谷本 香奈枝さん

株式会社アイシン 2023年度入学生 三矢裕ゼミ

1. はじめに

現在、私は三矢ゼミに所属し、修士論文の完成に向けて、企業へのインタビューや文献調査、論文の設計図作りに励んでいます。M2になった今は、ほぼ論文中心の生活です。修士論文は各自の問題意識からテーマ選定をするため、自ら問いを立て、解を導き出す孤独な作業です。しかし、親身に相談に乗ってくださる先生方や仲間の存在に大いに励まされています。また、仲間との学食での昼食や休憩時間の何気ない会話、ゼミ合宿、飲み会といった学生生活ならではの楽しみが良い息抜きになっています。

さて、今回「合格への道」への執筆依頼を頂いたのは、私が神戸大学MBAを目指す受験生の一般的なプロファイルからすると少々外れ値にあるためではないかと推測しています。例えば、遠方(名古屋)からの通学、身近にMBAの先輩や受験生は見当たらない(知らない)、受験生の子供を抱えている…などでしょうか。これまで、ライフイベントや物理的制約等で興味があっても受験をあきらめていた方が、いつからでも遅くない、遠方からでも何とかなる、ファミリーマネジメントも何とかなるかも…と思い直し、一歩踏み出すきっかけになれば幸いです。

2. MBA受験のきっかけ・動機

私が経営に興味をもったきっかけは、かつて短期間ではあるもののHBS(ハーバード・ビジネス・スクール)の先生方から経営戦略を学ぶ機会に恵まれたことです。プログラムを通じて、経営の一端を垣間見ることができ、その後も書籍等で学びを続けたものの、独学では体系的に理解することは難しいと感じるようになりました。そんな時に、選択肢として浮かんだのがMBAでした。

ちょうどその頃、世間ではリスキリングの重要性が叫ばれるようになり、自身のキャリア形成について「どんな学びやスキルが将来の可能性を広げるのか?」と真剣に考えるようになりました。また、会社においても、自らの視野を広げようと経営が見えるコーポレート部門への異動を希望していたため、異動が叶えば実務に直結する学びが得られるのではとの期待もありました。(実際、入学前に異動し、MBAでの学びが日々役に立っています)。

では、なぜ神戸大学MBAを選択したのか。私の場合は、(1)働きながら学べる(退職や休職の必要がない)、(2)日帰りで通学可能、(3)平日の授業は任意(仕事との負荷バランスを考慮)の条件に合う学校を探したところ、それが神戸大学MBAでした。また、受験した年は上の子供の受験と重なり、一緒に受験に向けて頑張るのもありかも。そして、もし運よく合格できれば、M2になるタイミングで今度は下の子供の受験と重なるため、1年半で修了できる神戸大学MBAであれば、追い込み期(前半のサポート不足は申し訳ない…)にはサポートができるという絶妙なタイミングであったことも決め手となりました。

とはいえ、遠方から通うことでの体力的・金銭的負担や仕事と家庭とMBAのバランスなど不安はあったため、「神戸大学MBA公開セミナー」に参加して先輩方の実体験を伺い、受験に踏み切ることができました。勿論、家族の理解や協力が一番の後押しになったことは言うまでもありません。

3. 受験準備について

いつから準備を始めるのかは、人によってまちまちですが、私の場合は比較的早めに始めて、終盤に負荷が偏らないように準備を進めました。具体的にはこの「合格への道」や『人生を変えるMBA』(有斐閣)、前出の「MBA公開セミナー」で情報収集を行い、まず全体像をつかみました。その上で、研究計画書、英語、小論文、面接の4つに分けて、過去の先輩方の経験談を羅針盤に対策を進めました。

3-1.研究計画書

そもそも研究計画書とは?というところから始まり、『国内MBA研究計画書の書き方-大学院別対策と合格実例集―』(中央経済社)に目を通し、何が求められているのかを理解するよう努めました。先輩方も触れられているように、選考において非常に重要な要素となるため、どんな問題意識をもってMBAに行くのか?これまでのキャリアとめざす姿を踏まえた自分なりの学ぶ目的や意義を先生方に理解してもらえるよう、自己分析を繰り返しました。数時間や数日集中して答えが出るものではないため、少し時間をかけて思いついたことをメモに残しながら、骨子を固めていきました。

研究計画書では、先行研究や研究方法に言及する必要があり、ここが一番苦労しました。実務での問題意識が、学術の領域ではどう議論されており、理論化されているのか知識もなく、ひとまず問題意識から出てきたキーワードで論文や書籍を検索して、内容的に近そうなものを取り寄せ、目を通していきました。こうしたプロセスは入学前に学術の領域に触れるよい機会になったと感じています。ただ、いくら本や論文を読んでも、学術的な研究に対して素人であることには変わりはなく、自身の経験に照らして腹落ちした部分だけを参照すればよいのではないかと思います(表面的な理解を拠り所にしてしまうと、面接で苦労することになるかと思います…)。

