神戸大学MBA

アクセスマップ お問い合わせ
  • 文字サイズ
  • 標準
  • 標準

2016年度ケースプロジェクト発表会
 

2016年8月6日(土)

 昨年度はここ10年で最も難易度が高いテーマを出題したと書きましたが、今年度はシャープです。シャープの転落は、戦後最大級のビジネス悲劇と言ってよいでしょう。それが関西で起きました。神戸大学MBAで取り上げて、しっかり教訓を学んでおくことは、半ば義務と考えた次第です。テーマが大きすぎるのは確かですが、それを見送る理由にしては名折れと言われても仕方ありません。

 かくして史上最難関のテーマ、「Derailment:シャープはどこで何を間違えたのか」が定まりました。これは、他社に先駆けて「選択と集中」を実行し、華麗なる大逆転を夢見たシャープが、こともあろうに台湾企業の軍門に下るまでの経緯を総括するよう求めるものです。自ら『戦略暴走』を書いた経験に基づいて判断するなら、これは仮にシャープの歴代社長が集まるゼミができたとしても半年で結論を出せるかどうかわからないくらい大きなテーマと言ってよいでしょう。

 それほど巨大なテーマと向き合って悶絶し続けた学生諸氏には、何はともあれ労をねぎらいたいと思います。入学していきなり始まるプロジェクトなのに、各チームとも健闘が目立ちました。

 金賞に輝いたチームは、亀山第一工場の建設に向かった2002年時点でシャープは脱線したと主張しました。より正確に言うなら、亀山第一の建設自体より、そこに至る前の段階で第五世代をスキップした点に問題を見たと言い換えるべきかもしれません。いずれにせよ、そこから先は破滅への一本道で、回復する余地はなかったということです。

 惜しくも僅差で金賞を逃した銀賞チームは、シャープが脱線した時点を何と1986年と主張しました。ここでシャープは他の可能性を捨てて液晶を選択し、そこに集中する戦略に賭けたというわけです。このチームは捨てた可能性のポテンシャルを描いて見せることで、選択そのものの誤りを説くことに成功しました。

 面白いことに、上位二チームは共に技術論を展開して、審査員から高い評価を得ています。なぜかは、一考してみてください。

 銅賞チームは、2007時点で堺工場の建設に踏み切り、シャープは脱線したと主張しました。同点で並んだものの、いわばPK戦で敗退した黄銅チームは、脱線の時点を2011年と見ており、ともに直近までシャープは立て直し可能だっとという論陣を張っています。

 鋭敏な読者は既に気付いたと思いますが、上位チームの見解は大きく分かれています。町田社長就任の時点までに脱線していたと見る集団から1チーム、片山社長就任以降に脱線したと見る集団から1チーム、両者の中間で町田社長時代に脱線したと見る集団から1チーム、それぞれ上位に食い込んだことになっています。審査員は特定の集団に与するより、それぞれの集団から最も説得力のあるプレゼンテーションを選出したのでしょう。これは、どのチームのプレゼンテーションも特定の視点を焼き付けるには至っていないということを意味します。

 脱線の時点を問われ、X時点を選択すれば、X時点より前は軌道修正の余地があったことを論証すると同時に、X時点から後は軌道修正の余地がないことを論証しなければなりません。その基本のキができていないため、審査員は大きく異なる時点を選択したチームにも、高い評価を与えたと考えるしかありません。因果関係を理解しないことには正しい打ち手に至りませんが、既に起きた事象についてすら、我々は因果関係を綺麗に解きほぐす術を持ち合わせないのです。怖ろしいと思いませんか。

 教訓は、謙虚たれということでしょう。これは私自身も自分に言い聞かせる必要があると、あらためて感じ入っています。と同時に、難しい因果関係を解きほぐす研究に邁進し、経営教育のための良質教材を増やさなければと奮起しています。ここまでの視点を論考した内省レポートが皆無だったのは、少し残念でした。

 より細かい論点として、ほかに2点ほど挙げておきたいと思います。まず、シャープの堺工場にはプランBがあったのに、そこを指摘したチームはありませんでした。さすがにシャープの経営陣も堺工場の建設にリスクが伴うことは認識しており、それゆえ太陽電池工場に転換する可能性を視野に入れつつ堺を構想しました。そのプランBも頓挫した時点で、シャープの悲劇は本当に悲劇の様相を帯びたと言えます。ということは、太陽電池事業の誤算を掘り下げる必要があるわけで、そこに大きな逸機がありました。

 次に液晶です。シャープは早くも1990年代に液晶で敗戦を経験しています。その舞台はノートPC用のディスプレイで、勝ち組は台湾勢でした。これはB2Bのビジネスで、価格がすべての世界です。そこにおける敗戦がシャープをB2Cのテレビへ、そして亀山へと駆り立てたわけです。あまり語られていない伏線だけに掘り下げる価値は大きかったはずですが、全チームがスルーしたのは意外でした。

 二年連続で巨大日本企業の転落をテーマに選んだのは、電機業界を中心に日本でも抜本的な戦略転換を迫られる巨大企業が目立つようになった現実に即応してのことでした。並行して走るゼネラルマネジメント応用研究では既にGEやIBMの戦略転換を教材として取り上げており、科目間の連携を強化する意味もありました。最終発表のあとに提出された内省レポートを読む限り、出題意図を見事なまでに汲み取ってくれた学生が散見され、その面では勇気づけられました。

 最終発表も終わり、内省レポートの採点も終わり、今年度のテーマは過去のものとなりました。しかしながら、これでシャープの悲劇にケリがついたわけではありません。テーマが尾を引き、みなさんがMBAとして真相の究明に向けて論考を続けてくれることを祈っております。みなさんが悲劇の主人公になってからでは遅すぎます。その点は、心に刻んでおいてください。

(文責:三品和広)

 

 

◆金賞チーム

   
※金賞チームのインタビューは
こちらからご覧下さい。


 
 
◇銀賞チーム
   
 
◇銅賞チーム