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利益の品質

北川教央

 

利益数値を意思決定に利用する際、情報利用者は「水準」だけでなく「品質」についても考慮すべきであるという議論がある。たとえば、当期純利益がともに100万円のA社とB社があったとする。「水準」で評価する限り両社の100万円は同等に評価できるが、果たしてその評価は妥当であろうか。仮に、A社は300万円の現金売上を、B社は300万円の掛売上を行っていたとしよう。このとき、売上高は同額であってもB社には代金回収に伴うリスクが生じることになる。そこで、B社の利益にはこのようなリスクを反映した評価が求められる。また、経営者は資金調達を有利に達成することなどを意図して、利益捻出の動機を持つことがある。仮にB社の経営者がこのような利益捻出を行っていたとすれば、B社の利益には業績とは関係のない経営者の調整分が含まれることになる。経営者の調整分は、割引いて評価する必要があるだろう。以上のように、同じ100万円の利益であっても、その内容を詳細に検討すれば評価は異なる可能性がある。このような会計利益の内容的な差異は、しばしば「利益の品質」という表現で議論される。

文献を紐解くと、利益の品質に関する議論は古くから企業評価の実務のなかで行われていたようであり、概念それ自体は決して新しいものではないことが分かる。しかし2000年以降、EnronやWorld Com、カネボウなどの不正会計問題が発覚したことを契機として、会計情報の信頼性を問い直す動きが活発になった。この流れを受け、利益の品質への注目度は著しく高まったように思われる。近年では、学術論文も数多く公表され、利益の品質の規定要因や経済的帰結に関する検証が進んでいる。

では、利益の品質はどのように定量評価すればよいのか。利益の品質は抽象的な概念であるために、提案されている測定尺度も多岐にわたる。桜井(2009)は、そのなかから内外の学会で一般に支持を得ている測定尺度として、以下の4つを紹介している。すなわち、(1)価値関連性(value relevance):利益の動向と株価変動の間で統計的な関連性が観察されるかに関する尺度、(2)適時性(timeliness)および保守性(conservatism):企業活動の実態を利益が適時にとらえているかの尺度、(3)持続性(persistence)、予測可能性(predictability)、および変動性(variability):利益が時系列的に安定または持続するかの尺度、(4)会計発生高(accruals):利益に資金的裏付けがあるかに関する尺度、という4つがそれである。

さらに近年の研究に基づけば、利益の品質に関するシグナルとして、いくつかの項目が役立つ可能性がある。例として以下のような項目を挙げておこう。(1)株式所有構造:たとえば、金融機関はモニタリング機能を有しており、経営者の行動を規律づけると考えられるので、金融機関による株式保有比率が高い企業ほど、利益の品質は改善するであろう。(2)内部統制報告書の開示内容:2009年3月期の決算から、日本でも内部統制報告書の提出が上場企業に課されるようになった。内部統制に不備があり、財務諸表に一定の金額を上回る虚偽記載や、重大な虚偽記載におよぶ可能性がある場合、「重要な欠陥」が存在すると判定され、その旨が内部統制報告書で開示される。「重要な欠陥」の開示企業は、内部統制が機能を果たしておらず、それゆえに利益の品質は低いかもしれない。(3)財務諸表の修正再表示:財務諸表の修正再表示が多い企業は、同じく内部統制が十分に機能していない可能性があるので、利益の品質も低いことが予想される。(4)監査に関する諸要因:監査法人の規模や監査報酬、訴訟リスクは、監査人の指導力や監査のモチベーションに影響を及ぼし、その結果として利益の品質を左右することが報告されている。(5)会計基準設定方法の国際的差異:細則主義(会計処理を詳細に規定する設定方法)の国は、原則主義(大まかな原理原則のみを規定する設定方法)の国よりも経営者のとりうる裁量の幅が小さく、利益の品質が高い可能性がある。

会計利益は、投資家の株式投資や債権者の与信、税務当局の課税など、企業をとりまく様々な利害関係者の意思決定に不可欠な重要情報である。しかし、利益の品質に関する評価を誤れば、間違った意思決定につながるおそれがある。上述のような知見に基づき、情報利用者は利益の品質を見抜き、適切な意思決定を行う必要がある。

引用文献
桜井久勝「会計制度設計の実証的評価規準」国民経済雑誌、第200巻第5号(2009年11月)、1-16頁。

 
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