坊向 敏和さん
車両用エンジン部品メーカー 勤務 2025年度修了生 森直哉ゼミ
1. プロフィールをお聞かせ下さい。
大学の工学部機械科を卒業後、車両用エンジン部品メーカーに入社し、主に生産技術部門で製品の量産準備に従事してきました。約14年間、ベトナムの生産拠点に駐在し、現地スタッフと汗だくになりながら現場を駆け回り、更地同然の状態から工場を立ち上げる経験をしました。現地では生産技術にとどまらず、生産管理、設備保全、製造など幅広い業務を担当し、最終的には拠点の経営を主導しました。異なる習慣や文化、価値観を持つメンバーと共に組織経営をする中で培ったリーダーシップは現在に至る私の基盤となっています。
数年前に日本へ帰任後は、同社にとって未踏の領域である電動製品の事業化を目指すプロジェクトに生産技術部長として参画しています。本プロジェクトは、ドローン、電動駆動ユニット、搬送ロボットといった新製品の開発から量産までを一貫して主導し、将来の事業基盤を構築することを使命としています。プロジェクトチームは、営業、開発、品質管理、調達、生産技術、製造など多様な職能のメンバーで構成されており、新製品の事業化に立ちはだかる課題の解決に奮闘する日々です。
2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?
神戸大学MBAを選択した理由は、「研究に基礎をおく教育」や「プロジェクト方式」による学びが実務で直面している課題の解決に直結すると考えたためです。その課題とは、私が参画するプロジェクトにおいて、各職能メンバーは高い専門性を有しながらも縦割り意識が強く、チームとして十分に能力が発揮されないことです。どうすればチームのゴールへ向かって各メンバーが必要な場面で必要なリーダーシップを発揮するようなチームを実現できるのか、これが私の中心的な問いでした。
こうした課題意識を持つ中で、特に魅力を感じたのが「研究に基礎をおく教育」です。自身が直面する実務上の課題を研究テーマとすることで、メンバー間に生じているリーダーシップの断絶といった組織課題の構造を理論的に解明できるのではないかと考えました。また、修士論文の執筆を通じて論理的思考力を鍛えることで、課題の本質を捉え、実効性のある解決策を導き出す力を高められる点にも大きな意義を感じました。
加えて、「プロジェクト方式」による学びも重要な決め手となりました。私が抱く課題はプロジェクトチームのメンバーに関するものであるため、多様な業界で働き、異なる専門性を有する仲間と協働する学びの場はぴったりだと考えました。こうした場において、各メンバーがどのような状況でどのようなリーダーシップを発揮するのかを考察することは、自身の課題に対する示唆を得る上で最適だと考えました。
3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?
目的は達成できたと感じています。私が神戸大学MBAへの進学を決意した目的は、プロジェクトチームにおいてメンバー一人ひとりが自発的にリーダーシップを発揮できるチームを実現するための要因を明らかにすることでした。この目的は、研究の集大成である修士論文という形で達成することができたと考えています。さらに、その研究成果を社内でプロジェクトリーダーへ共有したことで、学びが実務に結び付いた実感を得ることができ、達成感がいっそう高まりました。
私は入学以前から、自身が実務で直面している課題をリーダーシップの観点から研究したいと考えていました。そのため、初志貫徹で研究テーマをリーダーシップに設定しました。先行研究から問いを立て、社内のプロジェクトメンバーへのアンケートやインタビューを実施し、仮説の検証を進めました。その結果、各メンバーが自身の専門性を活かしたリーダーシップを発揮する要因とそれがプロジェクトチームにもたらす効果を明らかにすることができました。
修了後には、研究成果を社内のプロジェクトリーダーに報告する機会を設けました。その際、「研究結果は非常に納得感がある」「今後の実務で活用したい」「ぜひチームメンバーにも共有したい」といった前向きなコメントを得ることができました。自らがプロジェクト活動の中で抱いていた課題に対し、研究という形で向き合い、その成果が実務者に受け入れられたことは、神戸大学MBAでの学びの意義を実感する象徴的な出来事であったと感じています。
4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。
入学前から仕事と学業の両立は相当な負荷になると覚悟をしていましたが、やはり大変でした。業務をこなしながら、毎週土曜日は朝から晩まで対面授業を受講し、加えて週2回のオンライン授業、平日夜にグループワークの打ち合わせが重なる生活は、肉体的にも精神的にも負担となりました。しかし、多忙であることはみんな同じであり、それを理由に学びの質を落としたくないという思いから、限られた時間をいかに有効に使うかを意識するようにしました。
その一環として、細切れの時間を徹底的に活用しました。会社での休憩時間や移動時間、帰宅後の食事前のわずかな時間など隙間時間を積み重ね、学習に充てることでまとまった時間が取れない状況を補いました。また、朝型の生活リズムを活かし、早朝4時頃に起床して講義課題に取り組むことで、静かな時間帯に高い集中力を維持することができました。さらに、許容される範囲でAIツールを活用することで、作業の効率化にも努めました。
こうした時間の使い方の工夫により、仕事と学業のバランスを保つことができ、MBAでの学びは非常に充実したものとなりました。しかしながら、この両立が実現できたのは、家族の理解と支えがあったからこそです。MBAへの進学を快く後押しし、温かく見守ってくれた家族に心より感謝しています。
5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。
神戸大学MBAコースのカリキュラムの優れている点は、経営学を体系的に学べるよう周到に設計されているところです。必修科目およびコア科目を順に履修していくだけでもMBA修了生として最低限求められる知識や分析力に加え、忍耐力が身に付く構成となっています。さらに、選択科目が絶妙なタイミングで配置されている点も特徴的です。コア科目で経営学の基礎を固めつつ、選択科目で関連分野を深掘りすることで理解が一段と深まり、理論の広がりや応用への視野が着実に拡張されていきます。このように体系的な学びが得られるカリキュラムは、多様な目的を持って入学してくる学生の成長を後押ししてくれます。
次に、MBAを受講して良かった点は、「課題を構造化して考える力」と「解決手段を多面的に思考する力」が高まったことです。これらの能力は、実務において日々発生する複雑な課題に対し、迅速かつ適切に対応する上で大いに役立っています。とりわけ、講義やプロジェクト活動で活用した各種のフレームワークによって課題を構造的に捉える思考が身に付いたと実感しています。習得したフレームワークは、業務課題を構成する要素を短時間で整理し、論点を明確にする上で有効に活用できています。加えて、多様な業界で活躍する仲間との真剣な議論は、物事を多面的に捉える力を高めてくれました。白熱した議論の場は、自分一人では気付くことのできない視点を与えてくれる機会であり、実務において課題の解決策を検討する際、選択肢を漏れなく洗い出し、妥当な判断を行う上で役立っています。
6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?
