神戸大学MBA

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2016年度テーマプロジェクト研究最終発表会
 

2017年1月7日(土)

神戸大学MBAのカリキュラムを改訂して、M1の前期と後期に学生グループで2つの研究プロジェクトに取り組むという形態にして、これで9年目となります。当初から後半部分のテーマプロジェクト研究を担当し、合計で300以上の最新事例を学ぶ機会に恵まれたことになります。学生さんたちがこの授業に心魂を傾けていただいたことに感謝したいと思います。また、大御所の加護野先生には、最終発表会の審査委員として継続的に参加していただき、さまざまな経営課題、事例、研究をどのような視点でとらえるのかを教えていただきました。MBAフェロー、シニアフェロー、同僚の先生に審査員として参加していただき、経営学の学習に置いて重要なcoproductionとcompassionを実現できたかなと思っております。

今年は、12チーム、各チーム20分の発表と10分の質疑応答を10名の審査委員(加護野、原、上林、三矢、森村先生、シニアMBAフェローの井上、福嶋、田中、飯田氏、そして、指導教員の松尾(博))が評価しました。発表のタイトルとケース対象企業は発表順に以下のようになりました。ここに挙げました研究に協力していただきました企業、これらのケース対象企業の他の多数の協力していただいた企業、神戸大学以外でもアドバイスをいただいた専門家の皆様に、心からお礼を申し上げます。



発表タイトルとケース対象企業・事業
『「ネットワーク」が企業経営に及ぼす影響~ヘルスケア・スタートアップからの一考察~』(ペプチドリーム,ノーベルファーマ,アンジェスMG)
『技術革新に伴う自動化による顧客との価値共創』(シスメックス,ベーカリースキャン,ブレイン)
『中小企業の事業承継に関する事例研究~どうして時間がかかるのか~』(新熱工業,ハリマニックス,昭和精機)
『需要減退に直面する市場におけるマーケティング戦略の研究』(ハーレーダビッドソンジャパン,メルセデス・ベンツ日本,シマノ)
『変化する「弔い」のビジネスプロセス~多死社会における現状と対処~』(阪急メディアックス,ティア,イオンライフ,みんれび,アート企画,銀河ステージ,アーバンフューネスコーポレーション)
『これからの農業経営~優良生産者にみる特徴と共通点~』(マイファーム,篠山市の農園,神戸市の農園,Stars,ヘルシーファーム,ファーム&カンパニー)
『技術代替による新規事業の創造』(関西ペイント工業,下里鋼業,奥谷金網製作所,GLM)
『草の根インフルエンサーを活用したSNS上でのバズ・マーケティングは「販売戦略」になりえるのか?』(セントレジスホテル大阪,セレンディップ,某広告代理店)
『変わる「企業と顧客の関係性」を探る』(ソニーマーケティング,ブラザー販売,オウケイウェイヴ,千葉市)
『社会改革を起こすリーダーシップは企業で生み出せるのか?~これからの時代に必要なリーダーシップの開発~』(宮城県女川町,ロート製薬,パナソニック)
『地方に本社を移転する企業の研究』(サイファー・テック,プライミクス,YKK,白山)
『拡大するムスリム市場と日本企業の対応』(南薩摩食鳥, マンダム, チョーヤ, 野村美術,ハラールメディアジャパン,エムビックらいふ)



金賞は、『変わる「企業と顧客の関係性」を探る』を発表した「チーム暫定チャンピオン」が獲得しました。鉄道会社で、乗車中のお客さんがトラブル情報をリアルタイムに発信し、それが鉄道会社を介せず、お客さんの間で共有されるという現状があります。そのような情報は企業が顧客へ発信するものであるという固定観念は古いという動機付けから発表が始まりました。ソニーやブラザーの製品の購入者はトラブル発生時にメーカーのサイトではなく、OKWAVEやYahoo知恵袋の様なコミュニティサイトに直行し、その解決策を探り、また、困った人の質問に無償で答える人が存在することでそのようなサイトが成り立っていることが指摘されました。ICT関連機器とソフトが多種多様な企業によって提供され、それらがリンクされて使われていることにより、単体のメーカーでは想定しがたい問題の発生が、このようなサイトの存在につながっていることが分かりました。千葉市におけるコミュニティを活用したユーザー貢献システムである「ちばレポ」の事例も紹介されました。企業・自治体から顧客への一方向の顧客サポートというコンセプトがICT,SNSの世界では、ユーザー貢献システムというコミュニティ・サポートという形態に変化してきており、その積極的な活用がなされるべきであるという示唆になっておりました。理論整然とした、説得力の高い研究発表になっていました。





