巣之内聡裕さん
パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社 勤務 2024年度修了生 森村文一ゼミ
1. プロフィールをお聞かせ下さい。
大学で工学部機械工学科を学び、専門は情報工学です。技術士という資格を持っています。仕事では、社内外の工場で使われる生産設備の開発、とくに検査や計測技術の研究とアーキテクトを担当しています。いわゆる「理系の人」です。
いま携わっているアーキテクトという仕事は、「何をすればいいか」と「どんな方法で実現するか」の2つの視点について、短期・中期・長期の技術戦略に基づいて具体的に考え、接続するのがミッションです。その結果、最先端・超高価なチップを惜しげもなく使った世界最高速の画像処理システムを作ったりできる、たいへん夢のある仕事です。また、休日には趣味で電子回路や基板設計をしていて、ときどき展示会に出品したりします。顕微鏡下で0.4mmの部品をはんだ付けできます。
2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?
かねてから、自分には「ものごとを説明するチカラ」が不足していると感じていました。私が属するBtoBの世界では、会話する相手側が「聞くチカラ」を充分に持っていることが多いため、単に正確なことさえ言っていれば、きちんと相手に伝わります。このような環境がぬるま湯のように作用して、いざ気づくと、分野や価値観が異なる相手に対して自分の考えを伝えるための手段や経路、言葉選びなどの能力が培われないまま、ここまできてしまったのではないか、という危機感を持つようになりました。さらに技術開発ではなく事業を創出するような立場や場面が多くなり、さまざまな立場の人を巻き込むチカラが求められるようになったいま、相手の「技術レベル」に合わせて情報の鮮鋭度を丸めるだけの雑なコミュニケーション手法が通用しないという悩みを感じていました。
そのような悩みを解消するためには、MBA、すなわち経営学という知の体系が役に立つのではないかと考えました。経営学は、組織やビジネスという複雑な人間活動を体系的に理解し説明するための学問であり、市場での競争や組織での協働という、一つの答えがない問題に向き合い続けています。このような知識の体系を学ぶことで、複雑な現実を構造化して捉えたり、それを他者と共有するために言語化するために使える、思考のツールが得られるのではないかと考えました。
数あるMBAのなかから神戸大学を選んだのは、ここが社会人MBAにおける国内最高峰だと考えたからです。研究者として著名な教員が多く在籍していることに加え、理論と実践の連結を重視していることも魅力でした。このような場が自宅から近い場所にあったというのは、きわめて幸運なことだと思います。
3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?
入学の目的であった「ものごとを説明するチカラ」は、大きく向上したと実感しています。経営学を学ぶことによって、「いま何が起きているのか」「組織はどのように動くのか」「人はなぜそのように判断するのか」のような目の前の疑問を解決に導くための道具をたくさん会得できました。具体的には、先行研究によって構築されたさまざまな理論をどのように探してどう適用するか、あるいは、実証的な分析を行うにはどのようにデータを扱えばよいのか、現場における知恵を体系化するにはどのような枠組みがあるのか、といったことです。頭の中にある本のページ数が増え、索引も大幅に充実したような感覚です。
4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。
私は「日曜日にMBAのことはやらない」と決めており、実際にそうしました。MBAは短距離走ではなく1年半という長丁場ですので、サスティナブルなペースを早めに作らないと息切れしてしまいます。もちろん、レポートやグループワークが膨大にあるので、超多忙であることは間違いありませんが、意外となんとかなるな、というのが印象です。日曜日は1日しかありませんが、平日は5日もあるのです。
もちろんレポートの質が下がったり、グループワークでのチームメンバーへの貢献が減っては本末転倒です。悪い履修成績がつくのも癪に障ります。さらに、平日の夜に開講されるオンライン授業(これがまた魅力的な科目が多い!)を履修しないのは、せっかくのチャンスを無駄にするようでもったいないですので、これもたくさん履修するしかありません。
そこで、仕事を効率化させることと、寝る時間を削減することによって、平日の時間を捻出しました。平日授業の出席時間を除いて、レポートやグループワークに掛けていた時間は、週20時間くらいです。出張の移動時間は最高のボーナスタイムですが、かつてはそれがすべてツイッターに費やされていたと思うと、ちょっと憂鬱な気持ちになります。
その結果、M1の平日開講授業も、ほぼすべて履修することができました。レポートもグループワークもすごくがんばりました。履修成績はGPA4.0以上を目指していたのですが0.05届かず…でもまあ修了できたからヨシとしましょう。
5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。
神戸大学MBAのカリキュラムが優れていると感じる点はたくさんありますが、なかでも授業の質の高さ、開講順序の設計の秀逸さ、履修期間の絶妙さについて取り上げたいと思います。
まず、授業そのものの質について。ここでいうまでもありませんが、きわめて充実しています。本や雑誌で頻繁に見聞きする教授が目の前にいるだけでも嬉しいものですが、その先生が「できる限り伝えよう」という気持ちをあふれさせながら教壇に立ってくれます。さらに、スペシャルゲストを招聘し、ゲストの講義を受ける機会を作ってくださる先生も多くおられました。VCの取締役、スタートアップ企業のCFO、シリアルアントレプレナーの方などが登壇し、通常の講演会ではなく大学の授業でしか言えないような内容を含めた生の声を聞ける機会というのは、他では得られない価値ある経験となりました。また玉田俊平太教授など他大学の先生がゲスト参加される授業もありました。そのようなことを実現できる神戸大学と教授陣の底堅い力を感じます。
また、神戸大学MBAの素晴らしさは一つ一つの授業にとどまらず、コースのカリキュラム設計、とくに開講順序の周到さにも宿っています。開講順序は、各科目の結びつきに基づいて知識の積み上げが自然に行われるようにしつつ、社会人学生としての学びのペースづくりや、同期との関係づくりを支援するよう、綿密かつ精緻に計画されています。M1の前半は圧倒的な授業の波のパワーに、なかば押し流されるようにして過ごすのが精一杯なのですが、それでも夏を過ぎる頃には、不思議と、ではなく、カリキュラムの凄みのおかげで、きちんと体系だった統合的な知識と、勉学のペースの両方が身についています。私もクラスメイトも皆、自分自身の成長に驚くほどです。
最後に履修期間について。神戸大学MBAは1年半で修了できますが、そのために土曜日は休みなく朝から夜まで授業があります(お正月に1回だけ未開講の週があるが、実際は…)。入学当初は、もし2年制ならこんな詰め込まずにすむのに、と、少し不満に感じていました。しかし、修了してから振り返ると、あの怒濤のような猛ダッシュを2年も続けるのは無理だったと強く感じます。仕事環境の変化や転勤などのリスクもあり、協力してくれる家庭の我慢にも限りがあります。修了したいま振り返ると、1年半というのは、初心の集中力を維持したまま最後まで全力を出し切れる限界であり、会社や家族もなんとか我慢しながら応援できる、ギリギリのラインを攻めた絶妙に優れた履修期間設計だと、修了したいま強く思います。皆さんも、どうか1年半で修了されることをお勧めします。
6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?
