江尻 浩隆 さん
神戸大学医学部附属病院形成外科勤務 2015年度入学生 松尾貴巳ゼミ
はじめに
はじめまして!神戸大学医学部附属病院 形成外科の江尻浩隆と申します。「なぜ医者がMBAを?」とよく質問されますので最初にお答えしておきますと、祖父の代から始まり、現在父が経営している病院(城陽江尻病院といい、JR姫路駅の南にあります)を将来引き継ぐ予定であることが理由のひとつです。また、受験前にMBAについて調べた際、MBA学習というものは、経営を担う担わないに関わらず、仕事をしていく上で大いに有用であろうと感じたことも挙げられます。そしてこれは、神戸大学MBAコースで学習中の現在、より強く感じています。アメリカの医師はMBAホルダーが多いと聞きますし、現在日本の病院は7割が赤字と言われていますので、「なぜ日本の医者はもっとMBAをとらないの?」と言われる時代が来るのではないかと思っています。
さて、神戸大学MBAコースで学んでみたいと思ったものの、試験があり、そのハードルは高いとのこと。一体どうすればいいんだろうと思ったとき、この「合格への道」に出会いました。情報がほとんどない中、「合格への道」は私にとって希望の光でした。先輩方の具体的なアドバイスが満載で、大いに助けられたのです。今回、そんな「合格への道」に執筆させていただくということで、大変光栄に感じております。しっかり情報提供させていただき、恩返ししたいと思います。
受験勉強開始時の状態
お読みいただく方それぞれにとって、私の情報がどのように役に立つのかという目安を作っていただくため、受験勉強開始時の私の状態について述べておきたいと思います。
まず英語ですが、大学受験以降熱心に勉強したことがなく、普段は英語の医学論文を読む程度で、そのスピードはお世辞にも速いとは言えませんでした。当然、ビジネス英語にはまったく触れたことがありませんでした。次に小論文ですが、書くこと自体に苦手意識はありませんでした。論文執筆など、普段から作文する機会があったからかもしれません。ただ、早く書く自信はありませんでした。また、必要と思われるビジネス・経済・経営に関する知識が乏しいため、MBAの試験では何も思いつかない不安がありました。最後は面接についてですが、学会発表を何度も経験していたことから、緊張しない自信はありました。しかしながら、小論文同様、知識不足が否めなかったため、知識を補う必要があると感じていました。
提出書類
では受験準備について述べていきたいと思います。最初は提出書類です。これで落とされるということはないように思いますが、過去の「合格への道」や同級生の話から推測するに、面接は提出書類、特に研究計画書をベースに行われることが多いです。私自身、研究計画書の内容についてしか質問されませんでした。よって提出書類は、少なくとも面接での質疑を想定して準備すべきです。私は、提出書類および面接は筆記試験が出来なかった場合の挽回材料になると考え、十分に推敲しました。
神戸大学MBA学生募集要項に、MBAコースの目的と求める学生像が記されています。提出書類、特に経歴詳細説明書や志望動機などを書くにあたって、自分の目的が神戸大学MBAコースの目的に合致しているか、求められている学生像に相応しいかについて留意しました。嘘を書くのはよくないですが、アピール出来ることはしっかり盛り込むべきでしょう。また、過去の「合格への道」には「経歴詳細説明書や志望動機は、研究計画書に書く研究テーマとリンクさせるのが望ましい」という意見があり、私はなるべくリンクさせるようにしました。複数の同級生の話からは必ずしもリンクさせなくてよいと感じていますが、神戸大学MBAコースでは研究が重視されていますので、「こういう経歴であり、こういう志望動機であるから、単なるMBA学習だけでなく、こういう研究もしたい。だから研究が出来る神戸大学に入りたい」という流れがあるほうが、提出書類全体の説得力が上がるように思います。
研究計画書を書くにあたって留意すべきことを挙げていきます。まず、仕事において自分が本当に困っていたり、真剣に問題だと感じていることに根ざした題材を選ぶことです。そのほうが自然と研究計画書を書くモチベーションが上がり、熱のこもった説得力のあるものに仕上がりやすいのではないかと思います。面接でもそのパッションが伝わると思います。そして、その題材を研究テーマに落としこむにあたって、実務に対して有意義かつインパクトのあるものにすることも大事です。ちなみに、入学後、研究計画書に書いた研究を行って修士論文を書かなければならないということはありません。入学後は研究のイロハを教えていただきながら研究内容を練り直すこととなり、たとえ研究計画書に書いた題材で研究を行うとしても、内容はがらっと変わることになると思います。題材そのものを変えることも問題ありません。入学後のことは気にせずに書いてください。さらに重要なことは、選んだ題材に関する文献を少なくともひとつは読んでおくことです。研究はなにかしらの理論の周囲で行うことが求められます。「自分が研究しようとしていることは完全にオリジナルの分野であり、理論なんて存在しない」という主張はまず認めてもらえません。たとえ新しい理論を唱えるとしても、それまでの理論について言及しなければなりません。過去の理論を知るには、文献を読むしかありません。文献を読み、過去の理論を学び、それを交えて研究計画書を書くことで、説得力が増します。