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地域分割と上下分離

水谷文俊

 

電力、ガス、鉄道、水道、情報通信、道路などに代表されるように、多くのネットワーク型の公益事業というのは、その費用特性から独占的な供給が保証されるかわりに、高額な料金設定や過少供給などの独占の弊害を防止するために、政府による規制が行われてきた。しかし、近年の公益事業を中心とする規制改革においては、独占的な既存企業の組織を改編し、市場における競争的な環境の整備によって、企業の効率を向上させることが行われるようになってきた。この既存企業の組織改編の方法が、一般に「構造分離」と呼ばれている。特に構造分離においては、既存の組織の非競争分野と競争分野をいかに分離し、競争環境を導入していくのかということが重要なポイントである。一般に、構造分離のアプローチには、「所有分離」、「運営分離」、「水平分離」、「垂直分離」、「機能分離」、「会計分離」など様々な方式がある。ここでは、企業組織の構造をどのように分離するかという点に着目し、日本の公益事業改革の特徴に関係するものとして「地域分割」と「上下分離」について解説する。

構造分離でよく実施されている方式の一つが、「水平分離」である。この方式は、既存企業を2社以上の企業に分割し、企業間の競争を働かせる方式である。一般に公益事業は独占的な供給によって規模の効果を働かせることを意図しているため、大きな組織形態であることが多い。しかしあまりにも大きい組織であると効率化の誘因が働かないという問題が生じることになる。このような問題点を回避するため、一つの企業を複数の企業に分割することに競争を促すというものが、この方式である。この「水平分離」の一つの形態が「地域分割」である。これは企業の分割の方法を、地理的な範囲に応じて分割するというものである。

「地域分割」の例として、1987年の日本国鉄の民営化の際に生まれたJR東日本やJR西日本などの6つの旅客鉄道会社が挙げられる。その他にも通信会社(NTT)や高速道路会社の民営化にもこの方法が実施されている。この「地域分割」方式は、市場が地域ごとに分かれているため、一般の企業が直面しているような、市場における直接的な競争は期待できない。そのため、政府は共通の指標を設定し、その指標によって各企業のパフォーマンスを評価するという間接的な競争を促すような規制方式(ヤードスティック規制)が採用されている。

「水平分離」と並んで良く用いられる方式が、「垂直分離」である。この方式は、公益事業における生産から消費者へのサービス供給までのプロセスを、いくつかの機能に分割するというものである。たとえば、電力事業では、「発電・送電・配電・小売り」に、鉄道事業においては、「鉄道軌道・列車運行」というような形に分けることができる。この中で、自然独占性が強く働くような部門とそうで無い部門に分割するというのが、前述の方式でよく行われている。この例においては、電力事業の「送電・配電」部門、鉄道事業の「鉄道軌道」部門が、自然独占性が強いと考えられている部門である。この自然独占性の強い部門を他の部門から切り離すことにより、競争環境を導入するというものである。

鉄道事業の例では、鉄道運行(サービス供給)会社と鉄道軌道(インフラストラクチャー)会社に分割するのが一般的である。鉄道軌道部門は自然独占性が強い分野であるので、これを切り離すことで、鉄道運行部門に競争を導入することが可能となる。この例のように、統括していた事業をサービス供給会社とインフラストラクチャー供給会社に分割することを「上下分離」と呼んでいる。組織上別会社に分割するということが基本的な方式ではあるが、実際には、組織分割までに至っていない場合もある。鉄道事業を例にとると、一つの会社組織は維持しながらも、鉄道運行部門と鉄道軌道部門の費用を、会計上区分するという「会計分離」という方法がそれにあたる。

日本の鉄道事業に関しては、JR旅客会社や大手私鉄の例からわかるように、鉄道運行部門と鉄道軌道部門が別会社として分離していないので、「上下一体」が基本となっている。「上下分離」が行われているのは、JR旅客会社の保有する鉄道軌道を利用して貨物輸送サービスを提供しているJR貨物など限られたものとなっている。それに対して、EUでは会計上の分離や運営上の分離までを含めて「上下分離」が基本となっている。鉄道事業においては、この上下分離政策をより統一的に進めるか否かが今大きな議論となっている。上下分離によって上部における運行分野においては競争環境が整えられるという利点があるものの、上部企業と下部企業の間の調整の費用がより大きくなるのではないかという点が指摘されている。

このように、いくつかの構造分離のアプローチが提案されてはいるものの、その利点や欠点を実際のデータをもとに検証していくことが必要である。

 
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