第18回(2025年度)加護野論文賞 最終審査結果

2026年3月28日(土)に、今年度の加護野忠男論文賞の最終選考会と授賞式が開催されました。今年度新たに入学する約70名の新入生が見守る中、最終選考の発表、審査員による講評、受賞論文のプレゼンテーション、賞状授与及び記念撮影が執り行われました。

今年度の最終選考会では、故加護野忠男先生の同期生でもある石井淳蔵氏(株式会社碩学舎代表取締役)を審査委員長とし、学術界から平野光俊氏(大手前大学学長・現代社会学部教授)、長田貴仁氏(岡山商科大学 社会総合研究所 客員教授/経営評論家)、産業界から飯田豊彦氏(株式会社飯田代表取締役社長)をお迎えしました。そこへ本研究科研究科長國部克彦氏が加わり、慎重かつ厳正な審査が実施されました。

最終選考では、学内の第二次選考で選ばれた3本の論文に対して順位付けを行い、今年度の加護野忠男論文賞の受賞論文における最優秀論文が選び出されました。審査委員長の石井淳蔵氏による講評は、以下の通りです。

受賞論文

  • 金賞:三谷 大地 氏(坂井 貴行ゼミ)
    『「ブラック霞が関」の内側へ─国家公務員のモチベーション形成をめぐる逆説構造の質的分析─』
  • 銀賞:関谷 祐輔 氏(上林 憲雄ゼミ)
    『ヒットコンテンツの創出メカニズム—卓越した番組制作者は「創造」と「実現」の壁をいかに越えるのか—』
  • 銀賞:佐々木 智哉 氏(森 直哉ゼミ)
    『日系製造業における M&Aの経営効果と課題-資産効率と収益性の分析-』

第18回(2025年度)加護野論文賞第一次・第二次選考通過論文はこちらからご覧ください。

審査委員

  • 株式会社碩学舎代表取締役 石井 淳蔵 氏
  • 大手前大学学長・現代社会学部教授 平野 光俊 氏
  • 岡山商科大学 社会総合研究所 客員教授/経営評論家 長田 貴仁 氏
  • 株式会社飯田代表取締役社長 飯田 豊彦 氏
  • 神戸大学大学院経営学研究科スタッフ

石井 淳蔵 氏(審査委員長)審査講評

昔、私が加護野さんと一緒に大学院に入った頃には、「本を書くことこそが学者の仕事である」と言われていました。当たり前のことのように思われるかもしれませんが、いまは少し事情が違ってきているようで、「論文を書きなさい」と指導されることが多いと聞きます。かつては、本を書いてこそ学者として一人前だ、という考え方がありました。

では、本を書くためには何が必要なのか。

第一に、自分で問題を見つけることです。自らテーマを設定し、その問題が理論的にどのような意味をもつのかを検討する。いわゆるレビューを行い、既存の研究の流れの中にその問題を位置づけることが求められます。

第二に、自分のテーマに即した方法論を、自分自身で構想することです。いまのように、既成の方法論が整備され、コンピューターを使えばすぐに利用できる時代ではありませんでした。プログラムは自分で書かなければならず、データも自分で収集し、パンチカードで入力する必要がありました。定量研究には相当の負荷がありましたし、定性研究においても、インタビュー自体が研究資源として認められていない時代でした。

そうした環境のなかで、「方法論は自分で考えなさい」と言われるわけです。ではどうするか。マックス・ウェーバーはどうしたのか、カール・マルクスはどうしたのか。そうした古典的な研究者から学び、さらに身近な研究者の実践にも目を向けながら、自分のテーマにふさわしい方法を見出していく。既存の方法では足りないと感じれば、自分で補い、開発する。そうした試行錯誤を通じて、自らの方法を磨いていくことが求められていました。

そして、その方法に基づいて分析を行い、結論を導き出し、それを理論のなかに位置づける。ここで重要なのは、自分の主張が、これまで人類が積み重ねてきた理論の流れの中でどこに位置するのかを見極めることです。理論的コミュニケーションとは、そのような歴史的連続性の中で自らの仕事を語ることにほかなりません。

本を書くというのは、こうした一連の作業を引き受けることでした。修士1年の段階からそのように指導され、加護野さんも私も、同世代の研究者たちも、それを目標としてきました。おそらく現在では、もう少し異なる研究スタイルが求められているのでしょう。この点については、いまの神戸大学の先生方に伺うのがよいと思います。

