学部でも卒業論文の執筆を義務づけるところが少なくなってきているので、修士論文をいったいどのように書き進めていくかがよく分からない、長文の論文を書くことが不安だと感じる人が多いようです。ここでは、神戸大学の専門職大学院における修士論文作成のプロセスを簡単に説明しておきます。
入学前
修士論文の作成は、実は受験の際に提出する研究計画書の作成から始まっているのです。受験生は、実務での体験を踏まえて、入学後に何をどのように研究を進めるかを研究計画書にとりまとめます。ここでの問題意識が、論文作成の出発点となります。
1年生前期
いくつかの授業を受講することに並行して、新入生は「ミニプロジェクト研究」に従事します。与えられたテーマにそって実務上の問題をグループで研究し、8月に報告会(ケースプロジェクト発表会)が実施されます。ケースプロジェクト研究では、上述の作業に加えて、体系的な知識を習得するための学習方法、文献の引用方法、プレゼンテーションの技法、より深く考察を行う思考力の重要性などを学びます。これらは、いずれも修士論文を執筆する上で不可欠な知識です。入学から5ヶ月あまりしか経過していませんが、この期間中に、研究計画書で取り上げたテーマをより深めたいと決意したり、テーマの前提となる問題が未解決であることを知ったり、新たな研究テーマに魅力を感じ始めたりするようです。研究計画書に記載したテーマに固執する必要はありません。この期間は、自分が本当に研究したいテーマを発見するためにあるのです。ケースプロジェクト発表会と同時期に、各自の指導教員が決定します。
1年生後期
ゼミナール担当教員のもとで、各自が修士論文を書くための準備を始めます。複数のメンバーからなるプロジェクト・チームが研究に取り組みます。ゼミナール指導教員が、ゼミ生の研究テーマを子細に検討し、チームメンバーに共通するプロジェクト研究テーマを決定します。プロジェクト研究は、その研究成果自体も重要ですが、各自の研究を進めるための基盤を作り上げるプロセスでもあるのです。「何がどこまで明らかになっているか」を知らずに、「何をどのように明らかにしたいか」を決めることはできません。その意味で、包括的な文献レビューを行うことは、プロジェクト研究では非常に大切です。また、グループとして実施した質問票調査やインタビュー調査は、個別の修士論文作成にも活用されることになります。
2年生前期
8月24日を提出期限とする修士論文の作成に向けて全力を投入するのがこの期間です。ゼミナールにおける論文の中間報告会、指導教員による個別指導などを繰り返しながら論文の完成度を高めていきます。他のゼミナール生の報告やそれに対する指導教員のコメントも、大いに参考になります。なによりも心強いのは、クラスメートと足並みを揃えて、論文作成に取り組むことができることです。論文題目を最終的に決定するのは6月です。論文作成は孤独な作業です。より完璧なものを目指すわけですから、これは終わりのない作業です。途中でスランプに陥ることもあるし、自信を喪失してしまうことも少なくないようです。このような状況から抜け出すことに、クラスメートは有形無形の力を貸してくれるでしょう。当初は2万字以上の論文作成と聞いて、途方もない量の文章を書かないといけないと思っていた人が、5万字、6万字でも足りないと言い始めるのは、論文提出をあと数ヶ月に控えた時期です。そのように感じ始めてからは、時間との戦いです。何度も何度も推敲を重ね、ほぼ出来上がった論文を時には没にして一から書き直し始める。そのようなことを繰り返しながら、論文は完成していくのです。
問題意識が明確であること、何がどこまで分かっているかを正しく認識できること、自分が取り組む問題の解決に夢中になれること。これらの3つの要素が揃っていれば、論文作成は、それほど困難な作業ではありません。1年半のカリキュラムに添って学習と研究を積み重ねれば、その結果として、素晴らしい論文がきっと完成するでしょう。書くことの難しさを身をもって体験することで、本当の理解とは何かを知ることができる。論文作成を通じて、これまでの人生の棚卸しができ、将来に向けての意欲がわいてきたと多くの人が異口同音に語ります。論文作成には、このような副産物もあるようです。
論文作成、恐れるに足りず。みなさんも、MBAを取得されれば、そのようにお感じになるでしょう。