特に印象に残っているのは、やはり志望理由に結びつく「研究に基礎をおく教育」と「プロジェクト方式」を体現した講義です。
第一に、「研究に基礎をおく教育」を象徴するのは修士論文のゼミです。私は森直哉教授のゼミに所属し、リーダーシップをテーマに研究しました。正直なところ、ゼミ配属当初には一抹の不安がありました。森教授はファイナンスのご専門であり、自身が取り組むリーダーシップ研究について、十分な指導を受けられるのかという心配があったためです。しかし、それは単なる取り越し苦労でした。ゼミでの教授からの細部に至る指導やゼミ生からの率直なフィードバックをもらう中でその不安は晴れていきました。特に、教授からリーダーシップの研究にゲーム理論を取り入れてみてはどうかと助言を受けたことは大きな転機でした。ゲーム理論とは複数のプレイヤーが利害関係を持ちながら意思決定を行う状況を分析する数学理論です。従来のリーダーシップ論の枠内で研究を進めようとしていた私にとって、数学理論でのアプローチという違った道筋が開かれた時、研究の奥深さと学際的な面白さを感じることができました。
第二に、印象的だったのは「プロジェクト方式」を実践するケースプロジェクトとテーマプロジェクトです。これらは6~7名のメンバーで経営課題に対する解決策を導く実践的なグループワークであり、問いの設定、先行研究の検証、仮説構築、実証分析から自分たちの解を導く活動です。メンバーによる議論はしばしば白熱し、土曜の講義が終わった後、21時まで教室で議論を続け、それでも時間が足りずに平日の夜にオンラインで議論することもありました。発表会では教授陣やMBA修了生から厳しい指摘を受け、自分たちの解に確信が持てず苦しい局面もありました。しかし、それでもチームとして共通の目標に向かって努力し、互いに刺激し合いながら成長していくプロセスはまさにプロジェクト方式の醍醐味であったと感じています。
7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?
神戸大学での学生生活を終え、私自身に生じた変化は大きく三つあります。第一に、時間を効率的に使う意識が高まったことです。限られた時間の中で仕事と学業を両立させることを意識し続けていくうちに、「時間がないから仕方がない」という発想から、「この短い時間で何をすべきか」という主体的な意識へと変化していきました。その結果、日々の時間の使い方が変化し、業務効率の向上にも効果をもたらしています。
第二に、課題を構造的に捉える思考が身に付いたことです。入学前は、長年の生産現場で培った経験を基に意思決定を行ってきましたが、未経験で複雑な課題に直面した際には、経験則だけでは乗り越えられない限界を感じることがありました。MBAでの学びを通じて論理的思考が定着したことで、課題を構成要素に分解し、その関係性を整理した上で考えることができるようになりました。この変化は日常業務における意思決定の質とスピードの双方に好影響をもたらしていると感じます。
第三に、物事を考える際の視野が広がったことです。これまでは製造業における常識やセオリーを前提に思考する傾向がありましたが、異なる業界で働く仲間との真剣な議論や協働を通じて、自身になかった視点を得ることができました。プロジェクト活動において互いの知見や問題意識をぶつけ合った経験は、物事を一面的に捉えるのではなく、多面的な枠組みで思考することの重要性を認識させるものでした。
8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。
これから受験を検討されている方々へ「なぜ自分は神戸大学MBAで学ぶのか」という問いに対する自分なりの答えを持っておくことをお勧めします。その理由は、この問いへの答えの有無が入学後の学びの質を大きく左右するからです。神戸大学MBAは、自身が抱える課題をこの場で解決するのだという強い意志を持つ方にとっては最適な学びの場です。
MBA生活においては、教授陣からの指導に加え、学生同士の長時間にわたる真剣な議論が日常的に行われます。これは決して楽な道のりではなく、最後までやり抜く覚悟が必要です。しかし、このような負荷のかかる学びの場は、明確な目的意識を持つ学生にとっては大きな成長の機会となります。「なぜ自分は神戸大学MBAで学ぶのか」という問いに対する答えは、MBA生活の困難な局面において自身の道しるべとなり、目的達成への推進力となるはずです。その一方で、明確な目的意識を持たないまま臨んだ場合、カリキュラムの負荷の大きさから本来の目的を見失い、修了後に学びを十分に活かせない可能性もあります。
神戸大学MBAを修了した今だからこそ、本コースは自身の課題と真摯に向き合い、本気で自らを変えたいと願う方にとって、人生を前進させる学びの場であると自信を持っていえます。