堀上明 さん
株式会社インテック勤務 2007年度入学生 原田ゼミ
1.3度目の正直で合格
「あなたの研究テーマは、経営学の全ての分野を含んだようなテーマですが」これが、2005年1月29日、1年目の受験の口頭試験で、最初に投げかけられた言葉でした。この瞬間、「これは厳しい口頭試験になる」ことを覚悟しました。予想通り「それはどんな論文になるのですか?」「あなたのテーマの参考になる文献はあるのですか?」「それは本当に参考になりますか?」わずか10分間の口頭試験で、次々と厳しい質問が繰り出され、最後まで自己のペースを取り戻すことができずに終わりました。2月10日合格発表の日、案の定、私の受験番号はありませんでした。
統計をとった訳ではありませんが、入学した同期生に聞いてみると、一回目の挑戦で合格した人が多いようです。しかし、私は3回目の挑戦で、今年ようやく神戸大学のMBAに合格することができました。一般的に、成功事例よりも失敗事例のほうが、参考になるといいます。私は人より受験した回数が多い分、これから受験する人にとって、有用な情報を提供できるのではないかと思い、「合格への道」を執筆させていただくことにしました。
これから述べさせていただくことは、自己の経験に基づく私見にすぎませんが、神戸大学MBAを目指す人たちにとって、少しでも参考になれば幸いです。
(1)一年目の挑戦
一年目の受験の敗因は、冒頭の口頭試験の様子にもある通り、業務上の問題と研究テーマとの関連を整理しないままに、受験に臨んだことにあると分析しています。当時の研究計画書を今読み返してみると、問題意識は明確にしているものの「神戸大学のMBAに入りたい」という思いが先行し、大学院で何をどのように研究するのか、研究成果をどのように実務に生かしていくのかが、明確にできていませんでした。口頭試験では、そこを質問されたのだと思うのですが、結局満足に回答することができませんでした。これでは不合格になっても仕方がないと思います。
(2)必勝を期した二年目の受験
一年目の反省から二年目の受験は念入りに準備しました。自分が実務で抱えている問題は何かをもう一度整理し、研究テーマを設定しなおしました。文献や論文も、できるだけ多く読んで、研究テーマ設定の参考にしました。また、別の大学のMBAに通っている知人に研究計画書を何度も添削していただきました。この時の研究計画書は、今読んでみても、おかしな内容は見あたらないように思います。口頭試験でも、それなりの手応えがありました。この年から定員が54名から69名に増えたこともあり、なんとか合格できるのではないかと思っていました。しかし、2006年2月13日合格発表の日、掲示板に、またしても自分の受験番号はなかったのです。
(3)敗因分析
三年目の挑戦をするにあたり、敗因分析をしましたが、なぜ不合格になったのか、まったく見当がつきませんでした。研究計画書は自分としては満足する仕上がりで、口頭試験も問題なく対応できたと考えていたからです。強いて言えば、口頭試験で「何が問題なのですか?」としきりに聞かれたことと、私の業務で発生する諸問題は、人が原因で起こるのか、組織・マネジメントの仕組みが問題なのかについて、試験官と意見が合わなかったことが、少し気にかかるぐらいでしょうか。でもそれだけで不合格になったとは、とても考えられなかったのです。
(4)三度目の正直
二年目の不合格原因に見当がつかない以上、三年目の準備は一からやりなおすこととなりました。自己の業務で「問題は何か」「それを大学院でどのように研究するのか」「研究成果をどう生かすのか」何度も自分に問いかけて研究計画書を書きました。二年目に添削をお願いした知人にも、相当厳しく見ていただきました。なかなか納得のいく研究計画書ができなかったのですが、出願する一週間前に研究テーマを再度見直して一から書き直し、ようやく仕上がったのでした。
三年目も筆記試験は無事合格し、迎えた口頭試験では、相変わらず厳しい質問の連続でした。しかし、普段の業務で考えていることをベースに回答しているうち、試験官から助け船が出るなど、これまでの2回の受験に比べると、風向きのよい口頭試験でした。そして2007年2月13日合格発表の日、ようやく自分の受験番号を確認することができたのです。
2.試験対策
MBAのホームページにある過去の入学生の情報を見ていただければわかるのですが、筆記試験の合格率は毎年80%ぐらいあります。また、募集要項によると、第一次選考は筆記試験と書類審査で行われるとあります。書類というのは研究計画書を指していると思われます。つまり、研究計画書がしっかり書けていれば、筆記試験でよほどひどい点数をとらない限り第一次選考は合格できる、と推定できます。
(1)研究計画書
研究計画書は、もっとも重要であると思われます。第一次選考の審査対象であり、口頭試験でも研究計画書に書かれた内容を中心に質問がされます。どのように書けばよい、という答えがあるわけではないのですが、自己の業務における問題意識を、どのように研究計画書としてまとめるかが勝負になると思います。
