2010年度ケースプロジェクト発表会

2010年8月7日(土)

神戸大学のMBAプログラムは、プロジェクト方式に独自性を見いだしています。その第一関門となるのが、ケースプロジェクトです。これは、チーム構成とテーマを所与として、テーマに適合するケースを任意で一つ選びとり、それを研究対象として分析するよう要求しています。リサーチとしては初歩的な設定ですが、入学と同時に始まる課題だけに、チームを有効に機能させるところに大きな試練があります。MBAというと頭デッカチというイメージが一人歩きしがちですが、このケースプロジェクトは知識の獲得に加えて、行動や実践のスキルを養うことに主眼を置いています。

今年度のテーマにはREINVENTION、直訳するなら「再発見」を選びました。これは日本の閉塞状況を前にして、ここに活路があるのではないかと私が漠然と温めていたテーマです。日本企業は(1)長らくINNOVATIONに重きを置いてきたにもかかわらず芳しい結果が出ていないし、(2)基礎研究を強化して INVENTIONに挑戦するだけの時間的猶予も与えられていません。この2点を考慮すると、従来の INVENTIONかINNOVATIONかという2択思考を超越して、新しい視点に立ってみるべきではなかろうかというわけです。

この曖昧模糊としたアイディアを前にして受講者は解釈に苦しんだようですが、これぞ産みの苦しみです。CREATIONを成し遂げようと思えば、避けて通ることはできません。以下では、最終発表会のあとに提出された内省レポートを読み終えた所感を記すことで、最後の締めくくりとしたいと思います。

テーマについては、苦しみ抜いたすえに、見所のある洞察に辿り着いた受講者が5名ほど目にとまりました。特にYさん、Tさん、Nさん。すばらしい到達点だと思います。

出題者として解題しておくと、概念間の対比は次のように整理することができます。まずINPUTサイドから迫っていくと、INVENTIONは新しい原理の考案を必要とします。鯨油を電気に置き換えた白熱灯は、従来の燃焼とは異なる発光原理に支えられており、典型的なINVENTIONと言ってよいでしょう。それに対してINNOVATIONは、既存の要素の新しい組合せがもたらします。照明で言えば、白熱灯の延長線上にあるハロゲンランプやクリプトン球が良い例です。それに対してLED照明は電気をエネルギー源とするものの、白熱灯に代わる発光原理に基づいており、まさに二度目のINVENTIONになっています。

次にOUTPUTの視点から見ると、INVENTIONとINNOVATIONはいずれも新たな市場を創造する度合に差が生じます。同じINVENTIONでも白熱灯は主に既存市場の置き換えに終わりましたが、ネオン管は屋外広告の市場を創造するに至りました。同じINNOVATIONでも、クリプトン球は白熱灯を一部置き換えただけに留まりましたが、ハロゲンランプは調理器具用途を生んでいます。この多様性は、REINVENTIONでも同じでしょう。

取り上げるケースとしては、単なる置き換えに留まらないREINVENTIONが絶好の狙いどころでした。それに該当するケースとしては、

  • 北摂チーム:タカラトミーのベイブレード
  • 西国チーム:ヤマト運輸のクール宅急便
  • 西宮チーム:ネスレのネスプレッソ
  • 三宮チーム:アマゾンドットコムのアマゾンドットコム

あたりが特に秀逸な選択であったと思います。

ただし最終発表会の審査で勝ち残ったのは

  • 金賞:京阪チーム(島精機の横編み機)
  • 銀賞:浪速チーム(三洋電機のエネループ)
  • 銀賞:西国チーム(ヤマト運輸のクール宅急便)

という顔ぶれでした。

ベイブレードとアマゾンは、ネタは良くても調理に問題がありました。リサーチを牽引する体制に問題があったのかもしれません。ネスプレッソは、最後のプレゼンテーションで躓きました。惜しい限りです。

それに対して表彰台に上ったチームは、どこも駄目を出す過程でチームが強くなりました。上位を独占したチームが、いずれも出だしで苦労したところばかりというのも興味深い結果です。

受講者と顔合わせをする前に半ばランダムに編成したチームの間で、蓋をあけてみると大きな差がつく様は、見ていて考えさせられるところが多々あります。考えてみると、似通った人材を採用する企業の間で、業績に大きな差がつくのも、同じメカニズムによるのかもしれません。ここで作用するのは間違いなくケースの選択(戦略)と、人と人の間のケミストリー(グループダイナミクス)です。今回は、こうした経営学の大テーマを体感する機会でもありました。受講者の皆さんには、この経験を次のテーマプロジェクト、そして実務に生かしていただければと願うばかりです。

(文責:三品和広)

◆金賞チーム

※金賞チームのインタビューはこちらからご覧ください。

◇銀賞2チーム


※本年度は銀賞が同率2位でしたので、銅賞の受賞はございません。