英国産業事情応用研究(RST2019)報告

【日程】2020年2月9日(日)~ 2月15日(土)
【行先】 ロンドン、クランフィールド大学(イギリス)

日英産業事情応用研究(通称RST=Reciprocal Study Tour)は、英国クランフィールド大学と神戸大学が協働して提供しているMBA生向けプログラムです。このプログラムは、6月に行われる、クランフィールド大学MBA生が来日する日本研修プログラムと、2月に行われる、神戸大学MBA生が渡英する英国研修プログラムから成り立っています。今回は、2月に行われた英国研修プログラムの様子を紹介します。

経営学研究科 准教授 中井正敏

引率教員から一言

本年の英国研修は、2月9日(日)から15日(土)までの日程で行われました。本年度の参加者は23名と昨年に引き続き多くのMBA生が参加しました。現地集合日の9日(日)ロンドンが強風に見舞われ、日本発の飛行機が軒並み遅延、10名の学生が20時間の到着遅れとなり、初日月曜日午前の研修に間に合わず、また月曜午後に予定されていたテムズ川クルーズが先方の予約の行き違いから乗船できず、急遽キャンセルされる等波乱含みの幕開けとなりましたが、リーダー陣のもと強い結束力で、何とか無事研修をおえることができました。本年も、企業訪問に講義に文化体験にと盛りだくさんのスケジュールを準備してくださったクランフィールド大学の皆さん、企業訪問にご協力をいただいた企業の方々、関係の方々に心より御礼を申し上げます。

また神戸大学MBAのみなさん、事前準備、プレゼン等お疲れ様でした。実りある研修旅行になっていれば幸いです。以下、英国研修の概略、参加した神戸大学MBAの方からの感想記を紹介します。

研修概要

2月9日(日)

(夕刻)ロンドン・ホテルに集合
(夜) 夜クランフィールド大学Ms. Mariana、Ms.Geを交え、パブでのキックオフディナーを予定していましたが、航空機遅延のため参加できたのが僅かに二人だけとさびしいスタートとなりました。

2月10日(月)

(午前)ロンドンを拠点に世界で会計事務所を展開するGrant Thornton社へ。

(午後)テムズ川のアフタヌーンティー・クルーズとロンドン・アイ乗車体験が予定されていましたが、予約の行き違いから急遽キャンセル。思い思いにロンドンの街を散策することになりました。

2月11日(火)

(午前)朝少し早くホテルを出発し、金融街CITIへ。イングランド銀行、王立取引所等由緒ある建物を見ながらセントポール大聖堂を通り、午前の訪問先のLondon Stock Exchangeへ。昼食はロンドン・ブリッジ近くのバラ・マーケットで。

(午後)昨年に引続き、保険の総本山Lloyds of London。普通では入ることのできない実際に取引を行っているフロアー、タイタニック号沈没の際も鳴らされた鐘(ルーティングベル)等も見学させてもらいました。

(夜)自由時間。ミュージカルにショッピングにと束の間の自由時間を楽しみました。

2月12日(水)

(午前)朝早くにバスでミルトンキーンズへ。これも昨年に続きTech Mahindra社訪問。インドに本拠をおく情報・通信・テクノロジー(ICT)業界における大手ソリューション・サービスプロバイダーです。昼食はこれまた恒例となったローカル線の古い駅舎を利用したRichimond Station Tea Roomsにて英国伝統のCream Tea。昼食後クランフィールド大学へ。

(午後)Andrew Angus教授による「Brexit」の講義。EU離脱直後で大変ホットな講義でした。もう一つは、Abdelkader Aoufi1教授による「Inovation and Customer Focus」。グループに分かれてケーススタディを行いました。

(夜)クランフィールド大学主催によるウェルカムディナー。

2月13日(木)

(午前)持続可能な社会の実現を目指し、資源のリサイクル、再生可能エネルギーおよび廃棄物の管理を行っているViridor社へ。実際に廃棄物の選別を行っているサイトを見学させてもらいました。

(午後)クランフィールド大学にもどり、神戸MBA生によるプレゼンテーション。多くの学生が集まり大変盛り上がりました。神戸MBAの皆さんご苦労様でした。

(夜)クランフィールド大学MBA生主催のカラオケパーティー。

2月14日(金)

