2008年度ケースプロジェクト発表会 |
2008年8月9日(土)
今年度のテーマは、多少我田引水になりますが、リロケーションに据えました。すなわち、企業が寿命の尽きた事業の立地に見切りを付け、新しい事業立地に乗り換えた事例に着目し、転地のパターンをあぶり出そうというわけです。このテーマに適う事例を5人前後のチームで一つ発掘し、そのケースを徹底的に分析するのがケースプロジェクトになります。それに対して、テーマの選定から入り、チームを自己組織化し、複数のケースを比較研究するのがテーマプロジェクトです。こちらは今年度が初めての試みになりますが、ケースプロジェクトと修士論文の間に横たわるギャップがこれで埋まると期待しています。 さて、ケースプロジェクトでは、例年ケースの選定が勝敗を大きく左右します。テーマの面白さを浮き立たせるようなケースを発掘したチームは、それだけで優位に立つわけです。今年度のテーマ、リロケーションでは、まずは明らかに転地の事実があるというケースを探し出すことがポイントになりました。この点でリードを奪ったのは、大手企業では ブラザー工業(ミシンからファックスへ) の2チーム、ベンチャー企業では 林原(水飴からトレハロースへ) の6チームでした。これらは、いずれも技術が変わり、市場も変わっているので、華麗なる転地と言ってよいかと思います。 他のチームの ワタベウェディング(貸衣装から挙式プロデュースへ) フタを開けてみると、金賞に輝いたのはスタジオアリス、同点決戦で敗れて銀賞に落ち着いたのは林原、そして銅賞に滑り込んだのはACレモンという結果になりました。僅差でメダルは逃したものの、他にNPC、山中産業、スター精密が入賞圏内に入りました。
ケースの選定に関しては、確かに転地と呼べば呼べるけれど、他の切り口から説明した方がわかりやすいケースはどうしても不利になりました。たとえば靴の2ケースはいずれも前方垂直統合をしたことになっており、敢えて転地の事例として取り上げるにふさわしいかを自問する必要があったかもしれません。それに加えて、審査員の大多数が既に熟知している知名度の高いケースは、辛い評点を呼び込みがちだったように思います。そういうケースを取り上げたチームは、オーディエンスが既に知っていることを想定したうえで、新しい解釈を意識して打ち出すべきでしたが、そこまで至りませんでした。 最後にテーマについて言及すると、転地が成功する陰には、このままでは駄目だと思い立つ人が必ずいることを再確認できました。ただし、最初にあるのは現状否定の確信だけで、着地する先については大まかなイメージしかない場合が大半です。なかにはNPCやACレモンのように、転地先が向こうから転がり込んでくる事例もあるくらいです。そうなると、本当のポイントは持っていない能力を獲得するための工夫にあるのかもしれません。そこに切り込んだチームは少なかったのですが、私としてはワタベウェディングの研究や遠藤製作所の研究が参考になりました。 総体として見れば、面白い未知のケースが次から次へと飛び出すことになり、神戸のMBAに集う学生のパワーを感じ取るには十分でした。パワーと言えば、どのチームも遠足さながらに取材を敢行し、自らの手を汚すリサーチを実体験できたようで、MBAプログラムへの導入としては今年も大成功と断言してよいでしょう。このあとテーマプロジェクト研究にどうつながっていくのか、一抹の不安とワクワクする気持ちを抑えつつ、見守っていきたいと思います。 (文責:三品和広) |