神戸大学MBA

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2009年度テーマプロジェクト発表会
 

2010年1月9日(土)

新春の1月9日、六甲台において、神戸大学MBAプログラムのテーマプロジェクト研究の最終発表会を行いました。12チームの20分の発表と10分の質疑応答、6名の教員による審査と順位づけという設定で、緊張感の強い、充実した一日でした。研究テーマは企業と社会にインパクトの大きいものが多く、フィールド調査にも深いものが見受けられました。プロジェクト研究のテーマ設定では、少し背伸びをしてチャレンジングなものを置き、チームで難題を克服することが期待されています。フルタイムの仕事もするという時間の制約の中、自分の普段の世界以外のフィールドで感性を研ぎ澄まし、多様なバックグラウンドを持つチームメートと上下関係無しに、喧々諤々の議論をまさに戦わすという“emotional roller coaster” を体験し、ぎりぎりの精神・肉体状態でこの日を迎えた人も多かったようです。テーマプロジェクト研究に真剣に取り組んでいただけて、担当教員として感謝いたします。ぎりぎりの状態に自分を置いてしか学べないことがあると理解してください。研究発表も洗練されたものが多く、半数のチームのどれが金賞受賞でもおかしくないほどの接戦で、3チームが同じ最高得点獲得という予期せぬ事態も発生しました。日本の企業の明日は、この人たちに託すべしというメッセージを神戸大学の外に発信したいと思います。


以下に、発表順に研究テーマとケース企業名(略称)を挙げてみます。

  • 『タブーの破壊と市場創造?ブルーオーシャン市場の探索方法?』(コンドマニア、ティア、ライフネット、ヤマト運輸)
  • 『大企業における新規事業創出?組織階層別の役割?』(ツヴァイ、セコム、富士フィルム)
  • 『顧客満足における「なじみ」の位置づけ』(吹上デンキ、コープこうべ、リコー関西)
  • 『企業の可変性(Flexibility)とは??変態する企業のプロセスを知る?』(阿波製紙、三益半導体工業、ミツカワ)
  • 『社会的企業の研究』 (ビッグイシュー、ギアリンクス、マザーハウス)
  • 『21世紀の農業ビジネスについて』(弓削牧場、トップリバー、蔵尾ポーク、直売所)
  • 『変わった制度で社員のやる気を引き出している企業の研究』(面白法人カヤック、天彦産業、樹研工業)
  • 『不況業界で生まれた新しいブランド』(桝一市村酒造場、池内タオル、田中産業、ラウンドワン)
  • 『日本企業に本気で生かすためのダイバーシティマネジメント』(プロアシスト、クララオンライン、P&G・ジャパン、日本イーライリリー、帝人、南武、原田左官工業所)
  • 『小さな世界企業の作り方?中堅中小企業がグローバル展開をするための処方箋?』(品川化工、イシダ、重光産業)
  • 『医療法人の価値を最大化するビジネスモデルの検討』(急性期・総合医療センター、ハイメディック大阪、岸和田盈進会病院)
  • 『消費財メーカーによる中間流通の機能設計』(カルビー、誠商会、P&G・ジャパン、岡山四国共和、花王、花王カスタマーマーケティング)
  • テーマプロジェクト研究のテーマは、自主的に組織された学生チームにより、自主的に設定されたものです。また、対象となるケース企業も学生により自主的に発見、選定されました。過去4ヶ月にわたり、社会人MBAが、グループで練り上げた研究成果といえます。


    上位3チームが同点ということで、6人の審査委員より最多の最高点を得たチームを金賞とするというルールを急遽つくり、『変わった制度で社員のやる気を引き出している企業の研究』を優勝としました。本研究は、サイコロ給、ハツラツ・ヒラメキ委員会、先着順採用というような不可解な制度を採用する企業を取り上げ、なぜ普通の会社では合理性のない人事制度が、これらの会社では大事なのかについての考察を試みました。変わった制度とそれに象徴される経営者の心と熱い思いが、語り伝えられるような象徴的な物語を生み、社員の共感を喚起し、経営者と社員の価値観を合致させ、社員のやる気を引き出すという因果関係がケーススタディを通じて伝えられました。成果主義と能率給というような制度が、特に、経営者の心が介在しない形でひとり歩きする会社とは、対極的な位置にあるということが発表からわかりました。ハツラツと働ける会社にするということの真の意味を考えさせる感性豊かな深い発表でした。

