株価は予測可能か?

山﨑尚志

3年前から私は日本企業のCFO(財務最高責任者)の人たちを対象に、年4回アンケート調査を行っている。その調査内容は多岐にわたるが、毎回必ず行う質問として、将来の日経平均株価を予想してもらうというものがある。例えば、2014年3月に行ったアンケートでは、当時15,000円台だった日経平均株価の1年後の数値を予想してもらったが、その回答者平均は16,103.9円だった。執筆時点の2015年3月20日の日経平均の終値は、19,560円である。この通り、株価の先行きを正確に見通すというのは非常に難しい。

一般に、将来の株価は予測不可能であると言われる。もし、皆さんが、明日100%確実にトヨタ自動車の株価が上昇すると分かったとしよう。そうすると、皆さんの中で、今すぐに大金をつぎ込んでトヨタ株を購入する人が出て来るだろう。その結果、明日上がるはずの株価が今日の段階で上昇することとなり、明日の株価の動きは誰にも分からなくなってしまう。

このように、株価に影響を与えるニュースは即座にその価格に反映されるため、現在の株価はそうしたニュースを既に取り込んでいる、と考えることができる。この考え方が正しければ、明日株価が上がるか下がるかは神様しか分からないという結論になる。これが「効率的市場仮説」である。

2013年のノーベル経済学賞は3人の経済学者を対象に与えられたが、その中でも、この効率的市場仮説を提唱したユージン・ファーマ教授と、人間の非合理性を前提とした正反対の立場をとるロバート・シラー教授が同時受賞をしたのは大きな話題となった。

今回はファイナンスの永遠のテーマである「はたして株価は予想可能なのか」という問いに対する回答として、いくつかの図書を紹介しよう。

1. バートン・マルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』日本経済新聞出版社
同著はアメリカで1973年に出版され、今でも改訂を続けているロングセラーの投資指南書である。著者の主張は首尾一貫しており、「プロのファンドマネージャーによって運用される投資信託を購入するよりも、インデックス・ファンドを購入してじっと持っている方が結果的には良いパフォーマンスを挙げる」というものである。したがって、本書のスタンスは、効率的市場仮説に基づいた伝統的なファイナンス理論の立場をとっている。本書では、実務界や学術界における様々な投資理論を紹介し、著者が分かりやすくその是非を解説している。

2.ピーター・バーンスタイン『証券投資の思想革命』東洋経済新報社
3.ピーター・バーンスタイン『アルファを求める男たち』東洋経済新報社

バーンスタイン氏の一連の著作は読み物としての色彩が強く、『証券投資の思想革命』はファイナンス理論の発展史といった内容となっている。マーコヴィッツ、シャープ、ファーマ、モディリアニ、ミラー、ブラック、ショールズ、マートン、シラーといったファイナンス史を彩る学者たちが、どのような背景の下に様々な理論を打ち立てるに至ったかが克明に叙述されており、歴史ドラマとして単純に面白く読んでいけるのが特徴である。

『アルファを求める男たち』は『証券投資の思想革命』の続編と言える内容となっている。翻訳者である山口勝業氏の言葉を借りると、前作が市場リスクの抗しがたい影響とベータ(市場リスクに対する感応度)がテーマであったのに対し、本書ではベータを調整した後でポートフォリオ運用から付加価値として生み出されるアルファ(超過収益率)が主要なテーマとなっている。

4.岡田克彦『ビッグデータで株価を読む』中央経済社

最後に、ファイナンスの最新の研究として、ビッグデータを使った株価予想に関する本を紹介したい。ビッグデータは最近のビジネス・キーワードの一つであるが、ファイナンスでもビッグデータを使った研究が注目を集めており、新たな投資スタイルとして期待されている。

著者は日本を代表する行動ファイナンスの研究者であり、新聞記事やインターネット上の掲示板などのデータを駆使した株価予想の可能性について、自身の研究を踏まえながら一般の読者にも分かりやすく解説した内容となっている。

堅調に推移している株式市場やNISA(少額投資非課税制度)の導入によって、最近株式投資に関心がある人たちが増えているように思われる。ファイナンスはこの50年で一気に理論が花開いた分野であり、株式投資を行う前に知っておいた方が良いことも多くある一方で、書店のコーナーには単に投資ブームに乗っかっているだけの安易な本も数多く見かける。かといって、ファイナンス関連の本というと、数式が一杯並んだ読みづらいものという印象を受けるため、しっかりしたものは読むのをためらう人も多いだろう。

ここで紹介した本は全て縦書きで、数式はほとんど出てこない内容となっており、数学の知識を前提としないものばかりである。株式投資に関心のある人は、手に取ってみてはどうだろうか。

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