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顧客満足度

原田勉

 

顧客満足度(Customer Satisfaction)という言葉は、多くの企業でCS部門が設置されていることからもわかるように、いまや広く社会に定着している。しかしながら、その意味について、たとえば企業のCS担当者に尋ねても明確な回答が返ってくることは少ない。せいぜいのところ、CSとは顧客が満足すること、という直訳的な回答がある程度である。しかし、CSとは、学術的には疑いのないほど明快な用語であり、さらにいえば、この言葉は、経済学でいうCS(Consumer Surplus)、すなわち、消費者余剰と同じ意味になる。経営学者のなかでさえ、この消費者余剰としてのCSと顧客満足度としてのCSとが同じであるという点を指摘する人は少ない。けれども、両者は基本的に同じ概念であり、同じ概念を異なった言葉で表現しているにすぎない。明らかに顧客満足度としてのCSは後から提唱された概念であり、消費者余剰としてのCSに先住権はある。とすれば、そもそも顧客満足度というさも新しげな概念を提唱することは、単に混乱をもたらすだけであり、百害あって一利なし、といえば言い過ぎだろうか。

まず、先住権のある消費者余剰について説明しよう。消費者余剰とは、ある財に対して消費者が感じる価値から価格を控除したものである。たとえば、ネットオークションでブランド物のバッグが出品されていて、それが前から欲しかった品だとしよう。上限で5万円まで出していいと思っていたのに対し、1万円で落札できたとしたら、この消費者が感じるお得感は、5万円−1万円=4万円となる。これが消費者余剰と呼ばれるものである。経済学の場合、消費者は一人に限定していないため、そのバッグに対してどれくらいの価値評価をする人が分布しているのかを問題にする。これが需要曲線と言われるものである。たとえば、7万円の価値を認める人が1人、6万円が3人、5万円が5人いたとする。そして、このバッグの価格が4万円だとすると、それを4万円で買って得した人の価値総額は、

(7−4)×1+(6−4)×3+(5−4)×5=14万円

となる。

一方、経営学でいう顧客満足度とは、すべての顧客の価値総額を対象にしているのではなく、どちらかといえば、ターゲットとする顧客におけるお得感を問題にしている。たとえば、ターゲット顧客の価値額が6万円だとすれば、顧客満足度は、6−4=2万円、という計算になる。消費者余剰といってしまえば、需要曲線の存在を前提としなければならないのに対して、顧客満足度は、ターゲットとする顧客層の価値さえ把握できればよい。実務の世界では、消費者の価値分布を示す需要曲線の全体像を正確に把握することはほぼ不可能に近いだろう。そうだとしても、その一部だけの情報、すなわち、ターゲット顧客の価値がわかれば消費者余剰を議論することができる。つまり、顧客満足度とは消費者余剰の部分を指しており、それをあえてわかりやすく顧客満足度という言葉で表現されていると好意的に解釈することもできるだろう。

このように顧客満足度と消費者余剰は、対象とする顧客層が、全消費者なのか、自社の顧客のターゲット層なのか、という点で異なっているが、基本的には同じ考え方である。要するに、CSとは、経営学であろうが経済学であろうが、価値から価格を差し引いたお得感を示しているのである。したがって、いかに価値が高くても、価格がそれ以上に高ければCSはマイナスとなる。

CSを高めるためには、価値を高めるか、価格を下げるか、どちらかしかない。前者が差別化戦略、後者がコストリーダーシップ戦略と呼ばれる。これが競争戦略の基本型となる。実は、戦略の立脚点は、このCSに求められるのである。

Copyright © 2012, 原田勉