安藝 裕美 さん
マルホ株式会社勤務 2014年度入学生 梶原武久ゼミ
1.受験のきっかけ
受験を考えた理由には大きく二つあります。一つは、経営学的な視点で考える力を修得したいと思ったため、もう一つは、組織に新しい仕組みを作り、実行したいと考えたためです。
私は新卒で国内中小の医療用製薬会社に入社し、10年間R&D部門の研究部に所属していました。もの作りの種を扱う研究現場から、役割が大きく変わる社内異動を経験したのは6年前のことです。現在も所属する製品戦略部の中に、経営視点からもの作りに関わるグループが発足し、そのメンバーの一員となりました。
医薬品は医療への貢献形態の一つです。医師、コメディカル、患者に使われることで健康へ貢献します。同時に、医薬品は製薬会社が製造・販売する製品であり、製品価値がなければ売れません。競合品と明確に棲み分けできる価値を生み出さなければならないのです。新しいグループでは、短・中・長期的な製品戦略を立案しました。深い専門知識に加え、俯瞰的な視野と環境変化を先取りする先見性、すなわち、「目利き力」が重要となります。薬学部出身で研究畑しか歩いてこなかった私が、部署異動により経営視点でもの作りを考えなければならなくなったとき、自分の視野が一企業人としていかに狭いものであり、当然持つべき知識が欠落していることを実感しました。経営視点で考えるには、専門知識だけではなく、財務やマーケティング、製造、流通の視点が必要になります。10年や15年は優にかかる医薬品開発のR&D部門では、自分の専門性や得意分野を深く掘り下げればよく、およそ「数字」や「時間」には意識が低いのです。
その後、4年足らずでグループは解散することになります。しかしながら、その「失敗」の検証がなされておらず、問題点や課題がどこにあったのかを見落とすことなく学習した上で、次の打ち手が取られているのかが明確ではありませんでした。
そこで、「もの作り」の仕組みを経営学的な理論と手法を活用しながら捉え直したいと考えました。また、自分が抱えている問題は、思考や視点、業種が異なれば問題ではないかもしれない、順調に見えていたところに見落としている問題があるかもしれない、多くの他業種の人材と議論することにより、医薬品業界に止まらない経営手法から打開できる策が講じられる可能性があるのではないかと考えるようになりました。そして、浮かんのがMBAで学ぶということでした。弊社には海外MBAの留学制度があります。しかし、海外要員を作るためのようなものであり、さらに、フルタイムコースのため1年半から2年は業務から離れることになります。私は経営学や経済学に対しては初心者でしたので母国語でしっかり学びたいと考え、また、主婦でもありますので、働きながら学ぶ社会人MBA以外は考えませんでした。
2.神戸大学MBAを志望した理由
自宅からの通学圏内にはいくつか社会人MBAを扱う大学院がありました。私が受験に思い至ったのは10月に入ろうとしていた頃で、翌年春に入学するにはあまり時間が残されていませんでした。ちょうど関西の大学院が一堂に会して行う説明会がありましたので、それに参加し、各大学院の特徴を知ることができました。
社会人MBAコースといっても大学院によってカラーが異なります。そこで、各大学院の公開講座にも参加しました。中にはビジネス本をそのまま授業に使用するところもあります。受験者数も多く合格率も非常に高いマンモス校なのですが、ビジネス本なら読めば自習できてしまいます。また、教科書的な体系学習は理解した“つもり”になっていることが多く、実務に反映されづらいと思っています。そこで、現在進行形の問題を繰り返し議論することにより、物の見方や考え方を真に修得できると考えて、グループディスカッションや修士論文を重視する学校を選びました。
合格率で考えるならば、神戸大学のMBAが飛び抜けて低いのです。働きながら最短1年半で修了できること、国立大学であるため授業料が抑えられることも受験者にとって魅力の一つなのでしょう。「自分の働くペースでMBAを」という謳い文句で、最長5年や8年まで在学期間を延ばせる大学院もあります。しかし、業務を取り巻く環境は日々変化します。私は修得した知識を現場にタイムリーに還元したいと考えたため、在学期間の点からも神戸大学への志望を固めました。
