2025年度ポスターセッション 教員のコメント
松嶋 登 教授
神戸大学MBA恒例のポスターセッションが,今年も晴れやかに開催されました.
ポスターセッションでは,MBAの学びの集大成としてまとめられた修士論文の内容が報告されます.
自分が考えていることに対して,先行研究を調べ,探求すべきリサーチ・クエスチョンを設定し,社会科学の多様な方法論を駆使した経験的研究を行い,インプリケーションを見出す.文章として100ページを超える,数万字の論文を書く.このような苦行は(某有名な先生も「人生最悪の経験」とおっしゃったように),社会人として生きていく上で必要になることはまずありませんし,社会人を対象とした大学院では,修士論文を必須としない場合も見られるようになりました.
しかし,この苦行を通じてこそ,知らなかった先行事例を発見したり,前提を問い直して探求すべく問いを磨き上げ,分かっているつもりで分かっていなかった現実に向き合うことが可能になります.スライド資料では誤魔化せていた論理の飛躍も,文章で綴ればとたんに顕になりますし,なんとか言葉巧みに隠そうした箇所も,指導教員の先生には一瞬で見抜かれてしまう,,,.M1の後期から始まった論文指導は,月を重ねるごとにゴールが遠のいていくような感覚に陥った人も少なくないと思います.
だからこそ,修士論文の成果は,みんなに聞いてもらいたい.そのような声を受けて,神戸大学では通常,論文執筆者を審査委員が取り囲んで行われる厳しい口頭試問(詰問)による論文審査を簡素化し,同窓会組織であるMBA Caféのご協力を得て,ポスターセッションを始めました.M2の学生はお互いの健闘を讃え,M1の学生は来るべき修士論文の作成に向けて奮起し,さらには修士論文の執筆を支えてくれた家族に晴れ姿を見てもらい感謝を示したい.みなさん,晴々とした表情でご報告されていました.
ポスターセッションでは,ご家族を含んで参加者全員による投票も行われました.今年の上位入賞者は,以下のように多様なテーマに彩られました.
- 1位曹 祐仁
「なぜ、地域貢献に夢中なファミリー企業は繁栄できるのか?-神戸・南京町のまちづくりエコシステムに学ぶ地域と企業の共存共栄モデル-」 - 2位関谷 祐輔
「ヒットコンテンツの創出メカニズム—卓越した番組制作者は「創造」と「実現」の壁をいかに越えるのか—」 - 3位長野 嵩史
「分権化組織の「両利きの経営」に関する考察-組織の分離と統合の観点から-」 - 4位石崎 翔
「IT/AIフリーランスの長期的な事業継続に必要な条件の探索的研究「志向」「危機感」「行動」「研鑽」の観点から」 - 4位坊向 敏和
「製造業の職能横断型チームにおけるシェアド・リーダーシップの有効性」 - 6位土居 陽彦
「企業間取引(B2B)と消費者向け取引(B2C)が併存するメーカーにおける効果的なコア技術の外販戦略」 - 7位東妻 航太
「組織知の起点としてのパーソナル・ナレッジ・マネジメントーー生成AIが“背中を押す”SECIスパイラル起動メカニズムの質的研究」 - 8位小林 繁
「伝統的電機メーカーによるD2C本格進出の挑戦ー指定価格制度が拓く障壁の突破口ー」
表彰式では,入賞されたみなさんによるスピーチが,喜びいっぱいに行われました.ポスターセッション後に開催された懇親会のお酒は,いつにも増して美味しかったことでしょう.
ただし,,,神戸大学MBAの本賞である加護野忠男論文賞は,ポスターセッションとは異なり,学術的な観点から評価されたものが選抜されます.極めて興味深いことに,ポスターセッションの受賞者とは随分異なった傾向になります.その選考結果は,来年度の入学生のオリエンテーションで発表されます.受賞者には,プレゼンテーションを行っていただき,神戸大学MBAで到達すべき最高峰を,新入生に示していただきます.皆さんの頑張りは,こうして後進に引き継がれていきます.