銀賞は、『拡大するムスリム市場と日本企業の対応』を発表した「Team DMM」が獲得しました。16億人のムスリム市場は、日本においても最近、注目されてきていますが、ムスリムの人は食品は豚肉は食べない、或いは、食品にハラール認証を求めるという程度の理解しかされていないと思います。本研究では、ハラール認証はどの範囲まで必要かというようなクエスチョンを軸に、どの様にムスリムの人を対象にビジネスを進めるべきかが論じられました。チームメンバーはまず、神戸モスクを訪問し、そのうち3名はハラール講習を受け、ハラール管理者資格を修得しました。ムスリムは国家よりも宗教的な帰属意識が高く、ムスリムコミュニティへの浸透、日本文化・品質での差別化が必要という結論になっていました。加護野先生からは、ムスリムは古来、貿易の担い手であり、コーランにはビジネスのルールに則った記述が多々みられるという指摘があり、ムスリム市場について研究する時はまず、コーランを読んでくださいという指導が入りました。確かにムスリム市場の研究というのはあまり見たことがなく、具体的な事例とハラール認証問題を軸に、ムスリム市場の特徴をあぶりだすという巧みな構成の示唆深い研究発表でした。






銅賞は『変化する「弔い」のビジネスプロセス~多死社会における現状と対処~』を発表した「チームTaboo」が受賞しました。弔いに関するビジネスへの参入或いは起業というと、一種の嫌悪感を持って受け取られがちですが、この研究発表では、弔いということの尊厳さを損ねることのないビジネスのありかたが明らかにされました。社会学としての弔いの研究者であり、今回貴重なアドバイスをしていただいた名古屋学院大学の玉川貴子教授もこの発表に立ち会われ、弔いのプロセスについての厳密な説明がありました。特に、弔いには一人称、二人称、三人称のものがあり、三人称のものが忌み嫌われる対象となることが多いという洞察はこのビジネスをする上で重要であるということが分かりました。阪急やイオンの葬式ビジネスへの参入、Amazonお坊さん便、ご遺体ホテル、宇宙葬と確かに人称の違いで受け止め方が違うなと考えさせられました。葬儀ビジネスは究極のサービスビジネスというコメントもビジネスの当事者から引き出せていました。得られた知見として、3人称の死に伴う禁忌をどう克服するかという課題と企業として葬儀とは何かということを明確にすることの重要性が指摘されました。興味本位に落ちない、死とビジネスに尊厳を持って向き合う格調のある研究発表でした。




今回の入賞3チームの評価はほぼ同点で、他のチームより抜け出ていました。銀賞と銅賞は同点で、審査委員間で評価が割れた方が上位というタイブレークルールを適用して順位付けしました。入賞チームは研究課題と結果のインパクトの強さ、ケースを使った説得力のある論理展開、20分という短時間の発表の構成のうまさという点で卓越していたと評価できます。

今回のすべての研究発表において、研究課題、ケース企業から仕入れた題材が素晴らしく、テーマプロジェクト研究が目指すものと整合していたように思います。変化していく社会環境の中での企業活動の本質に迫ること、その課題は、問題点は、仮の答えはとたたみかけることができたかということですが、全チームがその点では優秀でした。本社機能の地方移転、トライセクターリーダーシップ、農業経営、需要減退のオートバイ市場、SNSの口コミマーケティング、ヘルスケア産業での起業、AI、製造業の技術代替、中小企業の事業継承と、このような課題を深堀していけば、今の経営の本質が顕われてくるのではないかと感じさせられました。チームメンバーの誰かが修士論文研究でそれぞれのトピックのさらなる深堀をしていただければと思います。

私のテーマプロジェクト研究の担当は今回で修了とします。以下のことがテーマプロジェクト研究遂行上でのこころえであったかと思います。

  • インパクトのある研究課題を選択すること、事の本質は何かを問うこと。
  • 最強のメンバーを構成すること、勝ちに行くこと。ともかく最後までやり抜くこと。
  • メンバーは最初にわだかまりをぶっちゃけて、チームビルディングをすること。
  • 修士論文研究とテーマプロジェクト研究のシナジーは考えないこと。
  • グループ内にある程度の専門知識が存在する研究課題を選択すること。
  • 何故、如何にという問いをリサーチ・クエスチョンとしておくこと。
  • リサーチ・クエスチョンと仮説を常にペアーで考え、随時改訂しいくこと。
  • 発表では、「ケースに語らせること」により客観性を増し、説得力をつけること。
  • 経営学の既存研究を参考にすること、しかしながら、発表の論拠としないこと。あくまで、ケースが語ることを説得力の中心にすえること。
  • とりあえず、エキスパートの意見を聞き、スタートの位置を高めること。大学の先生は気難しいので、ある程度研究領域についての知識がついてから会いに行くこと。
  • 何か仮説を立ててから、インタビューに向かうこと。
  • インタビューの時は人ごとのように質問せず、自分が当事者であるかのごとくcompassionを相手に対して持ち、考えて質問する事。自分がこの分野で起業すると想定して、質問する事。
  • 最後に内省すること。
  • (文責 松尾博文)

    ※2016年度 金賞チームのインタビューはこちら