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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

 助教授  與三野禎倫

 

知的創造化社会においては、知的資本をいかに利用して企業価値を高めるか、また、その実態をいかに認識し、測定し、その結果を報告するかが喫緊の課題をなしています。

わが国においても、国家戦略として「知的財産立国」の実現−高付加価値経済への転換がスローガンに掲げられ、この政策的課題を実現する手段として、まず2004年1月に『知的財産情報開示指針−特許・技術情報の任意開示による企業と市場の相互理解に向けて』(経済産業省)が端緒として公表されました。ここではわが国の強みである特許・研究開発といった技術情報に焦点がおかれた開示が指向されておりました。しかしながら、2005年10月には、より広範な知的資本情報全般の任意開示の指針である『知的資本経営のガイドライン』(経済産業省)が公表され、企業価値の源泉となる知的資本情報を企業のビジネスモデルと一体化して開示することが目指されております。ここでは投資者は、知的資本に関する情報、すなわち、株主や債権者を含む資本市場との良好な関係、顧客の満足度などの関係資本(relational capital)、経営者の能力、従業員の満足度・ヤル気などの人的資本(human capital)、および革新的な組織風土、企業の研究開発能力、社内的情報伝達ネットワークの整備などの構造資本(structural capital)などに関する情報の開示によって、企業のリスクと将来業績をより適切に評価することが可能になるとされております。そこで、このような知的資本の開示と評価について深く考えるために参考となる図書を、以下に3冊紹介いたします。3冊とも、知的資本について内部のマネジメントと外部へのレポーティングを連携して鋭く考察している非常に興味深い良書です。

リーフ・エドビンソン/マイケル・S・マローン著(高橋透訳)『インテレクチュアル・キャピタル』日本能率協会マネジメントセンター、1999年。

(寸評)本書は、スカンディア社リーフ・エドビンソン氏と、『バーチャル・コーポレーション』を著したビジネスジャーナリストのマイケル・S・マローン氏がいちはやく知的資本経営の重要性に着目し、知的資本の測定可能な指標化をマネジメントの実践化を通して明確化しようと共同執筆したものです。北欧諸国では、後述するアメリカやわが国とは異なり、知的資本情報を独立した知的資本報告書という形で開示する実務が生成し、この実践がMERITUM報告書やデンマーク知的資本報告書といったガイドラインに結実していますが、本書はまさしくその実務の実践の場としてのスカンディア社(スウェーデンに本社をおく北欧最大の金融保険サービスグループ)がモデルとされております。本書を通じて、真の企業価値を把握するためには、まず企業が保有する見えざる資産(インタンジブルズ)に焦点を当てる必要があり、つぎにこれらを顧客・従業員・株主等の企業外部のステークホルダーが企業を評価する視点に立って体系化する必要があり、最後にこの測定可能な指標化をマネジメントの実践を通して明確化する必要があることを実感できるでしょう。

 

バルーク・レブ著(広瀬義州/桜井久勝監訳)『ブランドの経営と会計−インタンジブルズ』東洋経済新報社、2002年。

(寸評)本書は、アメリカのブルッキングス研究所が、ニューヨーク大学のバルーク・レブ教授に、インタンジブルズに関する情報をステークホルダーに提供するためには、いかに会計および財務ディスクロージャー・ルールを再構築すべきかを研究委託した際の報告書を取り纏めたものです。アメリカでは、さきの知的資本がとくにインタンジブルズと呼ばれていることが特徴的です。ここでは北欧諸国とは対照的に、資本市場における投資家を主たるステークホルダーとして位置づけ、いかに研究開発投資、従業員訓練、IT、ブランド強化、オンライン活動等のインタンジブルズへの投資における期待収益率を測定するか、またいかにその収益率を物的資産および金融資産の期待収益率と比較するかに焦点が当てられています。本書を通じて、インタンジブルズに関する自発的な情報の開示とともに、現行の会計とディスクロージャーのシステムの変革が必要であること、とりわけそこから生み出される将来収益が帰属可能であり他の資産と技術的に識別可能であるインタンジブルズを資産に含めることができるような資産認識に関する現行ルールの大幅な拡張が必要であることが実感できるでしょう。

 

古賀智敏著『知的資産の会計−マネジメントと測定・開示のインターラクション』東洋経済新報社、2005年。

(寸評) 本書は、ナレッジ型会計はいかにあるべきかを理論的、制度的かつ実証的な側面から総合的・体系的に考察し、新たな会計の理論と制度の構築に向けて1つの方向性を提示した、わが国で最初の知的資産の会計に関する図書です。さきの2冊からわかるように、わが国においても特許権等の法的に保護された産業財産権のみならず、ひろく経営者の質、従業員の ナレッジ・技術・ノウハウ等を含めた知的資本こそが企業価値を生み出す源泉をなすという考え方が浸透しており、その開示の必要性が提唱されている点が理解できます。本書はさらに会計と経営学、ファイナンスとのインターラクションを目指そうと試みている点が画期的かつ特徴的です。すなわち本書は、マネジメント(入口)―会計(本体)―ファイナンス(出口)の三位一体のもとで隣接研究分野との相互作用が図られているのです。本書を通じて、知的資本の認識・測定・開示は、ナレッジマネジメントによる企業価値の創造というゴールの達成を図ろうとするものであること、知的資本のレポーティングはその最も重要なマネジメント・ツールをなすとともに、その成果をひろく企業外部のステークホルダーにアピールするツールをなすものであることが実感できるでしょう。

( Copyright © , 2006, 與三野禎倫)