ケースプロジェクトやテーマプロジェクト、マーケティングリサーチ応用研究など、1ヶ月以上継続してグループワークを行う授業がたいへん面白く、印象に残っています。ここでいうグループワークとは授業中の活動ではなく、レポートや調査、プレゼンテーション資料作成をグループで行い、グループ対抗で競うようなものです。そのような形式の授業は、どれも授業外で膨大なエフォートが要求されるハードなものとなります。日曜日や平日に何度も、学外の貸し会議室に長時間こもって激論したり、大晦日の夕方からZoomで議論したり、時には険悪な雰囲気になったりと大変なことしかありませんでしたが、その分、やりきった時の感激が素晴らしく、他グループに勝利したときの爽快感もひとしおでした。チームメンバーそれぞれが持つ知恵の引き出しから持ち寄ったものを、みんなで選んで磨いて積み上げて、精緻なロジックを紡ぐという場に身を置くことは、いま思い返しても心躍る素晴らしい体験です。あのようなことは会社では絶対にできません。
しかし、なんといっても在学中のハイライトは、ゼミでのディスカッションと論文執筆ではないかと思います。私は森村文一教授のゼミに所属させていただき、研究に最も重要な先行研究レビューについて徹底的に指導いただきました。先行研究レビューとは、研究者たちが何を問題とし、どのような理論を用いて分析しているか、どこまでが明らかになり、何が課題として残されているのかを読みとくことです。自分自身が研究したいテーマ(問い)に関する論文を事前にいくつも読んでレビューしておき、ゼミの場で教授陣とゼミ生が議論を重ねてレビューを深めることで、自身の問いを少しずつ研ぎ澄ませていきます。このようなプロセスを半年以上続けることで、問いが明確になるのと同時に、論文のありようや研究の作法を体得し、問いを解決するための論文を執筆する準備が整うのです。このように書くと、なんだか近寄りがたい場のように感じるかもしれませんが、私の所属した森村ゼミは、教授の人柄によるものか、最初から最後までたいへん和やかな雰囲気で進行しました。教授の口癖である「みなさん、きょう気づいたことは、すべてここに置いて帰りましょう」という言葉は、このゼミが持つ本質的な温かさを端的に表しています。また、2024年度の森村ゼミは、偶然にも所属するゼミ生12名全員が男性という珍事となったことで、他のゼミにない独特の連帯感に基づくきわめて濃密な関係を築けたことも、いま振り返るとたいへん印象深い出来事です。
7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?
手に取る「本」の種類が変わったと感じます。以前は一般的なビジネス書を読むことが多かったのですが、今では、理論的な基礎を解説した教科書的な本や論文のほうが、本質的な理解が得られて面白いと感じるようになりました。結論めいたものよりも、その背景にある理論や、その周辺理論との関係を知りたくなるというのは、MBAでの学びによって私の知的好奇心の解像度がずいぶん上がった証だと思います。
会社における実務面では、技術者としての発想のスケールが大きくなったと実感します。経営層へ事業企画を説明する能力が高まったことで、より大胆で長期的な取り組みが必要となる事業プランをいくつも思いつくようになりました。それまでは、自分自身の説明力や、人を巻き込む力の低さのため、知らず知らずのうちに技術的な発想力が狭まっていたのだなと感じます。「遠くへ行きたければみんなで行け」というブルキナファソの諺がありますが、みんなで行きたくても、やりたいことを説明する力が乏しければ誰も付いてきません。MBAで獲得した説明力を武器に、より大きな変革を実現する自信、つまり「みんなで行く」自信を得ることができました。
8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。
神戸大学MBAは、間違いなくお勧めできる選択肢です。ここには最高の授業と最高の環境があり、最高の師匠と最高の友人がいます。
多くの先輩MBA生は、MBAがハードワークであることを強調します。確かにハードであることは事実です。土曜日はすべてなくなりますし、盆も正月もありません。平日も深夜までレポートに追われますし、新幹線に乗っているあいだも論文を書かねばなりません。でも、そういうハードさって、結局はなんとかなります。神戸大学MBAには、そのハードワークをするに足りるだけの知的な興奮があり、打てば響く仲間がいます。
現代において、大人をここまでエキサイティングな気持ちにさせるのは、神戸大学MBAをおいてほかありません。迷っている方は、ぜひ勇気を出して一歩を踏み出してください。必ず、その決断が人生の大きな転換点になることを、私は確信しています。