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経営学と公共哲学

鈴木竜太

 公共哲学と呼ばれる学問分野を皆さんはご存知でしょうか。公共哲学とは、広辞苑によれば「市民的な連帯や共感、批判的な相互の討論にもとづいて公共性の蘇生をめざし、学際的な観点に立って、人々に社会的な活動への参加や貢献を呼びかけようとする実践的な哲学」と説明される学問分野です。もう少し簡単に言うと、公共哲学は、善き社会を目指す実践的な学問です。単純に公共哲学の考え方を説明すると誤解を生むかもしれませんが、あえて誤解を承知で説明しますと、公共哲学が考える善き社会とは、皆が秩序を持ち、協力しあう公共性を持ち、一方で個人に自由と自律がある社会です。これはナチスドイツや戦時中の日本などは全体主義と呼ばれる公共性はあるが、自由と自律が厳しく制限される社会でしたし、自由主義の社会(リバタリアニズム)は自由と自律が重んじられる代わりに、いわゆる勝ち組と負け組が明確になる社会です。公共哲学はこの2つの立場とは異なる道を選ぼうという考え方を持っています。山脇直司著「公共哲学とは何か」は、アメリカで発達してきた公共哲学の考え方を古典的な公共哲学から紹介しつつ、日本の近現代史を公共哲学の視点から眺め、単に西洋の考え方を紹介するだけでなく、日本や東洋の思想との関連から公共哲学を紹介しています。

 この公共哲学の中で、特にコミュニティに着目したのがコミュニタリアニズムという考え方です。何人かの主唱者がいますが、有名な1人がアミタイ・エチオーニです。「新しい黄金律:『善き社会』を実現するためのコミュニタリアン宣言」では、コミュニタリアニズムに基づく善き社会についての提言、善きコミュニティを作ることで公共性と自律のバランスのとれた社会を実現しようという主張を行っています。実はアミタイ・エチオーニは、組織論の名著『組織の社会学的分析』の著者でもあり、組織論に関する著書を出す研究者が研究をすすめ、このような分野で第一人者になり議論をリードしていることに驚きを覚えました。

 さて、2冊の公共哲学とその中のコミュニタリアニズムの書籍をご紹介しましたが、一見経営学の分野とはほど遠い研究ですが、公共哲学の研究は経営学の研究にいくつかの共通点と示唆を与えてくれるように思いました。1つは、自由主義や全体主義あるいはコミュニタリアニズムという考え方は、組織における人の管理の考え方に通じます。社会や国家と企業組織では労働契約という点で大きく異なりますが、組織の中でどれだけ秩序を守って恊働してもらうか、あるいは自律的に行動して活力のある組織にするかという点では、全体主義的なマネジメント、自由主義的なマネジメント、あるいはバランスをとったコミュニタリアニズム的なマネジメントというのは十分に考えられます。また、公共哲学は国家や社会がどうあるべきか、何が善き社会なのか、という問いからスタートします。経営管理論は個人のやる気や成果に着目するか、あるいは古典的な研究であれば効率に結びつくかという観点でマネジメントは考えられてきました。しかし多様性が増す中での公平性、あるいは社会的存在としての企業といった観点が示されている現在、善き企業組織とは何かという問いを最初に置き、その善き組織を実現する方法を考えるという手順は経営管理を考える上で、とても有効な考え方ではないかと感じます。 さらに言えば、公共哲学は学際的で実践的な学問領域です。つまり特定のものの見方によった分析的、批評的ではなく、様々な異なるものの見方から、公共性を社会にもたらすように実践していこうとする学問領域です。研究はときにタコツボ的になりがちですが、実践に向かって多様な学問領域の知見を活かしていこうという姿勢は経営学や経営実践にも活かせる考え方ではないでしょうか。

 いろいろな哲学が登場するので、やや取っ付きにくい分野ではありますが、いろいろと共通部分があるというのが私の印象です。そして社会や国家というものについて考えるというのは壮大ですが、視野を広げるにも、少し違った視点を得るためにもお勧めします。

Copyright © 2014, 鈴木竜太