作成した研究計画書は、できれば第三者に読んでもらったほうがよいと思います。身近に神戸大学MBAの受験経験者がいれば、それに越したことはありませんが、MBAのことをあまり知らない人でも、スムーズに無理なく読むことができるか、設問に沿った内容になっているかなど、客観的に評価してもらうだけでも意味があります。私の場合、研究計画の内容の評価については、先に述べた現役MBA生であった知人に、客観的な評価は家族にしてもらいました。なお、参考文献があれば、研究計画書に書いておいたほうがよいと思います。ただ、同期の中には、一冊も参考文献を書かなかった人もいますので、必須ではないようです。
(2)英語
本試験では、とにかく時間が足りません。辞書持ち込み可となっていますが、わからない単語が出てくる度に、辞書を引いていたのではとても間に合いません。多少わからない単語が出てきても、文脈からおおよその意味を、読み取れるようにしておいたほうがよいと思います。私の場合は、参考図書のところで書いた本を読んで、経営学に関するテーマを扱った英文に慣れておくように心がけました。
(3)小論文
本試験の小論文は、比較的時間に余裕があります。つまり書く量としてはそんなに多くない、ということです。出題されたテーマに対して受験生がどのような見解を持っているかを問われるのではなく、少ない量で、論理的な文章が書けるかどうかを問われているのではないかと思われます。これも下にあげた参考図書に書かれていたのですが、最初に結論を書いて自分の立場を明確にしておいた上で、後から理由を説明していく、という流れで文章を書くように心がければよいのではないかと思います。
(4)口頭試験
口頭試験は、研究計画書に次いで重要です。第一次選考の合格率約80%に対し、口頭試験の合格率は50%程度です。10分程度の短い時間の中で、相当内容の濃い質問がなされます。研究計画書がきちんと書けていても口頭試験の結果次第では不合格になり、逆に、研究計画書の表現が多少曖昧でも、口頭試験できちんと回答ができれば合格できるのではないかと思うぐらい、重要であると考えています。研究計画書に書いた内容だけでなく、字数の制約などから記述を省略した背景や前提事項なども含めて、きちんと整理して回答できるようにしておくことが重要であると思います。
3.合格の秘訣
「合格の秘訣」は、残念ながら今でもよくわかりません。ただひとつ言えることは、大学院で一体何をしたいのか、ということが重要であるということです。入学したら、平日は仕事で疲れていても机に向かう必要がありますし、週末は授業があります。グループワークもあります。睡眠時間も確実に減ります。そこまでして、なぜ今さら大学院に通うのか、そこにどんな価値を見いだすのかは、受験生ひとりひとりの問題です。そこをきちんと整理できれば、合格に近づくのではないかと思います。
4.参考図書など
(1)過去の試験問題
過去の試験問題は、大学生協のコピーサービスで入手することができます。
(2)神戸大学MBAの試験情報全般
神戸大学MBAのホームページをすみからすみまでチェックしてください。入試情報はもちろん、入学してからの様子など、いろいろな情報が提供されています。
(3)研究計画書
- 妹尾堅一郎(1999)「研究計画書の考え方 大学院を目指す人のために」ダイヤモンド社
MBAに特化したものではありませんが、大学院での研究の考え方や、研究計画書の事例などがあり、とても参考になります。 - 飯野一、佐々木信吾(2003)「国内MBA研究計画書の書き方 大学院別対策と合格実例集」中央経済社
今となっては情報が少し古いですが、MBA大学院別に研究計画書の事例があり、神戸大学MBAも掲載されています。 - 飯野一(2005)「国内MBA無敵の合格戦略」中央経済社
こちらもMBA大学院別に、研究計画書の事例と口頭試験の例があります。こちらの方が、情報としては新しいです。小論文対策も書かれており、非常に参考になります。
(4)リサーチ方法関連
リサーチの方法は、受験段階では必ずしも必須の知識ではないかも知れませんが、研究計画書
を書く上で、量的アプローチや質的アプローチがあることを概要だけでも知っておいたほうがよ
いのではないかと思います。
- 高根正昭(1979)「創造の方法学」講談社現代新書
- 古谷野亘(1988)「数学が苦手な人のための多変量解析ガイド」川島書店
(5)英語対策
- グローバルタスクフォース(2005)「MBA速読英語」大和書房
MBAの基礎知識を英語と日本語で解説した本です。経営学に関する英文に慣れる訓練をするにはちょうどよいと思います。 - 日経ビジネスの英文サイト
(6)経営学全般
- 伊丹敬之、加護野忠男(2003)「ゼミナール経営学入門」日本経済新聞社
経営学の基礎知識の修得と、研究計画書を書く際の研究テーマの参考にしました。
(7)研究テーマに関するもの
上記以外で、自分の研究テーマに関する書籍や論文は何冊も読みました。論文関係では、国立情報学研究所の電子図書館サービスを活用し、自分の研究テーマに関係ありそうな論文を探しました。論文の本文がPDFで掲載されている場合もあり、かなり重宝しました。
5.最後に
学生生活の四年間を神戸大学で過ごした私は、今再び神戸大学で学べることに大きな喜びを感じています。毎週のように出される課題は入学前の想像を超え、はるかにハードで尋常な量ではありません。しかし、神大正門前のバス停を降りて正門をくぐり、正面の石の階段を一段一段登るごとに次第に見えてくる、昔と変わらぬ六甲台本館に向かって歩いていくと、懐かしい思いとともに、さあやるぞ!という気持ちが沸いてきます。みなさんのご健闘をお祈りします。