安居院 徹 さん
株式会社国際協力銀行勤務 2014年度入学生 畠田敬ゼミ
私は、大学卒業後の1999年4月に、政府系金融機関の(株)国際協力銀行(JBIC)に入行しました。日本企業の海外での事業投資や大型資源開発プロジェクトへの融資部門のほか、経営企画や広報といったコーポレート部門を経て、現在は西日本地域の中堅・中小企業の海外進出支援を担当しながら神戸大学MBAに通っています。以下の体験記が皆様の受験の参考になれば幸いです。
1.受験のきっかけ
JBICが担う政策金融は、海外プロジェクトへの金融支援を通じて、日本の産業競争力の維持・強化、あるいは、日本への重要資源の確保といった政策目的の実現を目指すものです。私は、2004年に英国で公共政策分野(産業・貿易政策)の修士号を取得していましたが、その後のキャリアで数々の融資プロジェクトに携わる中、政策金融の付加価値を一層高めるためにも、ビジネスの論理である経営学を体系的に学びたいと思うようになりました。また、社会人15年目となり、若手職員の育成、チームマネジメントや業務・組織そのものの変革など、組織運営の視点を持つためにも、経営学のバックボーンは不可欠と考えていました。そうした中、2013年7月に東京から大阪への単身赴任がたまたま決まり、仕事をしながらも自己研鑽にまとまった時間を割ける得難い機会と捉え、神戸大学MBAへのチャレンジを決意しました。
2.受験準備
私自身は当時、現役の神戸大学MBAの先輩を直接知りませんでしたので、この「合格への道」がほぼ唯一の情報源でした。しかしながら、諸先輩の体験を一通り読み込むと相当程度イメージは掴めますので、あとは自分自身で咀嚼した上で、どれだけ内省し、自分なりの最良のアウトプットを出せるかの勝負と思います。以下、項目毎に私が行ったこと、心がけたことをお伝えします。
(1)研究計画書(及びキャリアハイライト)
まず、研究計画書をどれだけ熟慮して充実できるか、これが最大の要素ではないかと思っています。記入様式は、受験者の思考が一貫しているかが如実に表れるように、大変練られた構成になっています。主に問われているのは、(1)自分は何のテーマを研究したいのか、(2)研究テーマは実務経験上の如何なる問題意識から生まれたのか、(3)どういうステップで研究が出来そうか、(4)それを学ぶのに神戸大学MBAが何故ベストなのか、です。
ここでは上記(1)・(2)についてのみ少し記しますと、私の場合は、海外展開する中小製造業に接する現在の職場での問題意識と産業政策的な関心とを重ね合わせて、「変容する自動車産業のサプライチェーンにおいて中小企業の海外進出の明暗を分ける成功要因とは」という大まかなテーマの方向性を捻り出したのですが、それを経営学のワードでまとめることに苦労しました。手がかりとして、まず、経営学の概説書(例えば加護野先生他の『ゼミナール経営学入門』)をざっと読んで、自分の関心領域が経営戦略、オペレーションマネジメント、あるいはマーケティングといった、経営学でいうどの分野に近い議論なのかを考えました。次に、もう少し関心領域に絞り込んだ関連書籍や論文(≒先行研究)を探し出して、自分が研究するテーマが学問的にどのような付加価値、”something new”をもたらし得るか当たりをつけました。そこから先は、入学前に深められる知識レベルには限界もあるので、自分の“想い”を実体験に照らして研究計画書に込めることに力を注ぎました。研究計画書の一般的な書き方は、末尾に紹介した二冊の文献が非常に参考になりました。事例を多く読んで、近い構成のものを雛形にしてみても良いと思います。なお、時間的に余力のある方は、MBAに行かれた先輩・知人があれば、ドラフトを一度見てもらうと客観的コメントが得られ、原稿を推敲していく上で有益と思います。いずれにせよ、理論の学習と実務上の問題意識との間の往復運動の数が増えるほど、考察の質は高まるのではないでしょうか。
キャリアハイライトの記載も、言わずもがな大事な自己アピール機会です。私は、これまでの社会人生活で自分が最も活躍した経験とその意義を示しなさい、という趣旨と理解しました。イベントを絞って、独りよがりにならないよう客観的な成果を書いた方が、インパクトがあると思います。また、研究計画書の様式の中で、自分は神戸大学MBAというコミュニティに何を提供できるのか、といった趣旨の記載欄がありますが、キャリアハイライトに示される自己の経験・能力や、勤務先で自分が持つ人脈の広がり等を分かりやすく示すことは、神戸大学MBAをアカデミアと実務家の共同コミュニティとして豊かなものにしたいであろう大学側の視点に立てば、極めて重要だと思います。実際にMBA入学後も、講義中に同級生からの実務経験に基づくコメントで議論が大いに活性化していますし、チーム研究等では自社をケーススタディの素材にしてインタビューの場を設定することも結構あります。
