藤原弘明 さん
製薬企業 勤務 2025年度修了生 栗木契ゼミ
1. プロフィールをお聞かせ下さい。
約20年にわたり、外資系製薬企業の生産工場にて、品質管理部門、品質保証部門、サプライチェーン部門など複数の部門に所属し、輸入製剤の品質改善や、新製品上市、承継・技術移管など、製品ライフサイクルに関わるプロジェクトに携わってきました。
神戸大学MBA修了直前に転職し、現在は外資系製薬企業にて、外部製造委託先を含む製造ネットワークにおいて、製造・供給の観点から事業運営を支える役割の一端を担い、社内外の関係者と連携しながら、安定供給と品質リスク低減の両立を目指す業務に携わっています。
2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?
MBAに入学する2年前に課長に昇進しました。それまでは主に個人として成果を出す立場で、医薬品製造の現場に近い環境において、品質保証や品質システムの分野を中心に業務に携わってきました。一方で、チームを持ち、部下を抱える立場になったことで、個人の経験や努力だけでは解決できない課題に直面し、将来に対する漠然とした不安を感じるようになりました。
特に、部下の育成やリソース配分といった新たな役割を担う中で、限られたリソースの中で優先順位を判断する難しさを実感し、これまでの実務経験だけでは十分に対応できないと感じる場面が増えました。組織を率いる立場として、感覚や経験だけに頼るのではなく、判断の拠り所となる考え方や枠組みを持つ必要性を強く意識するようになりました。
こうした背景から、個人ではなくチームとして成果を出すための組織づくりに関心を持つようになり、日々の業務で感じてきたチーム運営や意思決定に関する課題や違和感を、理論的に整理し、他者と共有できる言葉にしたいと考えるようになりました。働きながら学ぶことへの不安はありましたが、実務と理論を往復しながら学べる神戸大学MBAのカリキュラムや修了生のメッセージに触れ、働きながら学ぶ環境として非常に適していると感じました。
加えて、以前の勤務先の元上司が神戸大学MBAの修了生であり、同じ製薬業界において、国内外を含むより広い視点で実務に取り組み、MBAでの学びを長期的に活かしながら責任ある立場を担われている姿に触れられたことも、進学を後押しする大きな要因となりました。また、製薬業界に限らず、多様なバックグラウンドを持つ社会人と切磋琢磨できる点にも強く惹かれ、受験を決意しました。
こうした点に加え、働きながら学ぶ上で、自宅から無理なく通える立地であったことや、専門実践教育訓練給付金制度が利用できたことも、進学を決断する上で重要な要素でした。
3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?
概ね達成できたと感じています。授業やゼミを通じて、これまで感覚的に捉えていた現場の出来事や課題を、理論やフレームワークを用いて整理し、他者に説明できるようになりました。修了論文では、製薬業界のGMP教育を題材に、行動経済学の視点から「人の行動」や「組織としての学び」をどのように設計できるかを考察しました。実務と強く結びついたテーマで研究に取り組めたことは、自身の業務をあらためて見つめ直す上で大きな成果だったと感じています。
一方で、修士論文として取り組んだ研究は、限られた対象を用いた予備的・探索的な検討にとどまっており、結論を一般化できる段階には至っていません。研究を通じて、現場の複雑さや検証の難しさをあらためて実感するとともに、課題に向き合う際の視点や考え方そのものを鍛えることができたと感じています。
また、修士論文に取り組んでいた最中に転職という選択をし、神戸大学MBAでの学びを踏まえて、自身のキャリアの方向性をあらためて見直す機会を得ました。現在は、製造に関わる事業運営の一端を担い、社内外の関係者と連携しながら、安定供給と品質リスク低減の両立を目指す立場にありますが、修論で扱った「人の行動」や「組織としての学び」「意思決定の在り方」といった視点は、分野を超えて活かせるものだと感じています。
修士論文として取り組んだ研究も、キャリアもまだ道半ばではありますが、これまでの経験や学びを通じて、日々の業務においてどのような視点で課題に向き合うべきかが以前よりも明確になりました。その意味で、神戸大学MBAに進学する際に描いていた目的は、概ね達成できたと考えています。
4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。
平日はフルタイムで働き、夜や週末に講義やグループワーク、課題に取り組む生活で、最初の3か月ほどは新しい生活リズムに慣れるまで相当苦労しました。加えて、海外との会議が夜間に設定されることもあり、睡眠時間を削らざるを得ない時期もありました。