こうして材料が集まり、書き上げた上で、私の場合は最終チェックとして夫に読んでもらい、ロジカルに説明できているか?言葉の選び方に違和感はないのか?など感想をもらい、内容を調整しました。同じような立場や少し上の立場にある方に、客観的な視点で見てもらう事は完成度を上げるうえで効果的だと感じます。事前に受験することを共有し、協力者を見つけておくことをお勧めします。

3-2. 英語

私の受験した年は英語試験がまだありましたので、筆記試験を受けるor事前にTOEICの点数を取るの2択でした。受験直前での負担を減らしたかったこともあり、後者を選択し、ゴールデンウィーク頃にTOEICを受験しました。過去に受験していましたが、既にスコアが無効になっており、久しぶりに過去問を解きながら受験対策を行いました。万が一点数が取れない場合に備え、早めに受験をしましたが、何とか1回目で点数をクリアし、後ろに時間を残すことができました。4つある受験準備のうち1つをクリアできたことで、気持ちに余裕が生まれたことを覚えています。

3-3. 小論文

出願後から準備を始めました。まず、『大学院・大学編入学 社会人入試の小論文』(実務教育出版)を参考に小論文を書く時のポイントや制約について学びました。出題されるテーマに対し、自分なりの意見(賛成・反対、どんな論点があるのかなど)を持つことがまずスタートになります。日頃から幅広いテーマに関心を持ち、新聞などに目を通しておくことが有効だと思います。わからない、もしくは理解が曖昧な用語はその場で調べておき、頻出するテーマや用語については、読んで理解するだけでなく、自分の意見を持つよう心掛けていました。

一方テクニカルな側面では、例年500~600文字で回答をまとめる問題が多いため、その少ない文字数にいかにポイントを絞って収めるのかが重要になります。これは実際に書いてみないと慣れないため、『日経キーワード』(日経HR編集部)から経営の文脈で問われそうなワードを抽出して、自分で問いを立てて、原稿用紙に制限時間内に書く練習を繰り返しました。勿論、過去問も取り寄せて、その問題も材料としました。繰り返すうちに文字数や文章の構成の仕方は慣れていきますので、当日慌てないためにも事前に準備されることをお勧めします。

一方で私が一番苦労したのは、手書きと漢字です。パソコンやスマホ操作中心の生活では、1時間近く手を使って書き続けること、いざ書くとなると漢字が出てこない(最悪はひらがなで書くこともできますが…文字数を無駄に使ってしまう)など、筆記試験特有の悩みに直面しました。これも慣れるしかないため、同じような不安がある方は、手書きで練習することをお勧めします。余談ですが、入学後も科目の最終試験がレポートではなく、筆記試験のものもありますので、このスキル?は無駄にはなりません。

3-4. 面接準備

こちらは、「合格への道」を読んで、想定される質問を自作して、回答案を作りましたが、全く役に立たなかったことを覚えています。研究計画書の中身や用語の定義についての質問が大半だったと記憶していますが、あまりに想定と違う質問だったために、正直何を聞かれてどう答えたのかほとんど覚えていません。ただ、私の書いた問題意識について、面接官の先生方からは、自分たちはこの分野に明るくないので教えてほしいと前置きをされたうえで、「それはどういう意味で問題なのか?」「それは本当に問題なのか?」といった質問からスタートしたように記憶しています。最後まで伝わったのかどうか手ごたえもないままに面接は終了しました。帰り道、もう神戸に来ることもないのかなあ…と肩を落として帰ったことを覚えています。なぜ合格したのかは、よくわかりません。しかし、実務家としての問題意識を自分の体験や言葉でしっかり伝えることができるのか、そして自分が学ぶ意義や目的を、熱意をもって伝えられるのかが大切なのだと思います。

4. さいごに

無事合格して、1年ちょっと通った現在の感想をお伝えして、文章を終えたいと思います。神戸大学MBAで過ごす日々は、まさに大人の青春です。学ぶことの楽しさや喜びを再発見しています。仕事と家庭と勉学のマネジメントは大変ではあるものの、バックグラウンドが異なる多様な仲間と出会えたこと、そして彼らから受ける刺激は何物にも代え難く、これからもずっと大事にしていきたいと考えています。業界や立場の異なる仲間の考えに接し、視野が広がったと実感しています。また、先生方も通り一遍の知識を詰め込むのではなく、私たちの今後のキャリアを見すえて、学ぶべきこと・考えておくべきことに焦点を当て、講義を組み立てて下さいます。毎回の熱心な質疑への対応、丁寧なレポート採点(毎週約70人分!)など本当に感謝しかありません。

他のMBAプログラムとの比較はできませんが、問題意識をもった仲間が集まり、フラットに語り合える関係性や一体感は、神戸大学MBAの特徴だと感じています。是非、皆さんもここに来て、楽しく刺激的な学びの日々を過ごしてみませんか?

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