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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

経営学分野 准教授 鈴木健嗣

 

ファイナンスと制度、法律

日本のファイナンスについて学習をすすめる上で、重要ではあるが見逃しがち(もしくは敬遠しがち)な分野がある。それは、日本のファイナンスを取り巻く固有の金融制度や法律に関する分野である。私は、こうした知識を得ることで、日本のファイナンスに関する理解はより一層深まると考えている。

一昔前に旧ライブドアは個人株主を増やすため等から株式を100に分割する財務行動とったことは記憶に新しいだろう。この株式分割は、株主に対する株式割当の財務的手段の1つであるが、実は日本には株式分割以外に既存の株主に対し株式を割り当てる方法として、無償交付、株式配当などもある。米国では資本金や剰余金の額を変えずに単に議決権の数を増やすことを”Stock split”、剰余金を資本に組み入れることにより既存株主に追加で株式を無償交付することを”Stock dividend”という。”Stock split”や”Stock dividend”は若干異なる経済的効果が指摘されている。実は日本では、米国的な意味における”Stock split”、”Stock dividend”は株式分割、無償交付のいずれの方法でも実現できてしまう。このように日本固有の制度や特徴を理解をしなければ、日本や米国における財務行動の経済的効果を誤って認識することにもつながるだろう。

こうした様々な日本固有の制度や法律に直面した時に、私が真っ先に手に取る本は

大垣尚司(2010)『金融と法 ―企業ファイナンス入門―』有斐閣。

である。この本は法律のバッググラウンドをもつ著者が、ファイナンスの経済的な効果に鑑み、ファイナンスにおけるさまざまな視点から日本固有の制度や法律を説明している。金融法に関する本の多くは、法律の条文解釈に終始する場合が多いが、この本のいいところはその経済的な背景をもとに説明を行っている点にある。

章の構成も特徴的で、まずはじめに、第1章に金融の基本概念としてファイナンスの現在価値やリスクの考え方の説明がなされ、第2章で経済学的な情報の問題や金融仲介機関の役割、第3章で最適資本構成などの一般的なファイナンスの話を説明する。次に、第4章以降、株式発行、負債発行に際し、様々な財務的手段、契約、金融商品の説明とその法的根拠について記載されている。さらには、銀行のみならず、シンジケート団、証券会社、保険会社、投資ファンドなどにおける契約の説明やその背景が非常に詳細に明記している。著者の実務的な経験からも、より実務に近い視点での説明も多くなされているのも特徴としてあげられるであろう。

著者は本書の記述は法律が中心となっており、法学部や法科大学院における副読本として推奨しているが、私はこの本を日本の制度や法律について分からないときの『辞書』として愛読している。日本固有の制度や法律などにつまづいた時にはこの本をお勧めする。

(Copyright © , 2011, 鈴木健嗣)