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実証分析のススメ

保田 隆明

 自分自身が社会人大学院で勉強をした際に痛感したことは、自分がいかに仕事現場でワンパターンな思考になっていたか、ということである。多くの社会人は、職場では常に新たな提案を行ったり、問題解決に取り組んだりしている。しかし、それら提案や問題解決手法のほとんどは、それまでどこかで活用したことのあるものの組み合わせであることが多く、全くの新たなアイデアで勝負することはほとんどない。その理由は、仕事現場では次々と新たな課題が発生するため、なるべく効率的に「処理」する必要があるからだ。しかし、ひとたび頭が処理モードに入ると、深く考えなくなる。大きく失敗をする可能性は低くなろうが、ブレークスルーも生まれないし、自身のキャリアアップを考える上でも成長曲線は緩やかになってしまう。そんなことに薄々気づく人たちが社会人大学院の門を叩くのである。

 私自身が社会人大学院時代に受けた様々な授業の中で、自分はこんなこともやらずにクライアントに提案書を持って行っていたのか、と思い知らされたのは統計的手法による実証分析である。企業の企業価値向上のための財務戦略を提案するというのが当時の自分自身の仕事内容であったが、提案内容は当時の株式市場の状況や投資家からの評価などから自分たちが勝手にベストだと考える内容を提案していた。本来は、どういう企業であれば株式発行時に株価が上昇するのか、買収した会社のうち、どういう企業だとその後株価が上がるのかなど、過去の類似案件を統計的に分析し、自身の提案に含めるべきである。過去データは膨大にあるわけなので、それらを統計的に分析してやれば、こういう企業では、こういう戦略を取ると株価はどうなる、という一つの傾向をデータとして示してやることが可能だ。そういう基本的なことを行わず、「今、市場はこんな状況ですから、いいですよ」という、たぶんに定性的な、もしくは、表面的には理論的に見えても中身は伴っていない提案を行っていた。

 前置きが長くなったが、統計的な分析手法を理解し、マスターすることができれば、過去データから傾向と対策を取りやすくなる。気温が何度以上になるとビールは売れ行きが伸びるのかなど、そういうことも簡単に過去データで分析可能だ。よりイメージをもっていただくために、以下の書籍を紹介したい。

 「学力の経済学」(中室牧子)

 2015年によく売れた本なので、すでにお読みの方も多いと思うが、子供の教育に効果のある施策とない施策を論じるとき、現場経験が長い人の意見がまかり通りやすくなる。しかし、その人が勤務していた学校の環境は、ほかの学校に比べると一般的でないかもしれない。本来は、ある施策を取ったたくさんの事例(学校)が、その施策を取っていないたくさんの事例(学校)に比べて、教育において効果を上げたかどうかを統計的に検証する必要がある。同書では、統計的な分析手法を用いれば、多くの物事が客観的に分析可能であり、適切な判断をくだしやすいことを紹介してくれている。統計的な分析手法を用いると聞くと、どうしても医療現場での薬の効果検証というようなものを想像するが、教育現場ですら活用可能なのであれば、読者は自分の職域、業界でも取り入れることが可能だろうな、と思うに違いない。

もっとも、統計はこの数年はこちらの書籍 「統計学が最強の学問である」(西内啓)や、ビッグデータの影響によりブーム的になっている側面もある。しかし、実証分析が可能となれば、職場で自分の立てる仮説が、過去データではどうだったかということをある程度検証しうる。

 具体的に統計を統計学として理解し、ツールとして使っていくようになりたい、という社会人にとっては、手っ取り早く、そして、簡単に理解したいであろう。そういう場合は、以下の3冊がおすすめである。

まずこの本で、統計学の基本を学ぶ。
 「完全独習 統計学入門」(小島寛之)

 次に、回帰分析について、この本で学ぶ。マンガのテイストは好みが分かれるが、これ以上ない分かりやすさを追求している。
 「マンガで分かる統計学 回帰分析編」(高橋信)

そして、もし統計ソフトを用いて統計的な分析をしたいと思えば、こちら。
 「Stataによるデータ分析入門 第2版 経済分析の基礎からパネル・データ分析まで」(松浦寿幸)

以上、実証分析のススメでした。

Copyright © 2016, 保田 隆明