(午前)英国最大の建築材料サプライヤーのTravis Perkins社へ。ディストリビューションセンターの巨大さに圧倒されました。

(午後)大学街ケンブリッジを視察、夕刻ロンドンにもどりました。最終日夜は、パブで打上げ食事会をしました。

2月15日(土)

(朝)解散

 

ここからは、神戸大学MBA生の感想記です。(原文のまま掲載)

英国研修事後レポート

英国のヒースロー空港付近のストームの影響で飛行機の出発が、全日空はDelay 3 hours、日本航空はDelay 19hoursという波乱の幕開けで始まった英国研修でした。全員がイギリスで会えたのは、2日目の午後でした。ただ飛行機が遅れようが、その場の状況に応じて、積極的に楽しむことを心掛けたエフェクチュエーションの賜物でした。そんな英国での朝の移動は、英国の歴史ある街並みが並んでいる通りを23人で喋りながら歩いていく。普段の日本では決して味わうことのできない景色や感覚、MBA生同士で語り合ったことは忘れることができないとても大切な時間です。飛行機が遅れるということがありましたが、研修自体はすこぶる順調に進みました。

以下はMBA生、それぞれが感じた学びや感想です。ぜひ英国研修に1割でも行きたいと思う方は手を挙げて参加してほしいです。今後の生き方を見つめ直せるまたとない機会をぜひ掴んでください。

続いて、それぞれのパートの担当者からの各活動コメント

企業訪問
  1. Grant Thornton International Ltd
    ロンドンを本部とする世界第7位の会計事務所を訪問しました。クランフィールド大学の卒業生が社員として働かれており、温かく迎えていただきました。自社の売上、ファイナンス、ケーススタディ、Brexitを取り上げ、さらにグローバルでビジネスをする上での文化や言語の違い、専門知識不足などが課題に上手く対応できる組織構造や戦略を説明いただきました。例えば、人口が減少している日本ではM&Aを促すなど、各国の企業が置かれている文化や能力を深く理解した上でのアプローチを重要視していました。意見交換会では、自身のキャリアを明確に描いていたり、数社を経験している社員もいらっしゃり、グローバルで活躍されている方々からのエネルギーや刺激をいただき、非常に貴重な経験となりました。

  2. London Stock Exchange
    300年以上の歴史を持つ世界最古の証券取引所の一つであり、世界115か国から約1,200社が上場している主要なグローバルマーケットです。今回の企業訪問では、証券取引所のビジネスモデルや、近年のコンピュータによる高頻度・高速取引が引き起こす弊害などの金融システムが抱える問題について学びました。Brexit直後での訪問ということで、金融市場へ与える影響などについてのディスカッションし、市場の混乱状態や先行きの不透明感を肌で感じることができました。また、プレゼンターション終了時点のFTSE100(イギリスの主要インデックス)価格を予想するミニゲームを行い、市場予測の難しさを各自が実感しました。(ニアピン賞には粋な景品も!)

  3. Lloyds
    『世界で最もよく知られた、しかし最も理解されていない保険ブランド』と言われ、ロンドン市内で、ひと際目立つメタリックなビルを本社として構えるLloyd’s社を訪問しました。ビルは空調等の配管が外側にむき出しの状態で設置しており、さながら工場のようでした。一方で内部はほぼ空洞のオープンオフィスで、多くの保険取引が行われていました。Lloyd’s社は通常の保険会社と異なり、「保険取引の場(ルーム)」を会員に提供するために存在しており、世界中の保険契約者がまずブローカー(保険中立人)に保険事例を相談し、ブローカーがアンダーライター(保険引受人)と交渉し、保険契約を取引するというのが一連の流れです。
    ロンドンのLloyd’s社で保険取引が多く行われる理由は、リスクが高く、保険引き受けが難しい,『特殊なリスク』を扱っており、世界の航空・船舶保険取引が集中しているとのことでした。実際にLloyd’s社内には『Lloyd’sの鐘』が設置されており、これは海難事故発生を知らせる役割を担っているとのことでした。関係者以外はLloyd’s社内を視察することはできない貴重な体験をすることができました。