また、すでに研究されてしまっていることを除外する意味もあります。ちなみに私はモチベーションを題材としていたので、「モチベーション3.0」(ダニエル・ピンク,2010)という本などを読んでから書きました。モチベーションに関する過去のさまざまな実証研究を引用しながら著者のモチベーション論が語られている本で、とても参考になりました。最後に挙げるのは、とことん具体的に考えることです。たとえば、具体的に誰を対象に行うのか、その人は本当に調査を了承してくれるのか、どのような方法で行うのか、アンケートなのかインタビューなのか実験なのか過去のデータ検証なのか、統計処理をするのか、どれぐらいの期間かかるのか、入学中にちゃんと終わるのか、などです。面接では具体的に詰められていないことについて突っ込まれると思っていたほうがいいです。
少々ハードルが高く感じられるかもしれませんが、入学後に教わったことも盛り込んだアドバイスですので、あくまで努力目標と思っていただければと思います。おそらく受験時の研究計画書で問われているのは「入学への熱意」と「研究するための思考能力」だと思います。このふたつを備えていることがアピール出来ればいいのではないでしょうか。
英語
次は英語についてです。まず一番最初にすること、それは過去問を取り寄せることです。そして、一年分を本番と同じ条件、すなわち60分間、英和辞書1冊を用いて解いてみるのがいいと思います。私はこれを行うことで感触がつかめました。このままではまずいという感触を!そこで過去問を分析し、受験に向けて自分がどのような勉強をしていくべきか、また、効率良く解くにはどうすればよいかを考えました。この効率良く解く方法は、各々の最終的な英語力によって変わってくると思います。たとえば私の場合、当初は「時間がなくなってしまうので、辞書はなるべくひかないようにすべし」と考えておりましたが、最終的には単語力が増えたため辞書をひく頻度が減り、むしろ「正確に内容を把握できるよう、分からない単語、不安な単語はすぐに辞書をひく」という結論に至りました。
過去問分析の結果を踏まえて、英語力の補充を行いました。「辞書をひきながら時間をかければなんとか解ける・・でも時間が足りない」という状態でしたので、辞書をあまりひかずに済むよう単語力を上げることと、速読力をつけることが課題でした。そこで私が行ったのは、「速読速聴・英単語 Daily 1500 ver.2」(松本茂,2010)と「MBA速読英語」(グローバルタスクフォース,2005)を徹底的に勉強することでした。前者は数年前に購入しほったらかしにしていたもので、基本的な英単語をおさらいする目的で採用しました。後者は過去の「合格への道」でよく薦められているもので、ビジネス英語によく登場する英単語が収録されています。実際、この本で学んだ単語が過去問や試験問題によく出ていました。受験までにこの2冊を4周ほどし、ほぼマスターしたと言えるようにしました(受験後すごい勢いで抜けていきましたが)。私はこの2冊で乗り切りましたし、試験の手応えも良かったのですが、より上を目指す人へのオススメとして「速読速聴・英単語 Core 1900 ver.4」(松本茂,2011)と「速読速聴・英単語 Business 1200」(松本茂,2008)の組み合わせも挙げておきます。Daily 1500の英単語はほぼすべてCore 1900に含まれていますし、Daily 1500はおそらく多くの人にとってぬるいと思います。英語が苦手という人でもCore 1900のほうでいいと思います。MBA速読英語はかなり間違いが多く、収録英単語も少ないのが欠点です。勉強時間をしっかり確保できそうな人や英語が得意な人は、MBA速読英語よりもBusiness 1200のほうが良い勉強になると思います。そして、これら4冊の良いところは、単語集だけではなく、英文が掲載されていることです。Daily 1500とMBA速読英語の2周目以降は、この英文の速読も心がけたことで、英単語の復習だけでなく読むスピードを上げるトレーニングにもなりました。
上記勉強を行った結果、上述のように英文を読む際の辞書をひく頻度が減り、読む速度の向上が図られました。試験の手応えも良く、試験時間は10分以上余り、特に不安のある解答はありませんでした。良い勉強法だったと感じています。また、後述する日経メールマガジンによる学習の好影響もありました。
小論文
小論文もまずは過去問を分析することが大事です。注意点として、毎年、学生募集要項には「時事問題小論文(日本語500字程度)」と書かれているにも関わらず、大幅に問題形式が異なることがあります。私の分析では、むしろ500字程度でまとめる時事問題小論文試験であったことはほとんどないという結論です。まず字数ですが、600字だったり800字だったりします。過去の「合格への道」によると、100字や200字のこともあったそうです。さらに、「程度」とあるため字数オーバーしてもいいかと思いきや、試験用紙のマス目は字数ピッタリしかなく、オーバー禁止だったりします。設問が2つ以上あり、小論文ではない記述問題が含まれていることもあります。テーマも時事問題ではないことがあります。必ず過去問を分析してみてください。(注:学生募集要項を作成されている方や、試験問題作成担当の先生を非難する意図はまったくございません!)