    銀賞は金賞と同点の2チームに授与されました。『社会的企業の研究』では、ホームレスの自立支援のしくみとしてのビックイシュー、南米日系移民の貧困問題と南米での農業経営を組み合わせたギアリンクス、バングラディシュでのバック製造・販売に従事するマザーハウスのケース調査を通じて、社会的企業ベンチャーの組織形成、資金調達、成長についての解明が試みられました。成功している社会的企業では、経済合理性はとりあえず置いておき、社会性を一途に追求することにより、コミュニティを形成し、そのコミュニティが利益をもたらし、その利益が経済合理性につながり、さらなる社会性の追及に向けられるというサイクルが廻っているということが見いだされました。創始者の熱い思いとそれに共鳴した経営能力のある人物、出資者、従業員、顧客の輪が形成されるプロセスが明らかにされたと思います。このチームは、マザーハウスのイベントにも参加するというアクション・リサーチ型の研究手法もとりました。企業の存在価値と経済合理性、人が企業で働くことの意味というような聴衆の琴線をはじくような発表でした。

    もう一つの銀賞は、『消費財メーカーによる中間流通の機能設計』に授与されました。カルビー、P&G、花王というような消費財製造業者が卸にどのような機能を担ってもらっているかという、企業間連携とサプライチェーンマネジメントの構造設計についての研究です。裏を取る形で、メーカーと卸の両方についてフィールド調査を行い、仕組みの合理性についての仮説設定と検証を行いました。大企業の企業間関係についての実証研究ですので、説得力のある検証をすることが困難なところはあるのですが、研究の論理性と新規性が高い評価につながったと思います。

    上位3チーム以外でも、『21世紀の農業ビジネス』、『小さな世界企業の作り方』、『タブーの破壊と市場創造』、『大企業における新規事業創出』の研究が高い評価を得ました。ケース研究として高い水準を達成しているので、評価者によっては、どれを優勝としてもおかしくはないと思います。これらの研究では、非常に広範なフィールド調査を実施しており、20分間の発表の枠を超えた内容を持っていたように思います。40分の発表時間があれば、優勝チームは変わっていたと言えます。

    私の個人的な評価では、『顧客満足における「なじみ」の位置づけ』も実践に重要な示唆をもつ研究だと思います。日本の家電メーカーが顧客との物理的な接点における「なじみ」というような関係性を失ったことの意味を再考する必要があると思います。また、『ダイバーシティマネジメント』の研究も、難しいトピックですが、中間発表以降に進捗をみせ、有意義な研究成果への光明が見えてきた感があります。

    ビジネススクールで倫理や、社会性の問題を教えるカリキュラムになっているかということが専門職大学院の評価基準で問われています。今回のテーマプロジェクト研究では、学生さんがフィールド調査でたどりついた経営者、マネジャーの皆様の中に、熱い、心ある方々が多く、本発表会でも、経営者の思い、従業員の元気、社会に役に立つこと、日本で最近失われたことで取り戻さなければならないこと等が取り上げられ、検討されたと思います。倫理や、社会性、或いは、企業観は、教員が教えることではないようです。学生に自主的な研究の場を提供することにより、学生が体験し、内省し、学ぶことで体得されます。これが、神戸大学のビジネススクールのプロジェクト研究の目指すところでしょう。

    今回のテーマプロジェクト研究で分かったこと、おぼろげに見えてきたことがたくさんあります。MBAの学生さんには、修士論文研究でさらに、研究を深めていって、今度は、研究成果を論文にまとめて世に問うということをしていただきたい。さらに、わかったことで、役に立ちそうなことは、実践していただきたいと思います。

    最後になりましたが、フィールド調査研究に協力していただきました企業、経営者、従業員の皆様に厚く御礼を申し上げます。また、中間発表では、神戸大学MBAの先輩であるMBAフェローの皆様にそれぞれのテーマについて貴重なコメントをいただきましたことに御礼を申し上げます。

    (文責:松尾博文)

    ※2009年度 金賞チームのインタビューはこちら