  4. Tech Mahindra
    世界90カ国以上事業展開するインドの多国籍企業のマヒンドラグループの一員、そしてICT業界における大手のソリューションプロバイダーであり、その多角的に展開されている事業についてお話しいただきました。印象的だったのは、5Gが未来の医療システムをどう変えていくかのお話でした。ご自身のお父様が心臓発作で倒れられた時の経験で、病院にかかるだけでも救急車、受診する緊急医、専門医、等々への連絡が必要な英国の医療システムを例に、カルテや画像データ共有、救急システムの変化だけでなく、ジムでの運動データなど生活のあらゆるデータを健康情報として統合してゆくスマートシティが直ぐそこまで来ているというお話を実際にその最先端にいる方から伺えたのは、とてもリアルで貴重な経験でした。
    また、イギリスで活躍されるインド人の若手の技術者の方がご自身の専門分野について生き生きと語られている姿もとても印象的でした。私にとっては、普段なかなか入ることのできないグローバルな環境で活躍されているエネルギーのある企業のお話を伺えたことは、自身の仕事に対する姿勢を見直す大変貴重な機会にもなりました。

  5. Vridor
    1957年に創業された、リサイクル、再生可能エネルギーを扱うリードカンパニーで、低炭素エネルギーの生産という強みを活かし、自社の地位強化を図る会社を訪問しました。実際にリサイクルを行っているミルトンキーンズの工場を見学しました。クランフィールド大学での企業紹介、質疑応答の後に、バスで工場に移動、何といっても工場の迫力に圧巻されました!絶え間なく稼働するベルトコンベア、そして大量の廃棄物、日々の暮らしで多くの廃棄物を出しているのか、そして地球環境はVridorのような企業に支えられているのだと実感しました。工場の取組み紹介があった部屋では、リサイクルした缶、電子基板などで作られた日用品やアート作品が置かれ、地球環境に興味を持ってもらうために、子供たち向けにスクールトリップを行っているとのことでした。今の世代だけでなく、将来の世代にも目を向けて貢献する素晴らしい取り組みを学ぶことができました。

  6. Travis Perkins
    英国最大の建築資材の販売を手がける同社の巨大ディストリビューションセンターを見学。今回の訪問では金融やITなど「現場」を感じにくい企業が多かったので、とてもワクワクしました。会議室で簡単な企業紹介を受けた後、3グループに分かれて見学。同社はファブレス企業なので、商品企画力と販売力が重要ですが、コストを下げるためには倉庫の効率性(在庫回転率、在庫引き当て率、供給スピードなど)がとても重要になります。その肝となる倉庫見学ですから、どのチームも興味津々で見学の間、質問が絶えませんでした。結果、見学ルートを終えて会議室に戻ってきたのは、出発時間ギリギリでした!IT技術を駆使し、人手不足の時代にマッチした先端倉庫は、効率性も兼ねながら、省人化されており、同社の強みの一端を垣間見た気がしました。その巨大な倉庫の大きさとともに、倉庫の隅々まで余すことなく見せてくれ、どんな質問にも真摯に答えてくれるその懐の深さにも驚かされました。

Cranfeild授業
  1. Brexit
    Cranfield大学では、同大教授よりBrexitに関する講義を受講。EU離脱直後というタイミングで、当事国の経営学者から話が聴ける非常に興味深い機会であった。講義では、輸出入共にEU諸国に依存する英国の状況、今後の対EU貿易協定交渉で想定される妥結案や各案が及ぼす同国経済への負のインパクト、離脱支持層が多かった地域や学歴レベル等の情報が示された。概して、データを背景にBrexitをポピュリズムが生んだ過ちとして主張した内容であったと受け止める。我が国も外国人労働者の受け入れや貿易自由化をどこまで推進していくのか、英国の事例は他人事でなく、当講義で学んだ内容を起点に英国の今後を注視していきたい。

  2. Innovation
    Cranfield大学のDr Abdelkader Aoufi による「Strategic Innovation and Customer Focus」をテーマにした講義を体験し、海外MBAのカリキュラムを肌で感じさせて頂いた。特に激変するビジネス環境では、事業戦略・市場戦略・それらを実行させるInnovationの必要性、そのプロセスを導くAgile Developmentの重要性についてRapid Prototyping Activityを通して学ぶことが出来ました。日々の講義で得た学びをベースに、海外の異なるケース事例を取り上げた講義に参加することで実践力が養われたこと、グローバルにおいても企業が抱える課題には共通項があり、問題の捉え方や解決策を導くアプローチ方法は身に付けた知識が大きく生かされたことを実感し原点回帰する機会となりました。

