社会を見る眼

安部 浩次

本学MBAメールマガジンEurekaの人気コンテンツである「研究スタッフが選ぶ、オススメ図書」に執筆の機会をいただきました。想定している読者は本学の社会人大学教育に関心をもっていただいている方々とのこと。本をそれなりに買いはしますが、それほどたくさん読むほうではない(!?)私が、一体何を紹介しようかと迷ってしまいましたが、締め切りのおかげでなんとか執筆に着手した次第です。テーマは「社会を見る眼」としました。

社会人大学教育であれ一般の大学教育であれ、大学教育の使命の一つは「世界を見る眼」というものを育てることにあると思います。「世界を見る眼」とは、言い換えれば、いかにして世界を認識するかということです。このコンテンツの想定読者は本学の社会人大学教育に関心をもっているわけですから、「世界を見る眼」を育てるとはおそらく「社会を見る眼」を育てるということになるでしょう。

さて、ここまで読んで、次のようなことを考えた人がいるかもしれません。「世界・社会を見る眼」が育つとなぜいいのでしょうか。そもそもそれが育つとはどういうことなのでしょうか。このようなことが気になった人は、吉野源三郎氏の『君たちはどう生きるか(岩波文庫)』を手にとってみるといいでしょう。この本は、「コペル君」と呼ばれる少年の思考と経験に関するコペル君と「叔父さん」とのやりとりがコペル君の世界を見る眼を開いていく様をとおして、豊かな世界認識がもたらしうるものについて深く考えさせてくれます。(コペル君のあだ名の由来はこの本の最初のテーマなのでここでは説明できません。)もともとは日本少国民文庫の一冊なので少年・少女に向けて書かれたものですが、大学生や社会人にとっても学ぶものは多い古典だと思います。

それでは「社会を見る眼」を育てるという観点から私がおススメするのは次の2冊です。これらはまさに「社会を見る眼」を鍛えてくれる良書だと思います。一つは松井彰彦氏の『高校生からのゲーム理論(ちくまプリマー新書)』であり、もう一つは山岸俊男氏の『「しがらみ」を科学する:高校生からの社会心理学入門(ちくまプリマー新書)』です。

いずれも「高校生からの」という(サブ)タイトルですが、これら2冊がこのタイトルのハードルを高くしてしまったのではないかと感じます。それほど、これら2冊は読みやすく、しかも内容が深いです。前者はゲーム理論の入門書です。ゲーム理論とは、非常に簡単に言ってしまえば、社会現象を互いに影響を及ぼし会う複数主体の(感情なども加味はしますが)損得計算という観点から分析する学問です。本書では、経済、歴史、恋愛から絵本まで実に様々な事例を用いて社会を語ることで、社会現象のシステマティックな理解をもたらすゲーム理論という「ものの見方」のパワーを感じることができます。後者はざっくりと社会科学の入門書といっていいと思います。この本では「しがらみ」とは社会が規定する人々のインセンティブ構造のことを指します。社会科学の難しい点はこのインセンティブ構造は私たち自身が作り出しているという点にあります。本書は、この「しがらみ」を相手に、それをいかに理解するか・できるかということを非常にやさしい語り口調で解説した良書です。

オススメ図書のリンク(神戸大学附属図書館)
  1. 吉野源三郎『君たちはどう生きるか』岩波書店 1982年
  2. 松井彰彦『高校生からのゲーム理論』筑摩書房 2010年
  3. 山岸俊男『「しがらみ」を科学する:高校生からの社会心理学入門』筑摩書房 2011年

Copyright © 2016, 安部 浩次

 
 

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