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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書
財務会計講座 助教授  鈴木一水
 

「『会計』という仕事にどのようなイメージをもっていますか?薄暗い部屋の片隅で、黙って帳簿や伝票をめくりながら電卓をたたいたりソロバンを弾いている。そんなシーンが思い浮かぶとしたら、それは間違いです。会計は、企業などの組織の経営者や管理者が組織の効率を改善したり経営戦略をねったりするとき、あるいは投資家や取引先や従業員といった利害関係者が組織とどのような関係を結ぶか(中略)を決定するときに、判断材料となる情報をまとめ、報告し、利用するシステムです。」

この文章は、神戸大学経営学部が学部学生を対象とした会計プロフェッショナル育成プログラムを開設した際に作成された案内パンフレットの冒頭に、私が執筆したものである。しかし、これは学部学生だけではなく、大学院生さらには現に実務に携わっている社会人にも伝えたいメッセージでもある。

会計とは、企業に代表される組織の活動や関連する出来事を認識・測定・記録・分類・集計して、その結果を利害関係者に報告するシステムである。つまり会計の本質は、お金の計算ではなく、企業の経営実態を情報にまとめ利用することにある。会計によって信頼できる役立つ情報が提供され利用されれば、組織は効率的に運営されることになる。後で紹介する稲盛和夫氏の言葉を借りると、経営を飛行機の操縦に例えるならば、会計データはコックピットにある計器盤に表われる数値に相当することになる。そして、計器盤は経営者たる機長に、刻々と変わる機体の高度、速度、姿勢、方向を正確かつ即時に示すことができなければならない。そのような計器盤がなければ、今どこを飛んでいるのかわからないわけだから、まともな操縦などできるはずがない。しかし稲盛氏によると、経営実態を反映させる手段であるはずの会計が、日本では、事業をしていく過程で発生したお金や物にまつわる伝票処理を行い、集計する、後追いの仕事でしかないと考えられており、経営者や経営幹部から軽視されてきた。それどころか、後述の木村剛氏によると、墜落しているにもかかわらず、あたかも飛行機が順調に飛行しているかのように計器盤を自分に都合のいいように操作してきた経営者もいるという。

では、日本の経営者は計器を見ずして何を見ていたのか?ヨコを見ていたのである。横並び意識を反映して、とりあえず落ちこぼれることなく業界の動きについていけば、高度経済成長期では十分であった。価格と市場シェアが業界内で暗黙のうちに固定され、業界全体として成長していくときには、社内の財政状態や経営成績などはどうでもよく、むしろ社外・業界内人脈こそが重視された。経営者にとって大事なのは人脈と経験と勘であり、それらを補完するのが横並びによる安心感であった。こうして年功序列を基礎とした営業重視・経理軽視という日本企業における昇進システムが定着したのである。会計のわからない経営者が輩出するのもむべなるかな、である。

しかし、経済成長が見込まれなくなり、勝ち組企業と負け組企業がはっきりし、勝ち残るためにはオンリーワン企業を目指さざるを得なくなると、ヨコを見るだけでは不十分で、まず自社の得意分野・弱点を認識し、事業領域の選択と経営資源の集中を適時に行わなければならなくなった。そのためには、まず自社の実態を把握し、次に競争相手の実態を探り、選択と集中を迅速かつ的確に行わなければならない。このような意思決定に役立つ情報を提供し利用するのが会計というシステムなのである。ここまで説明してくれば、会計が経理担当者だけにとっての狭い専門技術ではなく、経営にとって不可欠な情報ツールあるいは言語であることがわかってもらえると思う。米国の主要ビジネススクールでは、専攻にかかわらず会計学は必修とされている。当然である(ただし、細かく煩わしい練習作業を求められる会計の授業は、トップ・エグゼクティブを目ざす学生からは、やはり不評らしい。どこの国も同じである。しかし、面白くなくても、必要なものは身につけなければならないのである)。

わが国でもやっと会計の重要性が一般にも認知されるようになってきたのか、最近、会計に関連する本が書店の一般コーナーに多く並ぶようになり、そのいくつかはベストセラーにもなっている。会計関連図書がごく限られた専門家のための文献として専門書の棚にひっそりと並べられていた一昔前と比べると、隔世の感を禁じえない。その先鞭をつけたのが下に紹介する稲盛和夫氏の著書であり、最近では木村剛氏の著書であろう。