さて、なぜこのような話をしたかと申しますと、ひと月ほど前にお送りいただいた候補論文――金賞の三谷さん「ブラック霞が関の内側へ」、銀賞の関谷さん「ヒットコンテンツの創出メカニズム」、銅賞の佐々木さん「日系製造業におけるM&Aの経営効果と課題」――この三本を読ませていただいたからです。

正直に申し上げますと、この歳になると読書そのものがなかなか大変で、十八歳の頃に戻ったように、文字は追えても内容が頭に残らないということが増えてきました。それでも読み進めるなかで、「これは使える」と思えるアイディアがいくつも見つかりました。自分の現在の研究に取り込める示唆が得られ、大変勉強になりました。

三本とも非常に優れた研究でしたが、とりわけ印象的だったのは、いずれも「自分の頭でテーマを考え、それを理論の大きな流れの中に位置づけ、方法論を自ら構想する」という、先ほど申し上げた研究の基本的プロセスに忠実であった点です。その意味で、金・銀・銅という区分は審査上の便宜にすぎず、いずれも非常にレベルの高い論文であったと思います。

まず、金賞の三谷さんの論文についてです。ここで私が特に学ばせていただいたのは、「認知的クラフティング」という概念です。私は『マーケティングの神話』以来、この領域に関心を持ってきましたが、この概念は、現在執筆しているブランド論にも活かせると感じました。

問題設定も非常に優れています。「公共性の高い貢献意欲は、なぜ職務満足に結びつかないのか」。これは強い問いです。私自身、ブランドの研究をしていますが、たとえば阪神タイガースや宝塚歌劇団のような組織において、やる気が出ないという状況は、本来は想定しにくいはずです。それにもかかわらず、現実にはそうしたことが起きている。この「起きてはならないことが起きている」という違和感こそが、人を惹きつける問題意識であり、私の理論にとっても大変示唆的でした。

次に、銀賞の関谷さんの研究です。ヒットコンテンツがなぜ生まれるのかという問いは、誰しもが関心を持つテーマです。メーカーであれサービス業であれ、「なぜあの人はヒットを生み出せるのか」という問いは普遍的です。

神戸大学でも近年注目されているエフェクチュエーションの議論も、まさにこの問題に関わっています。たとえば吉田満梨先生の研究では、ネスレやP&Gにおける優秀な実務家に密着し、その思考様式を明らかにしようとしています。

そのなかで、関谷さんの研究は、包括的なサンプルに加えて、二段階の調査プロセスを採用している点が際立っていました。一度得た結果を再び対象者に提示し、解釈を深める。この設計は容易に思いつくものではなく、そこから得られるインプリケーションも非常に豊かで、貴重な研究になっていると感じました。

最後に、銅賞の佐々木さんのM&A研究です。この論文は、実務的な場面でも大きな示唆を与えてくれました。ちょうど大阪での取締役会に出席した際に読んでいたのですが、その場の議論がまさにM&Aだったのです。

「効率性か収益性か」という論点は、研究の世界では比較的知られています。しかし、実務の場では必ずしも共有されていません。多くの場合、「両方を同時に達成できるのではないか」と考えられています。

そこで私は、この論文の知見をもとに、「効率性を高めるM&Aと、収益性を高めるM&Aは本質的に異なる」という点を紹介しました。さらに、「効率性を追求した統合は、数年で利益効果が薄れる傾向がある」という示唆を伝えたところ、議論の流れが変わりました。なぜそうなるのかという点について十分に説明できなかったのは心残りですが、それでも場に新たな視点を持ち込むことができました。この意味で、非常にインパクトのある研究であったと感じています。

以上のように、それぞれの論文から多くの示唆を得ることができました。MBAの研究成果として、加護野先生とともにその制度の立ち上げに関わった者として、これほど嬉しいことはありません。

これからMBAに取り組まれる方々には、ぜひ、自らの問題意識に根ざしたユニークなテーマを設定し、それを理論の中にしっかりと位置づけ、理論的インプリケーションを導き出す研究に挑んでいただきたいと思います。

〈了〉

2025年度加護野論文賞授賞式
2025年度加護野論文賞授賞式
2025年度加護野論文賞授賞式
2025年度加護野論文賞授賞式

左から 國部経営学研究科長、三谷氏、長田氏、平野氏、石井氏、飯田氏、関谷氏、佐々木氏