eureka EXPRESS【2026年度07月01日号】
MBA教育の実際
◇2027年度専門職大学院現代経営学演習担当者のご紹介
2027年度専門職大学院現代経営学演習担当者が決定しました。各担当教員より、現在関心のある研究、MBA生に期待すること、現代経営学演習の進め方について紹介いたします。
原田勉 教授
(1) 現在関心のある研究
研究としては、戦略、組織、イノベーションが守備範囲です。現在は認知心理学・脳神経科学的アプローチによって創造性を明らかにすることに関心をもっており、fMRIを使ったデータ解析に取り組んでいます。また、中国思想、特に老子や陽明学を経営学的に解釈することにも関心をもっています。
(2) MBA生に期待すること
新しい知の発見、創造を行うことが本プログラムの目的です。そのためには、一人の力では不十分で、ゼミ生同士の切磋琢磨が必要です。自分の研究だけでなく、他のゼミ生の研究にも関心をもって可能なかぎりアドバイスし合うことが大事だと思っています。そのためには信頼関係が大事です。場合によっては各ゼミ生の「ここだけの話」を交えることになりますし、それがゼミの醍醐味です。しかし、「ここだけの話」ができるのは、そこに守秘義務を守ってもらえるという信頼関係があればこそです。こうした協調的信頼関係を築いていけることを期待しています。
(3) 現代経営学演習の進め方
毎回発表を原則とします。リサーチクエスチョン、研究の方法、仮説、分析、インプリケーションなどについて簡単に報告してもらい、それをもとにゼミ生全員で議論していくかたちをとります。
三矢裕 教授
(1) 現在関心のある研究
両利き経営のためのマネジメントコントロール、パンデミックや震災などクライシス時のマネジメントコントロール、アメーバ経営、企業再生、業績測定における財務・非財務情報の役割、インタンジブルズマネジメント、伝統産業、アクションリサーチ
(2) MBA生に期待すること
せっかくなので、世の中を少しでも良くできるような大義ある研究をしましょう。
納得できる「作品」を残すつもりで全力で走りきって下さい。
しんどいことを楽しく。
(3) 現代経営学演習の進め方
各自の関心でテーマを選んでもらいます(必ずしも管理会計をテーマにする必要はありません)。
自らの仕事の中で重要な課題や、多くの企業でまだ解が得られていないような問題など、現実のビジネスにインパクトのあるテーマを選んでください。
定性的・定量的を問わず、テーマにフィットしたアプローチで実証的な研究を行なってもらいます。
「建白書」の形式ではなく、あくまで「論文」形式ですが、含意パートでは自社への提言、社会問題の解決への示唆など、実務的なインプリケーションについて必ず記述してもらいます。
森村文一 教授
(1) 現在関心のある研究
2つのことに関心があり研究しています。1つ目は,データ分析やAIの利用とマーケティング成果がつながらないのはなぜかということを研究しています。2つ目は,環境配慮型製品に対する態度と行動のギャップ(“それええやん!”と言うけど買わない)はどのように解消できるのかということを研究しています。
ここでは,1つ目の研究関心について紹介したいと思います。この研究の関心ごとは,データ分析やAIを使いこなす組織とそうではない組織の違いです。AIを容易に使うことができるようになった現在においても,マーケティング戦略の策定と実行のためにデータを創る・整える,分析する,可視化するといった個人と組織の能力は必要です。私はこの数年,マーケティングの問題の中でも,企業のデータ収集・分析・事業への活用に関する個人と組織の能力と事業改善・創造プロセスについて研究をしています。加えて,特に近年は,従業員の意思決定スタイルとAIの使い方の関係とマーケティング成果(場合によってはAIの出力に対して従業員が思考せず“仰せのままに!”とただ実行する方が良い群もいる)について研究をしています。
例えばデータの整備・分析・可視化について,分析の中身を知らなくても,クリック&ドラッグなど直感的な操作のみでデータを分析・可視化することができますし,安価で(場合によっては無料で)このようなサービスを利用することができます。また,AIについても同様の状況が整いました。それにも関わらず,多くの企業で“データを事業改善・事業創造に活かすことができていない”“AIを仕事に活かすことができていない”という声を聞きます。データやAIを事業に活かすために,個人(従業員)-チームや部門-企業全体と異なる単位で担うべき役割や,意思決定の段階別に乗り越えるべき問題などを研究しています。