稲盛和夫『稲盛和夫の実学――経営と会計』
日本経済新聞社1998年

(寸評)本書は、一代で会社を立ち上げ日本を代表する企業にまで育て上げた経営者が、経営者としての実体験から体得した会計の本質とそこに働く原理を綴ったものである。といっても、会計の制度や技術的側面を扱ったものではなく、著者の考える経営哲学を会計的視点から表現したものである。

いうまでもなく、経営者は自社の経営の実態を正確に把握したうえで、的確な経営判断を下さなければならない。著者は長年にわたる経営者としての経験から、会計が経営の中枢をなすと認識するに至った。ここに至るまでの経緯、そして本質追及、キャッシュベース経営、1対1対応、筋肉質経営、完璧主義、ダブルチェック、採算向上、ガラス張り経営といった著者の考える経営の要諦や原理原則を支える会計の役立ちが、本書では具体的に記述されている。

本書は、経営者にとっての会計の役立ちを知るためにまず読んでいただきたい1冊である。そして、「会計がわからんで経営ができるか」という著者の実体験に裏打ちされた叫びを感じ取っていただきたい。

 

木村剛『「会計戦略」の発想法』日本実業出版社2003年

(寸評)本書は、歴史的に会計が株式会社という存在に対して果たしてきた機能を十分理解したうえで、会計の発想法を駆使して経営をどう考えるべきかという視座に立って、アカウンタビリティを果たすための「外部会計」と、これを正しく機能させるための「内部会計」を構成するリスク管理、内部統制および内部監査を、豊富な実例を挙げて検討している。私たちの生活している資本主義経済システムが株式会社という制度によって支えられている以上、株式会社制度と密接に関連する会計の発想法を身につけることは、経営のみならず経済問題全体を理解する上で必要不可欠であることを、著者は繰り返し強調している。

木村氏の慧眼は、会計を単なる情報の処理・伝達システムと捉えるのではなく、企業経営ひいては資本主義経済に対する制御装置と位置づけている点に現れている。会計が、企業を取り巻く利害関係者の権利と責任およびそれらの履行状況を明確にすることによって、企業や社会をコントロールする機能を果たすプロセスに関する理論的分析については、寸評者の共訳によるシャム・サンダー著『会計とコントロールの理論−契約理論に基づく会計学入門−』を参照していただきたい(ただし、難解である)。

 

金児昭『金児昭のやさしい会計実学 社長!1円の利益が大切です』
中経出版2004年

(寸評)「叩き上げの経理マン」を自称する著者が、38年間の体験から綴った経営現場での生きた会計の話である。前述の稲盛氏や木村氏の著書と同様に、著者も「会計そのものが経営」という信念のもと、社長こそが会社の中でもっとも会計を学ぶべきであると警鐘を鳴らしている。

本書では、経営者の立場からの会計数字のチェック・ポイント、M&A、会社における経理・財務部門の位置づけとCFOに期待される役割、およびIR対策等が具体的に述べられている。著者の「会計は人間を幸せにするためにある」という含蓄に富んだ言葉は、前述の稲盛氏や木村氏の著書にも共通する信念である。

会計というのは株主総会や決算公告で報告される計算書類や有価証券報告書に掲載される財務諸表を作成するためだけに行われているのではない。営業担当者が得意先の信用状況を調べるときにも、購買担当者が納入業者の供給能力や供給価格を決定する際にも、製造担当者が原価管理を行うにも、中間管理職が予算の編成と管理を行うにも、とにかく会計の知識は必要不可欠である。経営者ではなく中間管理職を対象とした会計書として、次の本がある。

 

千代田邦夫『課長の会計道』中央経済社2004年

(寸評)本書はタイトルの示すとおり課長、とくに経理や財務担当以外の課長をターゲットとした「常識レベルの会計学」の本である。とくに資金の活用、財務諸表の見方、および会計を通じた部下の指導に重点が置かれている。

経営理念にまで言及することは控え、外部報告会計の基本事項の技術的な解説に重点を置いている点では、いわゆる会計学のテキストに近い。しかし、実務に密着した記述には説得力があるだけでなく、経営管理に役立つ多くの示唆を含んでいる。課長だけではなく、会計に疎い経営者にもぜひオススメの1冊である。

 

 

寸評者の著書

  • 『日本的企業会計の形成過程』
    中央経済社1994年(共著)
  • 『会計とコントロールの理論−契約理論に基づく会計学入門−』
    (シャム・サンダー著)勁草書房1998年(共訳)
  • 『連結会計入門 第3版』
    中央経済社2004年(共著)
( Copyright © , 2004 鈴木一水)