2022年度加護野論文賞 最終審査結果

2023年3月25日(土)に、今年度の加護野忠男論文賞の最終選考会と授賞式が開催されました。今年度新たに入学する約70名の新入生が見守る中、最終選考の発表、審査員による講評、受賞論文のプレゼンテーション、賞状授与及び記念撮影が、無事に対面で執り行われました。

今年度の最終選考会では、昨年度に引き続き、加護野忠男氏(神戸大学名誉教授)を審査委員長とし、出版界から石井淳蔵氏(株式会社碩学舎代表取締役)、学術界から長田貴仁氏(流通科学大学特任教授)、産業界から飯田豊彦氏(株式会社飯田代表取締役社長)をお迎えしながら、そこへ本研究科研究科長國部克彦氏とMBA教務委員原田勉が学内審査員として加わり、慎重かつ厳正な審査が実施されました。

最終選考では、学内の第二次選考で選ばれた3本の論文に対して順位付けを行い、今年度の加護野忠男論文賞の受賞論文における最優秀論文が選び出されました。今年度の金賞に選ばれた論文に対してはどの審査員からの評価も高く、ほぼ満場一致で選出されました。組織変更前後のモチベーションの変化を丹念に追っており、内部者の視点でなければ決してわからないことが分析に盛り込まれているおり、貴重な研究結果になっていることが高く評価されました。

銀賞に選ばれた論文は、あまり知られていない尼崎での面白い試みが浮き彫りにされており、保険機関から保健機関への役割の変化の重要性が指摘されており、社会的意義も大きいものと評価されました。銅賞に選ばれた論文は、方法論的にもしっかりとした体系的研究が行われており、質的・量的に高い水準にあり、MBA論文では民間企業の研究が多いのに対し、地方公共団体における人事評価という今まであまり光が当てられてこなかった領域に切り込んでいる点も評価されました。

これらの論文は、論文の形式面では、先行研究のレビューや方法論、分析、考察などアカデミックなスタイルを踏襲しており、学術論文としても高く評価されると同時に、実務当事者でなければわからない独自の視点から研究が進められている点において、リサーチベーストエデュケーションを標榜する神戸大学MBAプログラムの特徴がよくでた論文でした。

ただし、これらの3つの論文に共通する問題点として2点ほど指摘されました。第1に、タイトルがあまりにも学術的であり、もう少し一般読者の興味を引くような工夫が必要であり、第2に、方法論、プロセスはどの論文も申し分ないものの、それに比して結論はやや常識的なものであったという点です。しかしながら、このような点があるものの、各論文の水準は高く、金賞・銀賞・銅賞と順位付けしたもののその差は僅差であり、すべての論文が加護野賞に十分値するという判断となりました。

文責:2022年度MBA教務委員 原田 勉

受賞論文

  • 金賞:澤田 健 氏(梶原 武久ゼミ)
    「開発体制の変化が製品開発エンジニアのモチベーションと仮説創成力に与える影響 ~自動車開発の事例に基づいて~」
  • 銀賞:広瀬 博史 氏(藤原 賢哉ゼミ)
    「Society 5.0時代におけるバリューベースヘルスケアを実現するための医療サービスイノベーションに関する研究 ~日本の医療サービスにおける価値共創を目指して~」
  • 銅賞:田中 政旭 氏(梶原 武久ゼミ)
    「地方公共団体における人事評価制度の普及に関する研究:実質的な利用と見せかけの利用」

審査委員

  • 神戸大学名誉教授 加護野 忠男氏
  • 株式会社碩学舎代表取締役 石井 淳蔵氏
  • 流通科学大学特任教授 長田 貴仁氏
  • 株式会社飯田代表取締役社長 飯田 豊彦氏
  • 神戸大学大学院経営学研究科スタッフ

加護野忠男名誉教授(審査委員長)審査講評

3つの論文を読ませていただきまして審査委員の意見が一致したのは、まず金賞の澤田さんの論文です。自動車産業における製品開発の組織体制の変化によって、その会社の中で開発エンジニアのモチベーションや創造性にどういう影響が出てきたかという研究です。非常におもしろかったです。とりわけ、この論文で重視されているのは、最近の自動車の研究開発が自動車についてだけではないことです。この論文の中に出てきたCASEのConnectedは外部とネットで結びついているということです。2番目のAはAutomatedです。自動運転などいろいろな自動化が起こっています。3番目のSはShared & Servicesです。最後のEはElectricです。自動車の範囲はものすごく広くなってきています。その中での開発がどのように今後展開するかも含めて分析が行われています。非常によい勉強になりました。しかし、修士論文というのは、われわれが勉強するためのものではなく、ご本人がそれをまとめるために調査し、考えて書かれることに意義がありますから非常によかったです。澤田さんの論文がベストであるという評価は審査委員全員でほぼ一致しました。

銀賞の広瀬さんの論文は、日本の医療のレベルは非常に高いですが、予防医療に関してまだまだ改善の余地があるという研究です。生活習慣病にかかっている人の予防医療の社会システムをどうするかということに関して、尼崎市が極めてユニークなシステムを構築したということです。広瀬さんの研究のおもしろいところは、生活習慣病がひどくならないための予防医療の具体的な尼崎市の実例が分析されています。腹囲と身長の比率から肥満度が判定されますが、これで食事を減らしたり甘い物を食べるのをやめたりするよう言われてもやめられません。どのようにしたら、このような人が適正な生活習慣を身につけることができるかについて尼崎市は非常によいことをしているということが書いてありました。大変よい研究でしたが、尼崎市に問題もあります。尼崎市はそのサービスを収益化するシステムを持っていないのです。結局コストだけかかっているのです。尼崎市がどうやればこの生活習慣病の治療システムを収益化できるのかということについて、もう一歩考えていただけたら広瀬さんの論文はすごくよくなったのではないかと思います。そうすれば澤田さんの論文を超えるものになったかもしれないと思います。このことでも分かるように論文のクオリティというのは紙一重です。

銅賞の田中さんの論文は、地方公共団体における人事評価制度の研究となっていますが、少し視点を変えて「地方公共団体における行政法的な経営管理の問題」というふうに取り上げ方を変えれば、もっとおもしろい研究になったと思います。おもしろいと思うのは経営学者だけかもしれません。何度も言うようですが、差というのは紙一重です。やはりそれだけ神戸大学MBAの論文は質の高いものです。おそらくここまで行こうと思うと随分大変だと思います。指導教授、アドバイザーから、とりわけ指導教授はまだよいのですが、アドバイザーという人々は問題なのです。私も自分自身の修士課程の学生、博士課程の学生の論文を何度も審査しましたが、その時にアドバイザーの言うことに対して、そんなことは無理だと時々感じることがありました。かなり厳しく言われます。その中でそれに耐えてどんどん頑張っていくのが神戸大学MBAのよさだと思います。

受賞おめでとうございます。

後列左から 長田氏、加護野氏、國部経営学研究科長、石井氏、飯田氏
前列左から 田中氏、広瀬氏、澤田氏(三冠王受賞 馬場氏、粟井氏)