神戸大学MBA

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◇第三回加護野忠男論文賞選考結果について◇
 
受賞論文
金賞
 光森進氏
  『知識創造要因のマネジメントに関する実証研究
  -研究プロジェクトにおける役割機能の分担と「場」の構築-』
(PDF1.49MB)
 
銀賞
 池田隆博氏
  『リーダーシップのストーリーテリング(語り部)機能に関する研究』
 

銅賞

 高村健一氏
  『食品製造業の競争優位に関する実証研究 ~国際優良企業の事例分析に基づいて~』
 
 *要約は2011年7月発行の『ビジネス・インサイト』に掲載される予定です。
 

■講評

三つの最優秀論文をこれから発表しますが、審査委員会では、意見が分かれました。正直なところ、三つの論文とも素晴らしいのですが、三つとも欠点があるというのが実際の議論で、どれが金賞になってもよかった、逆に言うとどれが銅賞になってもよかったという論文です。
このように評価が分かれるということは良い論文の証拠なのです。皆が良いという論文にろくな論文はありません。本当に良い本はベストセラーにはなりません。私の本が売れないのはそのためです。意見が分かれるのが社会科学や経営学の場合は当然かもしれないと思いますので、皆さんの論文はそれだけ素晴らしかったということですが、審査の講評ですので、私の方から一言ずつ、これから入ってこられる皆さん方の参考になるようなコメントをしたいと思います。

まず、金賞の光森氏の論文ですが、タイトルがとても難しいのです。「知識創造要因のマネジメントに関する実証研究」です。わかりやすく言うと、医薬の研究開発を成功させるためには何が必要かというテーマの論文です。この論文は、ご自身の会社の研究開発がうまくいったプロジェクトを分析して書かれました。
私は、この論文が素晴らしいということを認めた上で、ひとつ不満を言いたいと思います。この論文は、初めのところの問題意識がとても良いのです。どうしてその問題意識をもっと追究しなかったのか。その問題意識とは、医薬の世界ではこのごろ、研究開発にお金をかけ、しかも優れた人々を雇っている大手の企業があまり成果を生み出せておらず、ベンチャー企業の方が面白い化合物を生み出し、独創的な医薬を作っているというものです。皆さんの業界でもそうだと思いますが、大体だめな企業に限って「うちは技術力があるのにだめだ」と言うのですが、だめな理由は簡単なのです。技術力があるからなのです。そこをもっときっちりと研究していけば、とても面白い結論が導けたのではないかと思います。ただ、分析の中身の部分は説得力があって、実務家でも確かにその通りだとおっしゃるような迫力はあったと思います。そういう意味ではベストの論文です。

第2番目の論文は、池田氏の「リーダーシップのストーリーテリング(語り部)機能に関する研究」です。最近『ストーリーとしての競争戦略』という本を学者が書いて注目を集めていますが、その本よりは良いことが書いてあります。素晴らしい修士論文です。目のつけどころが大変面白く、実際の調査にどれほどのエネルギーをかけられたかということもよくわかります。経営者はどんなストーリーを語るかということを経営者との長時間のインタビューを通じて収集し、そのストーリーはどういう意味でインパクトを持つのかを分析された素晴らしい論文です。
ただ、言葉は上手に使わなければいけません。経営者が「語り部」だったら困るのですよね。語り部とは、語ることを商売にしていらっしゃる方です。経営者は語るという手段しか持っていませんが、語ることだけが仕事ではなく、それ以外にもあるということを考えれば、「語り部」という言葉を「story teller」の日本語訳として使うのは適切ではなかったのではないかという感じがします。ここをもうちょっと考えていただきたかったというのが第1点です。
もうひとつの不満は、この分野について面白いことを言っている日本の学者が随分たくさんいます。それから、今までのMBAの論文の中でも、このことについて書かれた論文がいくつかあると思います。皆さんには、ぜひ先輩たちの修士論文をよく読んでほしいという感じがします。今までの論文でどこまでがわかっていて、どこがわかっていないのかを調べていく、学者の論文をしっかりと読んで本を勉強するということも大事なのですが、皆さんたちの先輩の方が、学者よりもよほど物事を深く考えています。ですから、皆さんたちの先輩の論文をきっちり読んでいくということです。
大学の図書館というのは本当に知識の宝庫なのです。皆さんたちの先輩が実務をもとにしながら深く考えた修士論文が毎年蓄積されていっています。出光佐三氏は、この大学が生んだ最大の企業家だと思うのですが、出光氏は、この大学で論文を書かれました。若松港(現・北九州港)で実際に調査をし、若松港における石炭取引についての卒業論文です。この論文の最後で、出光氏は、石炭の時代は終わったということで、石油に注目されているのです。それをそのまま実際に事業として作り出されていったのが出光氏のすごさだと思います。皆さんも修士論文で、新しい時代を見据えてそれを基にしながら実践していっていただくという、この大学のもうひとつのモデルを新たに作っていっていただきたいと思います。

