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ベルウェザー企業の決算発表

北川教央

 ベルウェザー(bellwether)という言葉を辞書で調べると、「鈴付き羊」と説明されている。鈴の付いた羊は、群れを先導する役割を担っている。それゆえ、その羊の動きに注目することで群れ全体の動向を予想することができるのだという。ここから転じて、ベルウェザー企業(bellwether firm)は、一般に経済動向の先行指標としての役割を担う企業と定義される。具体的に、どのような企業がベルウェザー企業に該当するのかについては、論者によって見解の分かれるところであるが、たとえば航空貨物輸送業の大手であるフェデックス社は、米国におけるベルウェザー企業の代表例とされる(日経産業新聞2009年3月27日)。企業を顧客に持つ貨物輸送業では、輸送量が企業の取引量を反映する側面が少なからずある。したがって、景気が改善(悪化)して企業の平均的な取引量が増加(減少)した場合には、その影響が輸送業の企業業績に表れると考えられるわけである。

 このような特徴から、ベルウェザー企業の決算情報には、他の企業のそれにはない、景気動向に関する適時情報が含まれていると主張されることがある。この主張は本当に妥当であろうか。近年、この問題に取り組んだ財務会計分野の論文が散見されるようになった(詳しくはBonsall, Bozanic, and Fischer, 2013などを参照)。紙面の都合上、この問題について精緻な考察を行うことはできないが、ここではごく簡単に、先ほど例に挙げたフェデックス社の業績動向と、業績発表時における市場インデックスの動向を観察してみたい。もしも、フェデックス社の企業業績が景気動向に関する適時情報を市場に伝達するものであるならば、当社の業績改善(悪化)はグッド・ニュース(バッド・ニュース)として市場全体に波及し、市場全体の株価が正(負)の反応を示すであろう。したがって、両者には正の相関関係が観察されると予想される。

 まずは、フェデックス社の業績動向から確認してみよう。2010年から2014年までの5年間に注目すると、フェデックス社の年次の潜在株式調整後1株当たり当期利益(Diluted EPS)は、2013年を除き、すべての年で前年の数値を上回る好業績となっている。具体的に、2010年、2011年、2012年、および2014年の潜在株式調整後1株当たり当期利益は、前年比でそれぞれ$3.45(1112.90%)、$0.81(21.54%)、$1.84(40.26%)、および$1.84(37.47%)の増加であった。一方、2013年のそれは$1.5(23.4%)の減少である。

 このことを踏まえ、次に米国の市場インデックスの動向を確認してみよう。ここでは、フェデックス社の利益発表日を中心とした3日間におけるS&P500指数の累積変動を観察する。すると、フェデックス社の1株当たり利益が増加した2010年、2011年、2012年、および2014年は、S&P500指数がそれぞれ、2.42%、0.42%、0.96%、および1.12%上昇している。一方、1株当たり利益の減少が発表された2013年には、3.11%の下落が観察された。これは、フェデックス社の業績動向と符合した動きであるように見える。

 もちろん、これは視覚的な印象に過ぎないから、この結果をもって何かを結論づけることは早計であるだろう。とはいえ、この傾向は、フェデックス社の決算発表が景気動向に関する適時情報を市場に伝達しているのかもしれない、という期待を抱かせる意味で、個人的には興味深い。

 従来から、会計情報が将来業績の予測に有用であることは、多くの実証研究によって明らかにされてきた。しかし、これらの研究はあくまで、決算発表を行った企業自身の将来業績予測という文脈で会計情報の有用性を議論している。このコラムで取り上げた話題は、会計情報が、それを公表した企業自身の業績動向のみならず、市場全体の経済動向を予測するうえでも有用である可能性を示唆している点で、興味深い含意がある。会計情報は、これまで想定されていたよりも広い意味で有用であるかもしれないのである。

引用文献
Bonsall, S. B., Z., Bozanic, and P. E. Fischer. 2013. What do management earnings forecasts convey about the macroeconomy? Journal of Accounting Research 51(2): 225-266.

Copyright © 2015, 北川教央