(2) MBA生に期待すること
神戸大学MBAの現代経営学演習(ゼミ)の魅力は,皆さんが抱える実務的課題を理論的に捉え,より本質的で社会的意義のある問いに落とし込こもうとするところにあります。経営学は,100年以上も様々な事業活動を包括的に説明しようとする理論を創ってきました。MBAでは経営学の様々な分野の理論を学びます。それら理論は,組織の中長期的成長の基礎を与えてくれます。ただ目の前の(短期的な)実務的課題の解決を考えることやただ何かのデータを分析することだけを行いたいならばMBAに来る必要はありませんし,MBAに投じる金銭的・非金銭的コストを他に投じた方が幸せです。Research based educationを掲げる神戸大学MBAのゼミという場では,“理論を用いたとしても解くことができない&所属組織の中長期的な(または皆さん自身の)成長に貢献しうる問いとは何か”を徹底的に考えていただきたいです。
問いを定めることと,その問いを解くことは簡単ではなく,多くのインプットが必要である上に,そのインプットが必ずしも皆さんの研究を進めるとは限りません。皆さんの普段のお仕事とは異なる発想が必要になることもあります。そして,研究を進めるプロセスの多くの段階で,皆さんの知識・経験だけでなく,演習に参加する全員の(さらに,他のゼミのMBA生や,調査協力者なども)異なる知識・経験が必要になります。忍耐強く,積極的に,毎回新たな発見があることを楽しみながらゼミに参加することを期待します。ゼミはどのような場なのかということは,過去の神戸大学MBA修了生の声を読んでいただくとイメージし易いです。
(3) 現代経営学演習の進め方
ゼミでは,皆さんが取り組みたい研究テーマについて発表してもらい,ディスカッションを通して以下の点を段階的に達成していきます。所属組織の中長期的な成長に関する意思決定をサポートできるような,例えば“シンプルだが意味のある問いと実務的提案”を提供する修士論文の作成を目指します。なお,皆さんがゼミで研究するテーマは様々で,2025年度入学生のMBAゼミでは,サービスアウトソース,サービタイゼーション,データドリブン組織意思決定プロセス,ゲーミフィケーション,環境配慮行動,組織市民行動,ポートフォリオマネジメント,子会社統合といった研究が進められています。
- 実務的課題,組織の成長,理論を結びつけて考える(主にM1)
ゼミで研究を始める最初のステップとして,皆さんが“これは課題だ”と考えていることを,①その課題を解くことは,所属組織の中長期的成長に貢献するどのような問題を解くことになるのか,②その問題はどのような理論・概念で深堀できそうか,という2つの視点で深く考え直します。①では,その課題が組織にとって重要かどうか,皆さんがMBAで苦労して解くべき課題かどうかを考えます。②では,その課題や課題の解決について理論で説明できる部分とできない部分を知ります。そのためには,主に経営学にはどのような理論・概念が存在しているのかを知る必要があります。経営学の様々な分野=経営戦略,組織管理,マーケティング,消費者行動などの代表的なテキストブック・論文を読み,代表的な理論・概念を幅広く学習しながら,皆さんの課題がどの研究分野のどの理論・概念を用いて深掘りできるかを探ります。 - 問いをたてる(主にM1,場合によってはM2の4-5月ごろまでかかる)
皆さんの課題は“理論的にはどう説明ができるのか”ということを考えます。次に,(理論的に考えるとこうなのだけれども)“なぜ○○○なのか?”や“どのように○○○なのか?”などのような,皆さんが修士論文で“解かなければならない問題=問い”を立てます。問いは簡単に立てられるものではなく,関連する先行研究をたくさん読み,皆さんの課題と理論を何度も往復しながら修士論文で解くべき問いを探し求めます。 - 方法論の決定,データ分析・解釈,修士論文の作成(M2)