Kobeプレゼンテーション
  1. 大学紹介
    神戸大学のプレゼンの一番手としてリーダーチームによる神戸大学の紹介を行いました。日本の文化、伝統と今のトレンド紹介、そして古くから栄えた貿易港である神戸の歴史、その繁栄の証である異人館街などの紹介と、そこに根付いた日本の経営学発祥の地である神戸大学並びにMBAコースについて説明を行い、私たちがどのような場で、どのように学んでいるか紹介を行いました。日本になじみがない学生が多い中、興味を持って聞いてもらえたと感じています。

  2. カルビー
    私たちは、カルビー元会長松本晃氏の経営改革を題材に英語で発表を行いました。その中で、カルビーの主力商品である「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」は日本では有名であるものの、今回我々の発表を聞いて下さるクランフィールド大学の学生は知らない可能性が高いということで、わざわざ日本からそれらの商品を持っていき、それをプレゼンテーション中に配りました。
    結果的に、カルビーの商品をその場で食べたクランフィールド大学の学生からは「おいしい」と好評をもらうことができ、また日本を代表する企業であるカルビー社や、私たちの研究対象であった松本晃氏の功績を良い形でお伝えできたのではないかと思います。英語でのプレゼンテーションがあるということで、イギリスに行く前から非常に緊張していましたが、振り返ると非常に良い経験になったと思います。これからも積極的にチャレンジすることを忘れずにいようと思います。

  3. スポーツ
    プレゼンテーションテーマを「スポーツ」とした我がチームはUKで収益性の高い「プレミアリーグ」にフォーカスし、日本のJリーグと比較することによって経営的知見を得た。ただ、RSTの目的は経営的知見を得ることだけでなく、普段日本では触れることの少ない、英語を使ったコミュニケーション、カンファレンス、プレゼンテーションなどを行い、グローバル人材の基礎を築くことである理解していた。そのため、7人で結成された我がチームではできるだけ多くのメンバーが役割分担をし、プレゼンテーションを行う機会を創出した。結果、短いパートとはなったが、多くのメンバーがグローバルパーソンおよび神戸大MBA生の前で自身の英語を披露することで、グローバル人材へのきっかけに自信がついたと感じる。グローバルで活躍したいと考えている方、これから神戸大学MBAを目指される方にとって、RSTは大変貴重な機会ですので、是非チャレンジしてみてください。

  4. Buaisou
    日本の伝統産業をテーマとして“藍染”の歴史、産業構造、製品などを発表しました。企業事例として徳島県から世界に藍染のジーンズや服などを展開しているBUAISO Inc.を取り上げて藍製品やその製造工程を紹介。伝統産業において如何に「企業として生き残っていくか」、そして、如何に「次世代へ伝統産業を守り、繋げていくか」という視点でプレゼンを行いました。発表では事例企業か製造している高級ジーンズとユニクロジーンズを比較し、値段当てクイズを行ったときは海外MBA生の想像した値段と全く異なっていたことから会場が非常に盛り上がり、そこから活発な議論になったことは印象に残っています。自分たちの発表が彼らの興味を惹きつけ評価されたことは、とても素晴らしい経験でした。

ケンブリッジ大学散策
  1. Cambridge University
    詩人テニスン・哲学者ベーコンの他、多くの首相・ノーベル賞受賞者を輩出したケンブリッジ大学を周りました。昨年クランフィールド大を退官されたディビット教授も合流して下さいました。ゴシック建築で美しいキングスカレッジ、ニュートンのリンゴの木があるトリニティカレッジ、天気が良ければもっと美しいだろうと眺めた「ため息橋」や「数学橋」、ケム川の静かな流れ・・・石畳を歩けば本を抱えた学生達が行き交い、掲げられたサインを見るとそれはトムソンやマックスウェルの研究室だったりします。街中にはクリックとワトソンが議論したパブ「イーグル」もあり、こんな環境が今も世界をリードしているのだと知的好奇心を掻き立てられ、研究の世界にどっぷり浸かりたくなるような訪問でした。

 

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