ビジネスと経済学

馬 岩

ビジネスと経済学に関する2つの本を推薦しよう。最初の本は「吉野屋の経済学」と題して、当時株式会社吉野屋ディー・アンド・シー代表取締役社長の阿部修仁氏と東京大学大学院教授の伊藤元重氏の対談を内容としたのである。これに対して、2冊目の本は、日本のビジネスの現場で起こっているさまざまな現象や事例を重点的に取り上げて、それらを体系的にまとめ、見方を提供する本である。

  1.  阿部修仁・伊藤元重(著)『吉野家の経済学』(日本経済新聞社、2002年)
    何年か前に、偶然、書店で『吉野家の経済学』という本を見つけた。その本は面白くて、一気に読んだ。本の中で、特に「伊藤教授の経済学メモ」というコラムに感心した。そのコラムでは吉野屋で起こっていることを経済学的な考え方で深く分析していた。今でもなぜ吉野屋は2001年に並牛丼の価格を280円に引き下げたという分析をよく覚えている。吉野屋の事例分析を通じて、経済学的な見方で企業の経営戦略を分析することが勉強になった。
  2. 伊藤元重(著)『ビジネス・エコノミクス』 (日本経済新聞社、 2004年)
    『吉野家の経済学』を読んだきっかけで、伊藤教授の他の本も読むようになった。そのなかの1冊が『ビジネス・エコノミクス』である。アメリカには、ビジネスの問題を経済学的な視点から分析した素晴らしい本がたくさんある。しかし、そこに出ている事例の大半はアメリカの企業についてのものである。それらの事例に対して、実感が湧きにくいと感じるだろう。それに対して、『ビジネス・エコノミクス』は日本のビジネスの現場で起こっているさまざまな現象や事例、たとえば、伊勢丹カード、松下電器の流通チャネル(いわゆるナショナルショップ中心の販売)の成功などをベースに企業の経営戦略を重点的に取り上げて、経済学の観点から解釈した興味深い本である。トピックとしては、企業の価格戦略、情報の経済学、契約理論、ゲームの理論、そして著者の専門の国際経済学と多岐にわたり、一見まとまりに欠けるような気もするが、実際読んでみると面白さに引き込まれる。難しい理論の説明や数式を排除して、初心者でも分かりやすく平易に説明している。経済学を学んでいない(または嫌いになってしまった)、あるいは経済学と現場の関わりをもっと知りたい社会人にとって有益だろう。

Copyright © 2015, 馬 岩

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