自治体の財政破綻

山本辰久

お盆明け頃から、「関空二期工事の予算要求」、「三位一体改革の行方」、あるいは「大阪府や大阪市の財政状況が云々」など、国や地方自治体の予算・財政に関する報道が目立っている。来年度の予算編成作業が、年末に向けて本格化する時期に入ったからだ。

このところ特に関西地域の地方自治体では、財政が破綻寸前と言われ続けている。いかに自由な財源が減っているか、大阪府下の市町村の普通建設事業費の総額は、年間5,000億円程度と、最近5年間ほどで2,500億円以上減少していることが象徴している。

ところで、本来倒産しないはずの自治体が「破綻する」というのは、どのような状況を指して言うのだろうか?納税者として、あるいは地域の企業として、関心をお持ちかと思うので、大阪府を事例として取り上げつつ、少し整理してみたい。

まず、しばしば財政破綻の引き合いに出されるのが、「民間企業の倒産に該当する、財政再建団体(以下、「再建団体」)に転落すること」というものがある。難しく言えば、地方財政再建促進特別措置法に基づき、当該自治体議会の議決と総務省の承認を経て指定される。ところがこの制度、財政赤字が概ね2割を超えた場合といった目安はあるが、実は、明確な適用基準は案外存在しないのだ。

また、再建団体に指定されると、住民にとって何か変化が生じるのだろうか。確かに、あらゆる歳出が国の管理下に置かれ、サービスの低下、料金の値上げや給与カットが予想されるが、住民にはさして変化は実感出来ないだろう。なぜなら、サービス削減や公立学校の学費値上げ等は、多くの自治体で今でも提案されているのだ。何も変わらないのなら、「企業の倒産に該当する」とは、ちょっと言い過ぎではないか。

再建団体への転落は、むしろ、メンツ(現在再建団体は全国一つも無い)や、政策決定に関与しづらくなるという点で、行政や議会にとってのインパクトがむしろ大きいのではないだろうか。余談であるが、政治的な無駄遣いが出来なくなるので転落する方がむしろ良いとの声もあり、これには一理あると言わざるを得ない。

では、再建団体への転落以外に、破綻の定義となりそうなものを探してみよう。自治体の財政状況を定量的に示すため、様々な指標が開発されている。「地方債残高」や「経常収支比率(支出に占める経常経費の割合)」などはよく耳にするところだ。また、財源不足を補うため基金(貯金)の取り崩しがどれだけ進んでいるかも重要な視点であり、債務償還可能年数(仮に経常経費以外の全額を債務償還に投入し続けたら、何年で返済できるか)という指標も最近新たに注目されている。しかし、「この指標がこの水準を超えたらイコール破綻」というものは一つも存在しない。

となると、自治体の破綻って一体何?ということになってしまうが、前述の諸指標も含めて持続可能な状況かを総合的に捉えて判断すべき、というのがとりあえずの結論である。

逆に言えば、財政再建団体への転落防止を財政改革の大きな名目にするのは、動機がやや不純であり、回避すべき破綻とは何か、本質的に理解していない証拠だと言える。

大阪府が行財政計画の見直しを最近発表したが、再建団体がいよいよ視野に入って来たことが最大の理由と見られる。既に数年前から、減債基金という貯金に手を付け続け、債務償還可能年数も増えており、とても持続出来るような状況とは思えなかった。

地方自治体が現在の厳しい財政状態から脱出できるか否かは、首長、議会、行政全体が、真の危機感のもと、避けるべき破綻状態を自ら定義し、それをどう乗り切るかにかかっている。逆に、そうでない自治体は、一気に「破綻」への道筋を進むであろう。

確かに厳しい環境ではあるが、関西の地方自治体においても、適切な対応が行われれば、財政再建の見込みはまだ十分にあると筆者は考えている。

「適切な対応」とは具体的に何か、一つ例を挙げるとすれば、人件費の削減にはまだまだ余地が有ろう。件の大阪府行財政計画でも、年間歳出3兆円のうち1兆円近くに上る人件費について、今後7年間での削減予定は10%に満たず、民間感覚ではとても「削減」とは呼べない水準だ。大阪府に限らず、人件費抑制に真剣に取り組んでいる自治体はまだまだ少数であるが、この「聖域」に踏み込むだけで財政再建への道筋がかなり変わるだろう。

また、どの具体事業を実施し、どれを中止するかについても、さらに吟味することが不可欠だ。なぜ行政が行うのか、あるいは、なぜ財政の厳しい今実施するのか、という素朴な疑問に答えられない巨大事業は、まだまだ残っている。

企業が東京に出て行くからとか、福祉の経費負担が増えているから、とかということを、財政再建が進まない言い訳にしているヒマはないのである。

(注)本稿においては、読みやすさに配慮し、一部の財政用語や法令用語を簡略化していることをお断りしておく。

Copyright © 2004, 山本辰久

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