皆さんの問いに合わせて,研究方法(定性的な方法,定量的な方法)を選択し,調査設計を行います。研究方法の基本的な知識や実践方法はケースプロジェクトやテーマプロジェクト,統計的解析応用研究,サーベイリサーチなどで修得しますが,実際に皆さんが調査を設計・実行する際にこれらの講義だけでは知識が不足することが多々あります。そこで,必要に応じてゼミ内ミニ講義や書籍・論文紹介を通して研究方法について学びます。そして,データを分析し,得られた結果から,問いに対してどのような解を得たのかということや,企業成長のために何を提案できるかということを考えます。論文の書き方も,この段階で学びます。 - 修士論文を書き上げる(M2の7-8月)
論文の形式と構造に従って,頑張って修士論文を書きあげます。
江夏幾多郎 教授
(1) 現在関心のある研究
人事制度(人事に関する規則・ルール)が,組織やそこに属するメンバーの目標の形成や達成をどう触発したり,阻んだりするのかについて,長らく関心を持ってきました。元来,ある目標のために人事制度は作られるものですが,様々な要因によって,その意図は頓挫することが少なくありません。そうならないような人事制度のあり方,更には人事制度に対する組織やメンバーの臨み方について,研究や,実務家との共同作業をしてきました。
それとは別に,日本の人事管理のあり方について,歴史的な検討を重ねてきました。これまで,過去数十年の実務誌や学術誌,さらには現在の実務家や研究者を対象としたアンケートをもとに,書籍や論文を刊行し,実務家向けのイベントで講演をしてきました。今後は,平成期の人事管理を作ってきたキーパーソンに聞き取りを重ねて,「日本の産業界は何を成し遂げたのか。成し遂げ損ねたのか」をまとめ,未来の人事管理の実務や研究が「過去から学び,前に進む」ことを支援したいです。
(2) MBA生に期待すること
ロボット研究者の金出武雄先生が,創造的な活動に必須のこととして,「素人発想,玄人実行」ということをおっしゃっています。神戸大学MBAで研究に従事する時にも,これは重要です。
皆さんにとって研究の世界は驚きの連続だと思います。確かに,研究の結論を導き出すための文献レビューや調査・分析の道筋については,研究者のやり方を学ぶべきだと思います。しかし,結論=出口の対極,研究の入口にある,研究動機や問題意識,「何が,なぜ問われるべきなのか」においては,皆さんの実務経験に根ざした切実な想いに,忠実にあってほしいです。研究の着想の段階では,研究者=玄人の真似事をするのではなく,皆さんの切実さを教員や同期生にも伝わるような言葉を生み出すことに執着してください。
(3) 現代経営学演習の進め方
演習は,M1の時点では,補講日も使いながら,ほぼ月に1度,大学内で丸一日行います。M2の時点では,ほぼ毎週,大学内で半日(午後)に行います。
演習では,各ゼミ生の修士論文をブラッシュアップするためのやり取りを行います。ゼミ生には,人事管理やそれに近しいテーマについての,研究計画,進捗状況,悩みなどについて,毎回報告してもらいます。それに対し,私,演習の運営を手伝ってくれる数名の若手研究者,そして他のゼミ生が,フィードバックコメントを行います。自分の関心とは異なる他のゼミ生の研究について質問やコメントをすることは楽ではないですが,それは確実に「研究脳」を鍛え,自分の研究にもいい影響を及ぼします。情報をもらうだけでなく,発信することにも,貪欲になってください。
こうしたコミュニケーションを通じ,各ゼミ生が,問題意識の明確化,関連する理論や調査方法の習得,先行研究や自分のデータについての行き届いた解釈,を達成することを目指します。近年は社会人大学院生が修士論文等をもとに,学会で口頭報告をしたり,論文掲載をしたりするケースが増えています。こういうものに触れることは,ゼミ生が研究のゴールイメージを持つことにつながるでしょう。
演習以外の場での交流・意見交換も,適宜行います。合宿形式での演習も1度は行う予定です。
原泰史 教授
(1) 現在関心のある研究
私の主な研究領域は、イノベーション・マネジメント、技術経営(MOT)、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。これらを特許データや論文データの解析、計量経済学的手法、さらには大規模言語モデル(LLM)を用いたテキスト埋め込みモデルなどを用いて分析することが主な研究です。一方で、シュンペーター経済学の観点から資本主義システムに関する研究についても行っています。