一方で、在宅勤務が週に2〜3回可能だったことや、家族の理解と協力を得られたことは、両立を支える大きな土台になりました。在学中はケースプロジェクトやテーマプロジェクト、現代経営学応用研究のサーベイリサーチやコア科目のStrategyなど、チームで取り組む課題も多く、限られた時間の中で同期の仲間と議論を重ねながら成果物を仕上げていく経験を通じて、何度も支えられました。
5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。
神戸大学MBAのカリキュラムは、これまで医薬品製造工場という比較的限られた領域で仕事をしてきた自分にとって、視野を大きく広げてくれる内容でした。履修した多くの分野は、それまで断片的に耳にしたことはあっても、体系的に学ぶ機会はほとんどなく、「こんな考え方や世界があるのか」と感じる場面が多くありました。
正直なところ、授業を受けただけで十分に理解できたとは言えず、学び続ける必要性を強く感じていますが、少なくとも自分の業務や意思決定を、これまでとは異なる角度から捉え直すための言葉や枠組みを得ることができたと思います。
また、社会人学生同士の議論を通じて、自分とは異なる前提や価値観に触れられたことも印象に残っています。知識そのもの以上に、「考え方の引き出しが増えた」という実感が、神戸大学MBAで学んでよかった点だと感じています。
6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?
多くの先輩方がケースプロジェクトやテーマプロジェクト、修士論文について触れられているため、ここでは少し異なる観点から、特に印象に残っているエフェクチュエーションについて述べたいと思います。
エフェクチュエーションは、不確実な状況において、あらかじめ明確な目標を定めるのではなく、「今ある手段」や「関わる人」を起点に行動しながら道筋を形づくっていく考え方です。授業やレポートを通じて、自身の過去の判断や行動を振り返ると、無意識のうちにこの考え方に近い意思決定をしていた場面が多くあったことに気づきました。
特に印象に残っているのは、ケースプロジェクトの検討過程での経験です。当初はある新規施策のアイデアを構想していましたが、実現可能性の検証方法に悩んでいました。その中で、同期の助言や偶然のつながりをきっかけに、当初は想定していなかった形で関係者へのヒアリングの機会を得ることができました。結果として、その施策の提案を見送る判断に至りましたが、限られた条件の中でも現実的な検証ができたことで、納得感をもって意思決定できたことが強く印象に残っています。
この視点は、現在の業務における意思決定や、今後のキャリアを考えるときの一つの「考え方の軸」になっていると感じています。
7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?
以前よりも、目の前の出来事をそのまま受け取るのではなく、背景や前提を考えながら捉えるようになったと感じています。現場の忙しさや個人の努力に原因を求めるだけでなく、 組織の仕組みや環境といった観点から考えるようになり、自分の考えを整理して伝えることを意識するようになりました。大きな変化というよりも、日々の仕事の中での思考や対話のスタイルが少しずつ変わってきていることが、学生生活を通じての一番の変化だと思います。
8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。
神戸大学MBAは、決して「楽に仕事と両立できる場」ではありません。私自身も、入学前は本当に続けられるのか、仕事や家庭とのバランスが取れるのか、最後まで迷っていました。
ただ、実際に在学して感じたのは、日々の業務で感じている違和感や悩みを、そのまま講義やプロジェクト、修士論文の題材として考え続けられる環境は、想像以上に贅沢だということです。忙しさの中で流れていってしまいがちな問いに、あえて立ち止まり、時間をかけて向き合う経験は、働きながらでなければ得られない学びだと思います。また、バックグラウンドや立場の異なる社会人学生との議論を通じて、自分が無意識のうちに前提としていた業界の考え方や判断基準が、他の立場からはまったく違って見えることを何度も突きつけられました。加えて、本当に優秀な方が多く、議論や発表を通じて自分の視野の狭さや至らなさを痛感する場面も少なくありませんでした。ただ、その経験があったからこそ、学び続ける姿勢の大切さを実感できたと思っています。
講義や論文は正直大変でしたが、その過程で得た視点や人とのつながりは、修了後も仕事やキャリアを考える上で、確かな支えになっています。
迷っている方ほど、一度挑戦してみる価値のある場所だと思います。