3.試験対策
推薦図書や文献については、私から勧められるものはなく、この「合格への道」の多くの受験生の声を参考にされるのが良いと思います。それは、受験を思い至ってから出願締め切りまで2ヶ月もなかったため、十分な準備をしたとは言えないからです。私自身は経営学や経済学に知識がなく、だからこそ進学して学ぶのだから、ここで慌てて経営学の本や受験本を読み込んでも付け焼き刃にしかならないと考えていました。それよりも、By the Job Learning(働きながら学ぶ)をすることが社会人MBAの真髄だとすれば、これまで自分が社会人として経験してきた知識や考え方こそ重視されるのではないかと考えました。実際、十分に書籍を読み込まなかった私が合格したことを鑑みると、やはり受験本等に頼る必要はないのではないかと思います。
それでも、受験を振り返ってみて、参考になればと思う点を次に挙げておきます。
【研究計画書】
弊社ではマネージャーになるには年1回の認定試験に合格しなければなりません。12月に出願、1月に論文提出、2月にプレゼンテーションがあり、ちょうどマネージャー資格認定試験の受験とMBAの受験が重なっていました。マネージャー資格認定試験の論文とプレゼンでは、「マネージャー職を担うことで成し遂げたいことを、自身の価値観ならびに今までのキャリアを振り返りながら、会社の目指す方向性と併せて論ずること」という課題が与えられており、MBAで研究したいテーマとまさに同じものを取り上げました。社内の試験では、研究計画書よりもはるかに長い論文が要求されていました。そのために、自問自答を繰り返し、自分の中の問題意識や将来達成したいことを徹底的に考える機会を持つことができました。社内の試験準備がそのまま研究計画書を考える上で大いに役立ったのは幸いでした。
神戸大学MBAでは修士論文に重きを置かれます。研究計画書はそのまま自分の修士論文に直結します。ゼミに所属して論文に取り組むことになりますが、ゼミでもプロジェクト方式によるチームプロジェクトやチームディスカッションでも、研究思考であることが求められます。中途半端な課題意識では全く通用しません。深く徹底的に考え抜く力が要求されます。研究計画書の準備には時間を割き、反芻し、相応の覚悟を持って、自分と向き合って作成してください。それは二次試験でも、そして入学後も大いに役立ちます。
【一次試験】
3年間分の過去問を大学生協から取り寄せました。一次試験で受験者が半分程度に絞り込まれたと記憶しています。一次試験は、同じ日に英語と小論文の順で連続して実施されます。これは主観ですが、英語や小論文で大差がつくとは思えませんでしたので、出願時に提出する研究計画書の方が重視されるのではないかと思います。
当日はマンガで解説されたようなMBA入門向けのペラペラな本を鞄に入れて受験に臨みましたが、席に着くと周りは、5、6㎝はあろうかという経営学や英語の書籍を広げて勉強している受験生ばかりで、とても恥ずかしくて絵の描いた薄っぺらな本は出せませんでした。全国から集まる意識の高い受験生に囲まれ、試験開始まではほとんど何も目を通さず、むしろ静かに待っていたように思います。
- 英語
過去問は毎年傾向が異なりました。おそらく出題される先生に依るものではないかと思います。私は業務柄、書類や文献、メールで英文はほぼ毎日目を通す機会があるのですが、経営学の専門用語は読み慣れていませんでしたので、過去問の英文問題の本文には目を通し、知らない英単語を確認しました。経営学や経済学を学んだ方、あるいは経営学の書籍を読まれている方なら当たり前の内容であったのかもしれませんが、私は基礎知識もなかったので、過去問に書かれている内容から経営学の言葉や理論を逆に調べ、理解に努めました。