(2)第一次選考(筆記試験)
- 英語
英語については、過去問以外は対策を殆どしませんでした。但し、分量が多く、回答時間に比してタイトかと思いますので注意は必要です。日常的に英語に触れる職場におり、留学経験もあったので一応大丈夫かなと思っていたのですが、本番も時間が少なく、あたふたしながら何とか書き切ったという感じです。従って、早めの段階で過去問は入手してイメージを持っておくこと、また、業務上英語に触れることの少ない方は、意識的にグローバルタスクフォース『MBA速読英語』なりで勘を養っておかれた方が得策かと思います。 - 小論文
小論文は、経営学に関する時事ネタが出題される傾向にありますので、相応の準備をしておいた方が安心かと思います。経営学の基礎が覚束なかった私は、まずは加護野先生他の『ゼミナール経営学入門』をとにかく通読して、経営学の視点から、日本企業の経営上の特質と課題がどのように議論されているかの把握に努めました。並行して、小論文の書き方を知るため、飯野他『国内MBA研究計画書の書き方』と吉岡『大学院・大学編入学社会人入試の小論文ー思考のメソッドとまとめ方』を通読して、設問の紐解き方、構成の立て方を凡そ理解した上で、過去問三年分について回答案を作成しました。更に、他校も含めた過去の出題例を経営学上の分野に割り振って一通り並べた上で、自分なりに予想論点を立てて、構成と回答案を幾つか作成してみました。新聞・雑誌等に加えて『日経キーワード』のような時事ネタをまとめた書籍も論点を洗い出す参考にしましたが、いずれにせよ、ある程度「実際に書いてみる」練習をして、自分の好きな構成パターンを幾つか持っておくことが、本番をこなす上での自信の裏付けとなるのではと思います。
(3)第二次選考(口述試験)
一次試験終了後、三週間ほど時間がありましたので、口述試験用の想定問答を用意していきました。備えとしては、研究テーマの実務への関連性はもとより、その社会的意義や経営学への貢献可能性など、敢えて受験段階では詰めが難しい部分を探して、厳しめの問いを多様な視点から考えておくと良いのではと思います。但し、最終的には自分の研究テーマや神戸大学MBAに対する熱意をロジカルに説明できるか、その一点に尽きる気もしますので、きちんと理解出来ていないことや実務との関連性を詰め切れない部分は、いたずらに虚勢を張らず、潔く認める姿勢も大事かと思います。私の場合、本番の試験では、(1)初めに研究テーマの内容と、何故その研究がしたいのかの説明を3分程度で求められた上で、(2)その研究を進める上でどのような理論枠組みを使うのか、(3)神戸大学MBAに対してどのような貢献が出来るのか、(4)勤務先や家族の支援は得られるのか、を中心に三名の面接官から質問があり、10分程度で終了しました。ストレートな質問が多く助かりましたが、それでも相応に緊張しますので、同じ問いでも3分バージョン、1分バージョンでどう喋るのかなど、やはり練習しておいた方が安心して臨めます。
3.最後に
幸いに2014年4月から神戸大学MBAに入学を許され、日本有数の充実した教授陣と、優秀かつ極めて意識の高い同級生約70名に囲まれて、毎週金曜夜・土曜に、自由かつ知的刺激に満ちた学生生活を謳歌させてもらっています。実は、神戸大学は父の母校でもあり、40代も近づいたこうした時期に父の後輩になれたことは、素朴に何か嬉しいものですし、「日本の経営学発祥の地」として強いプライドを持つ神戸大学のコミュニティに混ぜて頂いたことは、今では心からの誇りです。この機会に、単身赴任とはいえ週末ろくに東京に帰りもしない私を温かく見守ってくれる家族に、また、フィールドリサーチで平日休暇を頂く際も快く送り出してくれる上司はじめ職場の同僚に、心からの感謝を申し上げたいと思います。
最後にですが、週末をフル活用する神戸大学MBAは、体力的には厳しいものがありますが、日本国内でもこれだけ充実した教育環境を提供できるMBAコースは他に類を見ないと思います。同級生の横のつながりも、ケースプロジェクト研究などチームスタディやグループワークを通じて本当に強くなり、卒業した先輩方も折々に指導に来て下さるなど、将来にわたって得難い人と人の繋がりを築ける場があります。是非、この原稿を御覧になった皆様が神戸大学MBA受験を検討され、コミュニティの新たなメンバーとして加わって下さることを願っております。
【参考文献】
- 飯野一・佐々木信吾 著(2003)『国内MBA研究計画書の書き方』中央経済社
- 妹尾 堅一郎 (1999)「研究計画書の考え方ー大学院を目指す人のために」ダイヤモンド社
- 吉岡友治 著(2002)『大学院・大学編入学社会人入試の小論文ー思考のメソッドとまとめ方』実務教育出版
- 加護野忠男・伊丹敬之(2003)『ゼミナール経営学入門 第3版』日本経済新聞出版社