こう書くと、私はデータサイエンスのひとに思われるかもしれません。しかし、私の本当の関心は「データそのもの」にはありません。私たちが日々、仕事や生活の中で感じる「日常のツッコミどころ」にこそ、研究の最高の素材が眠っていると考えています。
たとえば、「これだけ生成AIが大事だとソーシャルメディアやマスメディアでは取り上げられているのに、今こうして居るこの会社の机では、なぜ相変わらずExcelやWordで仕事をしているのだろう?なぜ電話で問い合わせをするのだろう?」などといった等身大の違和感です。
様々なデータ分析手法と、現場の生々しいケース(事例)をどのように接続すれば、実務における「問い」を解き明かせるのか、その最適なリサーチ・デザインのあり方を日々追究しています。
(2) MBA生に期待すること
私のゼミに来られる皆さんには、以下の3つの姿勢を期待します。
- 「壮大なテーマ」より「等身大の違和感」を
「世界の問題を解決するような高尚な問題意識」を最初から掲げる必要はありません。あるいは、「会社の窮地を救う最高で最強の一手」も、実は無いのだと思います(そういうことを言うと、大学の先生って本が売れたり講演に呼ばれたりするんですが!)。皆さん自身が日々ビジネスの現場で「なぜ?」「どうして?」とモヤモヤしている日々のツッコミどころを、そのまま研究の種(リサーチ・クエスチョンの素)として持ってきてください。そうした研究の種を、経営理論や分析手法を組み合わせることで少しずつ精緻な問いに昇華するのがゼミの役割なのだと考えています。 - 「レポート」ではなく、11ヶ月の「プロジェクト」として挑む
MBA論文を「提出間際に徹夜で文字数を埋める長めのレポート」として捉えないでください。論文執筆とは、約11ヶ月という限られた期間の中で、自ら問いを設定し、検証可能なデータを集めて分析し、他者が納得するドキュメントにまとめる「中期プロジェクト」です。ここで培われるプロジェクトマネジメント能力や要件定義能力は、まさに会社という組織で生涯使うことになる、「ポータブルスキル」になります。 - データもケースも、最適な武器を柔軟に選ぶ
「定量分析が正しく、ケース調査(定性)が劣っている」というわけではありません。大切なのは、あなたの解きたい問いに最も適合する「リサーチ・デザイン」を設計することです。大規模データ(特許データや企業データなど)の解析が効く局面もあれば、1社のキーパーソンへの深いインタビューが必要な局面もあります。手法に縛られず、問いに対して誠実であってください。
(3) 現代経営学演習の進め方
ゼミとは教員と学生の1対1の場ではなく、少人数の「企画会議」です。全員参加でのディスカッションを何よりも重視します。
- マイルストーンに沿ったプロジェクト管理を行います
行き当たりばったりの迷走を防ぐため、ガントチャート等を用いてスケジュールを計画的に管理します。M1期の4回の演習を通じて、「問題意識の棚卸し」「先行研究レビュー」「データの特定」「リサーチ・デザインの確定」というマイルストーンを確実にクリアしていきます。また、早稲田ビジネススクールなど国内MBAとの交流も行う予定です。 - テクノロジー(Python, R, LLM等)の積極的な活用
このゼミはイノベーションとMOTのゼミです。そのため、文献サーベイの効率化やデータの初期分析において、Gemini/ChatGPT等の大規模言語モデル(LLM)や、Python/R を用いた自動化を「頼れる相棒」として使いこなす方法を共有します。人間しかできない(あるいは、まだAIに対して比較優位を有しているはずの)「問いの設計」と「実務的解釈」に集中できる環境を整えます。 - お互いの「ツッコミ」を集合知にする
他人の報告を自分事として捉えるようにしてください。多様なバックグラウンドを持つ仲間同士で真剣に、かつ楽しくコメントし合います。自分の担当領域以外の研究にも関心を持ち、積極的にゼミに貢献できるチームプレイヤーであることを求めます。そのため、合宿や懇親会なども積極的に開催予定です。
皆さんが実務で抱えた「熱いモヤモヤ」を、学術という「冷めたレンズ」に通し、再び「月曜日の朝に役立つ確かな経営の知見」へと昇華させる―そんなエキサイティングなプロジェクトを、一緒に走り抜きましょう。