私は小論文試験が大学受験以来でしたので、まず易しい小論文対策本を読みました。小論文を書くにあたってのコツやルールを見直すことができ、いい復習になりました。薄いものでいいので、なにか読まれて確認しておくことをお勧めします。本に書かれていたことを参考に、試験時間60分を、構想・メモ書き20分、清書30分、見直し10分と設定し、過去問を使って練習を行いました。
小論文対策で大事なのは、いかに多くのインプットをしておくかということだと思いました。そこで、数年前からの時事ネタを集めることと、メールマガジン「日経ニュースメール」「日経ビジネスオンライン」「日経BizGate」「日経Bizアカデミー」に登録し、毎日送られてくるこれらのメールから自分の知らない経済情報、経営に関するトピックス、ビジネス用語など試験に出るかもしれないと感じた記事タイトルをクリックして内容を読み、試験前に復習出来るよう要点を抽出していきました。
この勉強が有効だったのか、試験本番において構想がすぐ浮かびました。時間の割り振りについても、過去問3回分で練習しておいたおかげで、焦ることなく書き上げることが出来ました。ちなみに、英語の試験において、メールマガジンで勉強しておいたテーマの問題が出題され、大いに助かりました。メールマガジンによる情報収集は今も続けており、さまざまな局面で役立っています。
面接
面接については、過去の「合格への道」から収集した質問事項と、自分の作成した研究計画書を見直して突っ込まれそうなことなどに対して、どう答えるかを完全に文章化し、試験前に復習出来るように準備しました。上述のメールマガジン学習において、「◯◯の人事部が教える面接のコツ」のような記事を読むことができ、そちらも参考になりました。最終的に合計32項目の回答例を作成しておきました。
さて、私が実際に面接で尋ねられた質問事項ですが、「なぜこの研究をしたいのですか」というものから始まり、以降すべて研究内容についてでした。「そのような研究はすでにいくつも行われていますが、どのような点で研究の新規性を出そうと思いますか?」「ベースとなる先行研究にはどのようなものがありましたか?」「統計解析を行うとありますが、具体的にはどのような手法を用いる予定ですか?」などで、面接直後の感想としては、研究を前に進めるための質問を次々と投げかけていただいたという印象でした。正直あまり具体的に答えることが出来ず、もう少し研究内容に関する質疑応答の準備に力を入れておけばよかったと感じましたが、同級生の話によると、志望動機などを尋ねられた方も多いようで、やはり上述の準備はしておいて損はないと思います。
その他
提出書類や試験対策と直接の関係はないのですが、やって良かったと感じていることを述べておきたいと思います。ひとつめは、卒業生や在校生に話を聞くということです。生の声を直接聞くというのはとても良い刺激になりますし、合格後も良い相談相手になってもらえるかもしれません。私はある病院の院長先生とお話させていただいたのですが、いくつもの有難いお言葉をいただき、入学したいという気持ちがより強くなりました。また、合格後も温かいお言葉とともに「大人になってから、自分が求めてする勉強は楽しいものです」と言っていただき、今でも心に大事に留めています。知り合いや周囲に卒業生、在校生がいらっしゃる方は、ぜひ一度お話されてはいかがでしょうか。
また、多くの先輩方が書かれているとおり、前もって職場と家庭の理解を得ておくことが大事です。神戸大学のプログラムを十分に堪能しようとしたら、入学後は上述の受験勉強よりも何倍も大変な日々が続きます。もし、神戸大学MBAコースでしっかりと勉強することがご自身のビジョンを達成するための戦略のひとつであるならば、職場と家庭を説得し、時間を作らせてもらえるようにしておくほうが後悔しないと思います。
おわりに
私の神戸大学MBAコース受験対策について述べさせていただきました。入学を目指される皆さまのためになれば幸いです。めでたく合格されたあとのことについて、ひとつだけアドバイスがあります。その年のカリキュラムによりますが、4月頭の一番最初の講義に対して、いきなりたくさんの予習が求められることがあります。そして、その予習には本を何冊か読んだり映画を観てきてください、というものがあるかもしれません。合格されましたら、4月頭から始まる講義のシラバスがアップされ次第確認されることをお勧めいたします。私はこれに気づくのが遅れ、3月最終週の平均睡眠時間が3時間/日ほどになりました。
さいごに、私のMBA学習生活を支えてくださっている皆さまに感謝の意を表します。入念な準備の上、刺激的で興味深い講義をしてくださる先生方、その講義や我々の学生生活を親切に支えてくださるスタッフの方々、MBA学習生活を理解してくださり温かい目で見守り支えてくださっている職場の皆様、そしてMBA学習生活の苦楽を共にし切磋琢磨しつつ助け合ってくれる熱い同級生のみんな、MBA学習生活のせいで大変な苦労をかけているにも関わらず文句ひとつ言わず支え続けてくれている・・・いや、小爆発の散発程度で済ましてくれている妻と子どもたち。皆様なくして私のMBA学習生活は成り立ちえません。本当に有難うございます。卒業後、必ずやMBA学習生活で得たものをさらに昇華させ、皆様のお役に立つものにしていくことをお約束いたします。