第3番目の高村氏の論文は、「食品製造業の競争優位に関する実証研究」です。私自身は、この論文がベストだと思っていたのです。ところが、あとのお二人の実務の方が、この論文も良いけれど、ほかにも良い論文があると言われるので納得しました。この論文が良いのは、日本の食品会社は欧米の食品会社と比べると利益率が低い、なぜ低いのかということを、企業の多角化、そして国際化という観点から比較検討し、データをきっちり集めてそれを基に分析して、わからないところは実際の代表的な日本とヨーロッパとアジアの食品メーカー3社の事例分析をしながら検討しているからです。面白い論文です。私は皆さんに、こういう身近なところで問題を見つけて、それをきっちりデータを分析しながら考えていくという論文をぜひ書いてほしいと思います。
ただ、非常に良い分析をしているのですが、読んだ直後に、違うだろうと思いました。確かに言っておられることは納得できるのです。日本の場合に食品会社がもうからないのは、やはり大手のスーパーに買いたたかれているところがあるからではないかと思います。それに対するバーゲニング力を欧米のメーカーはどのように構築していったかについてもう少し議論していけば、非常に面白い話になっていったのではないかと思いました。
そういう意味では、皆さんの論文では、これこそ足元でよく考えてみたら不思議だなと思う現象を取り上げ、それについて今まで学者はどのような議論をしていたのだろう、私はどう考えていけばよいのだろうということを議論していただく。それが皆さんのような実務経験を持った人が書く論文の素晴らしさだと思います。

お聞きになったことはないとは思いますが、昔、シュマーレンバッハというドイツの経営学者がいました。彼はユダヤ人だったので第二次世界大戦中にナチスに追われたのですが、弟子たちが彼を戦争が終わるまでかくまいました。ドイツ人の大部分は、基礎学問の方が応用学問より上だと思っていたのですね。それに対してシュマーレンバッハは、違う、経営学のような応用学問の方が上なのだと言いました。上か下かという議論をするのがドイツ人的なのですが、彼が言ったのは、学術的に論理的な整合性があるかどうか、データと付合するかどうか、これさえ確認すれば基礎学問の命題は正しいかどうかが検証でき、基礎学問のテストは易しい。それに対して経営学の命題は、いくら学術的に正しくても、実務家が納得してそれを実践できなければ意味がない、実務家の実践によってテストされるという意味で非常に厳しいものであるということです。
それに耐えうる理論を作っていくのは、純粋に学問的な論文を書くよりずっと難しいと言っているのですが、まさにこれが、皆さんがこれから取り組まなければならないテーマなのですね。学者は、学者仲間のロジックで妥当性をチェックできるのですが、皆さんが書く修士論文は、実務の人々になるほど、「それなら私はそれでやってみましょう」というぐらいの説得力を持たないとだめなのです。ぜひそういう観点から身近な問題を取り上げて、皆さんの会社の中枢の人々が「それならわれわれもこうしよう」と言うような提言になるようにしていただきたいと思います。

(文責:加護野忠男)

 

■審査委員

株式会社東洋経済新報社 出版局シニアエディター 大貫英範氏
シャープ株式会社 相談役 辻晴雄氏  (五十音順)
神戸大学大学院経営学研究科 加護野忠男
神戸大学大学院経営学研究科スタッフ

 

 

◆授賞式の様子

        

 

     

 

    

 【左から】
 池田隆博氏(銀賞)、光森進氏(金賞)、加護野忠男教授、高村健一氏(銅賞)

 受賞おめでとうございます!

 
2010年度第一次選考結果はこちら