私が受験した試験は長文でしたが、比較的専門用語が少なく、理論をついたものではなかったので、ほっとしたのを覚えています。辞書は持ち込めますが、丁寧に引いているとあっという間に時間が過ぎます。「思ったより読める」とほっとしていた英文でしたが、大きなミスに気づいたのが、残り10分を切った頃。設問で問われている段落を読み間違えていたのです。筆記試験ですが、回答用紙は便箋風の自由形式で設問毎に区切りもなく、上から順番に回答していましたので、途中の回答から以降を消して書き直さなければなりません。焦りで震える手で回答を書き終わったのが、終了まで数秒といったところでした。
英語に自信のない方は、長文というだけで抵抗感があるかもしれません。長文を全て読んでいると時間が足りなくなるかもしれません。全文を読み込む時間がないと思われた場合は、最初に設問とその問われている箇所を確認すると良いと思います。設問はいくつか出題されますが、設問で問われている周りを読むだけで回答できるものもあります。 - 小論文
過去問で英語の試験と共に、問題が入手できます。小論文は1題ですが、年によって比較的取り組みやすいものとそうでないものがありました。どのような内容で答えるのが良いのか、何を求められているのか、過去問毎に夫と議論をしました。
私が受験した時は、過去3年の傾向とは異なり、新聞記事を読ませるものでした。回答用紙は英語の時と異なり、方眼紙になっていました。論文は余裕を持って回答することができ、字数制限の1、2文字を残す程度に埋めました。
【二次試験】
二次試験は6つほどの教室に別れて同時進行で進められます。一つの教室につき、試験官3名で面接が行われます。面接の順番や教室のグループの割り振りは受験番号とは関係がありません。当日に張り出された紙で自分の順番を知ることになります。控室は一つで、振り分けられた教室毎に面接の早い者から縦一列に並んで座ります。自分より前の人が終わったら、入れ替えに面接場所の教室に入って面接が始まります。面接時間は個人によって多少異なりますので、早く進むグループと遅いグループが出てきます。私は後ろから2番目でしたが、私のグループは周りのグループよりも押しており、私が終わったとき控室には私の後ろの方しか残っていませんでした。時間が十分にあったので、研究計画書を何度も読み返して質問と回答のシミュレーションを繰り返していました。
私の面接は比較的長い方で17、8分はかかっていたと思います。質問は全て研究計画書に基づいて行われました。中央の試験官が中心に面接を進められますが、手持ちの研究計画書を随時確認しながら、「何を研究したいか」「どのように研究を進めるのか」「卒業後はどのようにMBAを生かしていきたいか」等、取り組みたいテーマや実現したいことを尋ねられます。想定質問に対する回答を用意しておくと良いと思います。研究計画書を作る段階で十分考えておかなければ回答は作れませんので、研究計画書を徹底して完成させておく必要があると思います。
4.最後に
入学後は、自分が思っていたよりも「マネジメント」をよく考えさせられます。これは、どのような場面にあっても組織をいかにまとめて率いていくか、決断を下すかということであると思います。神戸大学MBAは他大学院より入学生の年齢が高く、社長や役員の方もいらっしゃいますし、20代の方もおられます。私がちょうど平均年齢層に当たりますが、上も下もなく、同級生として議論し、助け合っています。パワフルな講義を繰り広げる一流の教授陣、そして、他業種や他職種の同級生から受ける考え方、同業者であっても組織文化の違いから生まれる考え方に触れることによって得られる気づきや、個々の受講生の意識や熱意の高さから受ける刺激は財産です。しかし、このかけがえのない時間を得るには、家族を始めとして多くの協力なしには大変難しいものとなるでしょう。在学生や修了生の声にもあると思いますが、MBAのために多くの時間を割くので、生活は一変します。1年半という短い期間ですが、実りあるものになるか否かは、周囲の理解と協力を得られるかにもかかっています。受験に当たっては、その点の懸念を取り除いておくことが必須と思います。