端事例企業への丁寧な調査を実施しました。興味深いことに、事例企業においては、シニアたちが特定の部署に集まって仕事をしており、しかもそこは一定の心理的安全性を担保しつつも、厳しい仕事水準が要求され続ける職場でもありました。シニアだけを集積させた職場は、ともすれば「ゆるゆるの窓際部門」になってしまうのですが、事例企業の職場は決してそうではなく、他部門との関係において擬似市場的原理を導入するなどの仕掛けによって、程よい緊張感を維持することに成功していたのです。事例の選択、データの解釈など、多くの点においてお手本的なプロジェクトだったと思います。
※「虹友レンジャーズ」のインタビュー記事はこちらからご覧ください。
ここからは銀賞と銅賞の紹介です。
銀賞受賞チーム「チーム5GOLD!」
研究タイトル「令和版若手人材育成の研究 – 抜擢人事」

銀賞を受賞したのは、チーム5GOLD!の皆さんです。「令和版若手人材育成の研究: 抜擢人事」と題するこのチームの研究は、「遅い昇進」を特徴とする日本企業の中にあって、若手が抜擢された事例に注目し、そこではなぜ、どのように抜擢が行われたのかということを分析しました。ケーススタディの1つの強みは、滅多に存在しない「黒い白鳥」に注目し、そこを掘り下げることにあります。このチームのアプローチはまさに、ケーススタディの王道をいくものであったと思います。注目したのは、「若手活躍」の象徴となるべく、20代の女性が大企業の社長に抜擢された事例でした。一般的に、トップマネジメントの選抜は、組織内メンバーに対してアセスメントを行い、トップにふさわしい十分な「能力」や「経験」を持ち合わせた人物をピックアップする形で行われます。つまり「能力や経験といった要件を満たすのは誰か」という発想に立つわけです。対してこの事例では、「想い」や「意欲」などのアセスメントは行いつつも、基本的には、就任後にトップの未成熟さを補完するチームが結成されるなど、「十分な能力と経験を持ち合わせていない」という前提で選抜が行われていました。抜擢されたことで当人に成長のためのストレッチがかかったことは言うまでもありませんが、同時に、それを支える周囲のメンバーにもかなりの成長が観察された、という点も実に興味深い発見でした。理論的に深めるべき点がないわけではありませんが、この発見は、経営人材育成の領域に重要な貢献をしたのではないかと思います。
銅賞受賞チーム「六甲サファリパーク」
研究タイトル「~なぜ、越境学習はただの「高額な観光旅行」になるのか~
持続的な組織成長に繋がる越境学習の成功要素とメカニズム」

最後に、銅賞を受賞した六甲サファリパークの皆さんです。実践における注目を反映しているのでしょうか、ここ数年ほど、越境学習をテーマとして選択するチームが増えているように感じます。このチームもまたこのテーマに挑戦しました。「なぜ、越境学習はただの高額な観光旅行になるのか」という報告タイトルにあるように、大企業が導入している越境学習は往々にして、「当事者にとっては、良い気分転換であり、楽しい経験となったが、派遣元である会社にとってのベネフィットがない」というものになりがちです。このチームはこの点に注目して、越境学習を継続させ、それを組織としての成長に繋げている企業では、何が起こっているのかということを探究しました。銀行や重工業企業などに所属する18名もの越境者にインタビューを行った結果、越境学習の失敗は、越境に先立つ準備段階における準備不徹底や、帰任後の機会活用の仕組みの不備など、狭義の越境学習以外の部分にその原因があること、また越境学習を組織としての成長に繋げるための鍵も、越境学習の仕組み自体の周到なデザインだけでなく、外部の知識を組織内へと取り込むための種々のレディネスが必要であること、などがわかりました。1つ1つの発見事実は、ある程度、予想の範囲内にあるものではありましたが、これらを1つのメカニズムと一貫したストーリーで統合した点が、高く評価できると思います。
思いがけず5つのチームが受賞するという事態になったわけですが、これら5チームの受賞については、会場にいた多くの方が認めるところであると思います。と同時に、5チーム以外に優れた研究が多々あったこともまた、事実であると思います。ある人がある観点から評価をすればあるグループが上位になり、違う人が違う観点から評価をすれば別のグループが上位になるというのが、評価の常だと思います。この点を、改めて強調しておきたいと思います。
テーマプロジェクトに限らず研究において重要なのことを、ごく大まかに申し上げると、
- これまで分からなかったことがわかるようになること
- 「わからないこと」に、科学的な手続きでもって取り組むこと
- 自ら探求し「わかった」に至ること
の3点になると思います。上位の3チームがこれらの点において相対的に上位に来ることは言うまでもありませんが、同時に、全てにおいて完璧なグループはなかったようにも思います。この点については、今後は皆さんが個人として挑戦することになる修士論文の中では、ぜひ「リベンジ」していただきたいと思います。
本当にお疲れ様でした。

(文責:服部 泰宏)