神戸大学MBA

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2009年度ケースプロジェクト発表会
 

2009年8月8日(土)

神戸大学MBAプログラムの中核を成すプロジェクト方式。その最初の課題となるのが、ケースプロジェクトです。これは、あらかじめ定められた5名前後のチームで、与えられたテーマに沿うケースを1つ選択し、それを研究対象として分析することを要求しています。リサーチとしては初歩的な設定ですが、入学と同時に始まる課題だけに、チームを有効に機能させるところに大きな試練があります。MBAというと頭デッカチと誤解されることが多々ありますが、このケースプロジェクトは講義と並行して、行動や実践のスキルを養うことに主眼を置いています。

今年度のテーマには、Unmatched Quality、直訳するなら、比類なき品質を選びました。テーマを漠然と受けとめるチームが多かったので、ここでは少し解題に紙幅を費やしておきたいと思います。

ここには文字通り、キーワードが二つあります。一つは「品質」で、これは多義であるがゆえ、各チームに定義を要求します。ここで最初から抽象的な定義に走るチームは、測定や論証に苦労することが予見されました。また、性能と品質を混同すると、リサーチの焦点が定まらなくなってしまいます。特にサービス業のケースを選んだチームには、ここでつまずいたところが目立ちました。もう一つのキーワードは、「比類なき」です。ここには二つの層があり、表面的には品質の「優位性」を立証しなくてはなりません。そして「優位性」が持続するには、その下の層で「模倣困難性」、もしくは「非再現性」がどこにあるのかまで突き止める必要があります。

今年度の優勝争いは、「オルファ」と「古野電気」に絞られて、この二チームが接戦を繰り広げました。「オルファ」は「品質」の定義を狭くとったことが賢明な選択で、「優位性」の実証において序盤で圧倒的なリードを築きました。それに対して「古野電気」は、中盤で「品質」の定義を先鋭化するのに成功し、圧倒的なフィールドワークを通じて「模倣困難性」について深い納得感を生み出しました。結果は、僅差で「古野電気」が金賞、「オルファ」が銀賞となっています。取るに足らない差とも言えますが、事後に提出された内省レポートを読んでみると、差の出所が見えてきます。鍵は、やはりチームビルディングにあるようです。「古野電気」では、チームのメンバー全員がレベルの高いレポートを提出しています。チームがまさに一丸となり、非稼働人員がいなかったのでしょう。チームワークに特有の熱気が、終盤にかけての intellectual stretch、もしくはレベルアップにつながったことは間違いないと思います。

銅賞は「マニー」が獲得しました。ここは、素材にパワーのあるケースを選択しましたが、上記二チームと比べると「品質」、「優位性」、「模倣困難性」のいずれにおいても詰めに甘さが残っており、それが差となりました。とは言うものの、表彰台に上った三チームの発表はいずれも傾聴に値するもので、刺激的な洞察に満ちあふれていたことを書き添えておきたいと思います。

出題者の立場から付け加えるなら、「品質」の定義を変えることで「優位性」を築いたケースが続出するものと密かに期待していましたが、その線で興味を引いたのは「青山フラワーマーケット」だけでした。ここは日比谷花壇との対比が秀逸であったものの、それを実証しきる馬力に欠け、入賞に至らなかったのは残念でした。他に「宝塚歌劇」にもユニークな「品質」の定義があることを知りましたが、ここは先発であるがゆえ、変えたとは言い難いところに「青山フラワーマーケット」との相違がありました。

なお、学習を目的としたチーム稼働率の視点から評価すると、
金賞 「伊那食品工業」
銀賞 「古野電気」
鉄賞 「田宮模型」
と言ってよいかと思います。この点は、事後の内省レポートを読んだうえでの判断です。特に「伊那食品工業」は、「模倣困難性」の所在について新たな知見を引き出しており、メダルをとってしかるべきでした。

最後に、全体を通してみた感想を記しておきます。かつてはアメリカの新車品質サーベイで、日本車が上位を独占した時代がありました。ところが、いまやレクサスの上にポルシェが来たり、ホンダの上に現代が来る時代になっています。もはや「品質と言えば日本」という時代は終わった観があることを否定できません。そうなってしまった理由は、日本がキャッチアップを許したところにあります。本来なら「品質」の定義を変えるべきタイミングで、それができなかったということでしょう。

そういう問題意識を背景に、何か新しい品質概念が出てこないかと期待しましたが、さすがにハードルが高すぎたようです。グローバルに比類なきと言ってよいケースは、今回は従来の品質概念に基づく「シマノ」と「マニー」、それに「モルテン」くらいなものでした。そのため新たな仮説を得るに至りませんでしたが、この時代に「模倣困難性」をどこに求めるかは深刻なテーマです。これについては、これからも考え続けていきたいと思います。

今回は「他社並み」で満足しない企業のケースが集めましたが、予想どおりと言うべきか、追求の手を緩めない企業姿勢の背後にオーナー経営者の存在が目立ちました。同じ状態を再現できる大企業を、どうつくるのか。これも大きなテーマです。みなさんにも、考え続けてほしいところです。

いろいろ書き立てましたが、どのチームも御苦労様でした。

(文責:三品和広)

※金賞チームのインタビューはこちら