神戸大学MBAから生まれた「二刀流」の研究者

石井淳蔵先生(神戸大学名誉教授)

 

社会人が大学院で学ぶという気運は乏しかった30年前、神戸大学MBAの発足は画期的なことだった。そこには、今に引き継がれる2つのイノベーションがあった。

一つは、当時主流であった独立大学院方式を採用しなかったことだ。MBAコースと学者育成のPHDコースとが併存する道を選んだのだが、文科省はその方式をなかなか認めようとはしなかった。

もう一つのイノベーションは、さらに全日制ではなく夜・土日開講制を採用したことだ。「2年間、朝から晩まで必死に勉強してやっと卒業できるのが大学院。神戸はえらいお手軽やね」と他の大学の先生からはよく皮肉を言われた。

結果的に、六甲台では昼間学部・夜間学部・PHD大学院・MBA大学院の4つのコースが同時に運営されることになった。また、土日ともなると大学は休業で、MBAコースの授業を担当する教員は、六甲台正門の守衛さんからカギをもらって建物や教室のカギを開けてやってくる学生を待つことにもなった。食堂も休みで、教員も学生も全員、弁当持ち込みになった。それも今は楽しい思い出だ。

この2つのイノベーションのエンジン役となったのは、「理論と実践の融合」の理念だ。現実に、実践派のMBAと理論派のPHDの学生の間で交流が生まれた。その交流の中で、「研究することの面白さ」を学んだMBA生がいた。そしてその中から、後期課程へ進学し研究者の道を歩む人も出てきた。実践世界と研究世界を共に手の内に入れた「二刀流の研究者」が神戸のMBA制度の中で生まれたのだ。彼らはその後も意欲的に研究を進め、今では各校で経営学教育の主軸の教員となって活躍している。

MBA生とPHD生の間での交流を期待してはいたものの、「研究オンリーのPHD生が現実のビジネスに触れる機会が増える」というメリットを主に考えていた。ビジネスからきたMBA生が、学説史や抽象的理論モデルなどビジネスに直接関わることのない研究に関心をもつとは思えなかった。それだけに、MBA教育の中での二刀流の研究者の出現は私にとっては一番のうれしい誤算となった。

 

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