2023年度ケースプロジェクト発表会
2023年7月29日(土)
2023年のプロジェクト研究発表会が7月29日に行われました。今年度のテーマは、「トヨタのKINTOは、Adobeのサブスクの成功物語をいかに凌ぐか?」です。
Adobeは、昨今のサブスクリプション・ブームの立役者です。2011年にAdobeはサブスクへと販売モデルを切り替え、リーマンショック後の停滞から抜け出していきました。ここでいうサブスクは、顧客が製品やサービスを購入する際に一括課金するのではなく、利用に応じて月々の定額課金などを行うという料金モデルです。日本の自動車メーカーのなかではトヨタが先陣を切り、2019年にサブスクのKINTOを開始しています。
とはいえ、KINTOはAdobeのやり方を、そのまま真似ればよいわけではありません。サブスクと一口にいっても、そこには、企業がどのような利点を享受しようとしているか、顧客にどのような価値を提供しようとしているか、扱う財の特性はどのようなものかなどによって、さまざまなバリエーションが生じます。
車のサブスクであるKINTOは現在、この多種多様なサブスクの可能性のなかから何をどのようにとらえつつあるのでしょうか。そして今後、そこから車の新しい利用形態を、いかに拡大させていけばよいのでしょうか。
自動車産業は今、大変革期を迎えています。人と車の関係は、利用形態だけではなく、電動化、自動運転、ネット常時接続と、さまざまな局面での変化が進行しています。そのなかにあってKINTOは、利用者の増加が年々続く状態にあるとはいえ、国内の自動車利用の全体のなかでは、まだ小さな存在にとどまっています。このKINTOという、芽生えつつあるバリューイノベーションの可能性をいかに評価し、その事業の拡大と社会の革新につなげていくかを構想する。これが今回のケースプロジェクトの課題です。
この難題に、神戸大学MBAの学生たち12チームが、4ヶ月をかけて独自の調査と分析を重ねながら挑みました。なかには議論がまとまらず、意見を戦わせるなかでチームが崩壊しそうになることもあったと聞きます。
そして暑い一日となった7月29日。悪戦苦闘の成果を問われる最後の発表会の日を、MBA生たちは迎えます。
審査にあたる教員たちの目は厳しく、ベンチマークとした事例からの知見が、その先の結論や提言に結びついていないという問題、短期の収益改善の提言は具体的だが、中長期の活動への提言が抽象的な言い回しに終始してしまっているという問題などの指摘を受けるチームもありました。しかし、全体を通して見れば、水準の高い発表が続き、充実した一日となりました。
金賞を獲得したのは「自利利他同事」です。「自利利他同事」は、コマツのKOMTRAXのビジネスモデルをベンチマークに、ディーラーへのインタビュー調査、インターネットでの消費者調査などを重ね、KINTOの課題は、消費者の認知や理解の低さ、ディーラーへの協力不足、そして価格面での魅力の弱さであることを指摘します。その上で、これらの課題を解消していくための施策として、認知と理解の向上のためのプロモーションの強化、ディーラーへの新たなインセンティブの付与、そしてKINTOユーザーの利用車両をカーシェアに活用するサービスの導入などが提言されました。調査の徹底ととともに、提言に至る流れの整理が行き届いていたことが、説得力を高めていたと思います。
銀賞は「池田-宝塚間 集中工事完了」です。このチームは、サブスクでは利用開始後も車の所有者はKINTOであることに着目し、車の品質維持による将来の中古市場での残存価値の向上、バッテリー・リユース市場の開拓、契約期間の走行データの活用などを提言しました。
銅賞は「幻のTKG」です。このチームは、サブスクでは顧客との関係性やディーラーの役割が変化することに着目し、ディーラーの意欲向上、現在は車を所有していない潜在的な顧客層の取り込み、顧客のライフステージに応じた継続的な関係性の構築などを提言しました。
神戸大学MBAが開発し、採用してきたプロジェクト研究は、一方向の知識の伝授ではなく、教員と学生が共同でつくりあげていく学びの方法です。そこで重要となるのは、参加する学生皆さんの前のめりな姿勢と行動です。個々の学生の能力の高さもありますが、その意欲の高さが大切です。今年も神戸大学MBA生たちは元気であり、夏のひとつの達成感を味わうことができました。
(文責:栗木 契)
金賞受賞チーム「自利利他同事」
銀賞受賞チーム「池田-宝塚間 集中工事完了」
銅賞受賞チーム「幻のTKG」