2013年度加護野論文賞 最終審査結果

第六回加護野忠男論文賞選考結果について

受賞論文
審査委員

甲南大学特別客員教授 加護野忠男氏
流通科学大学 学長 石井淳蔵氏
株式会社 碩学舎 代表取締役 大西潔氏
KCCSマネジメントコンサルティング株式会社 代表取締役会長 森田直行氏
神戸大学大学院経営学研究科スタッフ

講評

3つとも素晴らしい論文だったのですが、まず金賞に関しては、全員の意見が一致しました。金賞の論文は、輸送機器メーカーの新製品開発のプロセスを深く分析したもので、新しい今までとは違う素材を利用するための開発プロセスでは、Tier1という直接のサプライヤーよりもTier2、3という間接的なサプライヤーが参加することが必要であったということを詳しく書かれたもので、今までの延長上のものではない開発をするためには何が必要かということを、かなり詳しく調査されたもので、ご自身の実務上にも意義のある非常に素晴らしい論文だと思います。おめでとうございます。

銀賞と銅賞は実際にどちらも優れた論文であり、どちらも共に弱点があるということで、議論をしました。それぞれの論文についてコメントしたいと思います。金賞と同様、銀賞も製品開発プロセスについてのケーススタディです。日本の企業のイノベーションや変革というのはミドルから起こしていくのか、トップ主導で起こるのかということについて、学者の間にかなりの議論があり、未だに答えが出ていませんし、両方がありえます。この論文では、ある電機メーカーの戦略製品の開発のプロセスにおいて、ミドルたちが実際にやろうとしていたことと、会社のトップがやったこととの間にかなりギャップがあるという点を上手に描いておられます。しかしながら、この論文では、トップ主導とミドル主導とでは本当にどちらがいいのか、会社のトップ並びにミドルはどう行動すべきかということについて、もう少し突っ込んで教えていただけたらこの論文はもの凄く良い論文になったのではないかと思います。「ダメだ」ということは簡単です。「ダメ」なものをどう良くしていくかについてもう少し突っ込んで考えてほしかったという感想を持ちました。

銅賞になりましたのは、医薬品の研究開発のプロジェクトマネジャーの役割に関する研究です。プロジェクトマネージャーは、一体どういう仕事をしているのだろうか、どういうことが課題になるのかを追及した研究であり、もしこれがアカデミックなマスターコースの学生が書いた論文であれば、パーフェクトな論文として評価されたでしょう。しかし、MBAらしさをもう少し出してほしかったです。MBAの統計学の授業で得津先生が言ったと思いますが、世の中には、3つの嘘があります。「普通の嘘」と「真っ赤な嘘」と「統計」という嘘です。回答を出すにあたって統計に頼ってしまったというのはちょっと損をしたかなという感じです。 本当は統計に頼らなくても私の実務経験からこうだ、ということを言った方が面白かったのではないかと思います。実際に医薬の開発には独特の難しさがあります。電気メーカーの例でいうと、テレビの開発をしているうちに冷蔵庫ができてしまった、というような類の開発です。バイアグラでもそうですし、他の商品でも元々他の薬の開発をしていたのだけれども、意外な効果が見つかったということもあり、こういう探索レベルでのそのプロジェクトリーダーの役割は、ずっとテレビの開発を続けるのか、冷蔵庫に切り替えるのかというかなり思い切ったジャッジも必要です。そのようなプロジェクトリーダーは、どういう仕事をすべきかについてもっと突込んだ議論をしても面白かったのではないかと思います。

いずれにしても、3つの論文は共に優れた論文でした。本日、入学されたみなさんには、こういう論文を一年半経った後には書いて頂きたい。時々二年かかる人もいますし、希にはもっとかかる人もいます。折角なので長く在学するのも一つの戦略として面白いのではないかと思います。若いときの一年はそれほど長くないと思いますから、テーマとして面白いと思うところに突き当たったらそれをもっと深く考え、時間をかけて考え抜いた論文をぜひ書いて頂きたいと思います。期待しています。

文責:加護野忠男

 

 

 

受賞おめでとうございます!

 

2013年度第一次・第二次選考結果はこちらからご覧下さい。